2020年7月10日

「自分が運動すべき理由」が見つかる本『脳を鍛えるには運動しかない!』│スポーツがしたくなる今月の1冊

 学生時代は、よく「文武両道だ!」なんて言われました。文武とは、つまり勉強と運動のこと。社会人なら、勉強は仕事に置き換えて考えられるでしょう。しかしこの文武は、はたして切り離して別々に考えるべきことなのか。

 今回紹介する書籍『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(著者:ジョンJ.レイティ、エリック・ヘイガーマン/翻訳:野中香方子/出版:NHK出版)は、ひとつの答えを与えてくれるかもしれません。

著者のジョン・J・レイティはどんな人?

 著者であるジョン・J・レイティ氏は、ハーバード大学医学部で臨床精神医学准教授を務める医学博士。開業医として医療現場でも活躍しています。ADHDをはじめとした症例研究にも取り組んでおり、1998年以降、全米ベスト・ドクターに毎年選ばれている方です。

 そんなジョン・J・レイティ氏が、有酸素運動と脳の働きとの関係性について研究を行い、その結果をまとめたのが本著。タイトルの通り「運動によって脳は鍛えられる」ことについて、具体的研究やそのデータを踏まえながら、裏付けとなる理論が記されています。

誰にとっても興味深い“脳”というアプローチ

  運動を語るとき、多くの場合には『健康』がテーマに出されます。「運動すると痩せる」「運動すると免疫力が高まる」といったことは、おそらく耳にしたことがあるでしょう。そうなると、特に健康不安を抱えていない人にとって、運動の必要性はあまり伝わりません。また、勉強や仕事を優先する考えがあれば、限られた時間において運動は優先順位が低くなってしまいます。

しかし、運動することで、子どもの学力が向上するとしたら。あるいはストレスの軽減、障害予防などに繋がるとしたら。

 脳を鍛える、正常化するといったアプローチは、これまで見てきた運動関連の書籍の中でも斬新でしょう。しかし身体的な健康とは違った面で、多くの人に興味深いテーマと言えます。

 私は以前から脳と運動の関係に着目し、実際に子どもたち向けの朝運動教室を開催してきました。これは運動によって脳を活性化させようというものですが、本著を読むことでそれが確信に変わるとともに、まだまだ私自身が狭い範囲でのみ運動と脳との関係を考えていたことに気付かされています。「運動によって何が起きるのか」の詳細は本著の本質であるのでここでは触れませんが、少なくとも年齢問わず、誰に対しても「運動すべきだ」と言える根拠が詰まった1冊です。

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運動する理由を与えてくれる説得力の強さ

 運動が苦手、あるいは他にやることがあって運動どころではない。そんな方は、きっと多いはずです。しかし本著を読み進めると、どこかで「自分が運動すべき理由」を見つけられることでしょう。本著は単純に学力や仕事のスキルではなく、ストレスや精神的不安定さ、障害、あるいは加齢など、人が生きるうえで直面し得るさまざまな状況について、運動との関連性を述べています。

「今の自分にとって、本当に必要なのは運動だったのではないか」
「今抱いている課題は、運動が解決してくれるのではないか」
「運動することで自分は進化・成長できるのではないか」

 10章・345ページという枠組みの中で、そんな感情の湧き上がる内容に出会えるのではないかと思います。私はやはり子を持つ親として子どもたちの学習能力、そして両親の加齢という観点から、私が彼・彼女らに運動機会を与えていきたいと感じました。そして私自身もすでにマラソンなどのスポーツに取り組んでいるものの、その継続や関わり方について改めて考えさせられています。

 運動の持つ可能性、そして必要性について学ぶには、十分過ぎるほどの情報がまとめられた本著。今運動に興味のない方も含め、ぜひ一度手にとっていただきたい1冊です。

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。また、ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】https://www.run-writer.com

<Text:三河賢文/Photo:Getty Images>