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2018年2月7日

「アメリカではランニングが生活の一部」。東北風土マラソン発起人が語る、一流ビジネスマンとランニングの関係性

 国内のみならず、海外からも大勢の人々が集まるマラソン大会『東北風土マラソン』。その発起人である竹川隆司さんは、IT系ベンチャーを経営するトップビジネスパーソンでもあります。

 国際基督教大学を卒業後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAも取得されている竹川さん。30代からITを基軸にベンチャー企業を経営し、グローバルに活動されています。その反面、マラソン大会を運営するだけでなく、ランナーとして各地の大会に出場。そんな竹川さんに、ランニングとビジネスとの関わりについて伺いました。

アメリカはランニングが生活の一部として根付いている

 もともとアメリカを主要拠点として生活されていた竹川さんは、東北風土マラソンをキッカケに日本へ戻られました。その後、東北にもたびたび訪れながら、IT×教育を軸とした事業を手がけているそうです。

「2014年8月から、起業家支援などを行うIMPACT Japanのエグゼクティブディレクターとして活動していました。そこではカタールの復興支援基金による被災3県の起業支援として、宮城県仙台市にあるビジネス施設『INTILAQ東北イノベーションセンター』を立ち上げに関わりました。さらに同センター内における起業の第1号として私自身が株式会社zero to oneを設立し、代表取締役を務めています。このzero to oneは、AIやIoTなど先端ITの教育教材をオンライン中心に提供する事業を行う会社です」

 竹川さんがランニングを始めたのは2005年頃。当時ハーバード・ビジネス・スクールに通っていましたが、日本とアメリカではランニングの捉え方がまったく違うそうです。

「アメリカでは、走ることが生活の一部になっていますね。例えばチャールズ川沿いにはハーバード大学やボストン大学の人が、選手に限らずたくさん走っているんです。また、私の通っていたハーバード・ビジネス・スクールは出席にとても厳しく、ちゃんと出てクラスにコンストリビューションしているかを非常に重視します。でもボストンマラソンの翌日だけは、完走した人が指されないんですよ。仕方ないって。ランニングが、文化として認められているのだと思います」

 アメリカでは経営者にもランニングに取り組む人が多いとのこと。また、例えばチャリティランナーの捉え方も、日本とではまったく異なっていると言います。

「私は過去に2回、ニューヨークマラソンにチャリティランナーとして出場しました。ビジネススクール時代の友人がALS(筋萎縮性側索硬化症)を患い今でも病気と戦っているのですが、その支援の寄付集めのために走ったんです。大会事務局に公認されたNPOや財団などがあり、それら団体が専用のインターネットページを用意するなど寄付集めをサポートしてくれます。ただし、寄付が集まらなければ自分で払うわけです。日本の場合、チャリティランナーはどこか“高価なチケット”のような捉えられ方がありますよね。でもアメリカでは違っていて、寄付する人も例えばALSのために行っているなど、広い意味の寄付として目的が明確です。もちろん、その人を応援してあげようという気持ちもありますけどね」

 明確な目的のために寄付すること、そして、そのためにチャリティランナーとして走ることは、それ自体がモチベーションにも繋がるのでしょう。確かに日本では、チャリティランナーとして走る方にお金持ちのようなイメージを持たれがちかもしれません。そんな文化の異なるアメリカでランニングを始めた竹川さんにとって、いったい走ることはどのような意味を持つのでしょうか。

ランニングは考えを深める自分だけの時間

 まずは竹川さんに、ランニングを続ける理由を伺いました。

「世界中どこへ行っても、Tシャツとシューズさえあればできる手軽さは魅力ですね。あと、ランニングって終わりがないじゃありませんか。だって、ベストが4時間そこそこの私が全力でフルマラソンを走ったって、世界記録までまだ2時間も差があるわけですから。その世界記録だって、数年後にはまた更新されているかもしれない。でも同じ人間が走っているので、その差は私にとって伸び代だと思っています。あとは、やっぱり美味しいものを食べたい。走っていると、罪の意識なく存分に食べられますからね」

 世界記録との差を“伸び代”と表現するところが、さすが視点が違うな……と感じました。しかし走ると罪悪感なく食べられるという点は、共感されるランナーが多いのではないでしょうか。そんな竹川さんは、主に週末を中心として走っているとのこと。しかも外ではなく、スポーツジムがメインなのだそうです。

「トレッドミルって、まったく苦にならないんですよ。何か時間をかけて考えなきゃいけないことは、だいたいジムまで取っておきます。走りながら考えていると、なんだかいろんなアイデアが出てくるんです。何かに書き出しているわけではないので、まとまるわけではありませんけど。今の世の中って、ちょっと繋がり過ぎているじゃないですか。良い面もありますが、走るときは音楽やスマホ、テレビなど一切使わず、自分の時間を持つようにしています」

 走ることによる程よい疲労感も、思考を整理したりひらめきを得たりするのに良いのかもしれません。そして考え事をする場合、周囲を気にせずに済むトレッドミルは最適な環境なのではないでしょうか。何か行き詰まったときなどにランニングすると、走り終えた頃には前に進むヒントが得られている。竹川さんにとって、ランニングはビジネスを進めるうえで欠かせない一部と行っても過言ではないのかもしれません。

 日本とは異なる文化の国に長く身を置きながら、ランニングを楽しみとして取り組まれている竹川さん。グローバルな目線から見ても、ランニングはビジネスパーソンにとってさまざまなメリットを与えてくれるようです。まずはTシャツとシューズを揃え、外に駆け出してみてはいかがでしょうか。

[プロフィール]
竹川隆司(たけかわ・たかし)
1977年生まれ、神奈川県横須賀市出身。国際基督教大学、ハーバード・ビジネス・スクール卒業。ノムラ・インターナショナルplcなどの勤務、Asahi Net International, Inc.社長等を経て、現在は株式会社zero to oneの代表取締役を務める。東日本大震災をキッカケに活動拠点の中心をアメリカから日本へ戻し、東北風土マラソンを立ち上げ。発起人代表として運営に携わっている。
【HP】
https://zero2one.jp/company/
  
http://tohokumarathon.com/

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com

<Text&Photo:三河賢文>