テクノロジーが球速をアップさせる⁉ プロ野球やメジャーも注目するIoT野球ボール「Technical Pitch」とは
最新テクノロジーが搭載されたでデジタルグッズを使って運動スキルを向上させることはもはや当たり前の時代に突入しています。
「Technical Pitch」もそんなデジタルグッズのひとつ。野球の硬式球の中心部にセンサーを内蔵し、球速、回転数、球種を計測。スマートフォンと連動させて専用サーバー上でデータ解析できる画期的なIoT野球ボールなんです。
弾道計測器TRACKMAN(トラックマン)並のデータ解析ができる
「Technical Pitch」を開発したのはIT企業の株式会社アクロディア。加速度、角速度、磁気をそれぞれ計測する9軸センサーをボールに埋め込むことで、現在メジャーリーグやプロ野球チームで導入されている弾道計測器TRACKMAN(トラックマン)並のデータ解析を可能にしたそうです。
値段も維持費も高価なTRACKMANに対して「Technical Pitch」はボール球当たり1万9500円(税別)。最大球速200キロまで対応でき、投手の腕の振りの強さ、スピードを計測できるほか、システム上のグラフィックで投球再現が可能な機能も備えています。ボールは公式の野球ボールと同じサイズ、同じ重さで、内蔵されている電池で約1万回の投球が可能。
資金的に余裕がないアマチュアチームやプロを目指す学生らにとっても手軽にプロ並のシステムが導入でき、自身の投球分析や投球の改善に生かすこともできるんです。またプロの世界でも選手のトレーニング用だけでなく、スカウトマンたちもこのシステムには熱い視線を向けているそう。
「終速と初速の違いをいかに少なくするかがポイント」(元巨人・中村稔さん)
▲「Technical Pitch」発売記念記者発表会の様子
9月25日には、「Technical Pitch」発売記念記者発表会が開催され、同製品のアドバイザーを務める元巨人の中村稔さん、宮本和知さん、茨城ゴールデンゴールズの監督の片岡安祐美さんらが登壇しました。
中村さんは「良いピッチャーは回転数が良い。ボールを投げる際、終速と初速の違いをいかに少なくするかが課題。このボールを使用することで、将来的に回転数をいかに早くするかはもちろん、投手のコンディション管理や投手の育成方法も大きく変わっていくかもしれない」とコメント。
▲ボールを投げる宮本和知さん
また宮本さんは実際に会場でボールを投球。「僕らの時代は、目測でキレがあるなとか、ボールの筋や回転数を追っていたのですが、今はもう数字で計測できる時代になったんですね」と技術の進むスピードに驚いた様子でした。
「自分と他者の投球の違いが分かるようになる」(アクロディア堤社長)
会場には「Technical Pitch」を開発した株式会社アクロディア代表取締役社長の堤純也さんも登壇しており、イベント後にお話を伺うことができました。
―― 「Technical Pitch」を開発しようと思ったきっかけは何ですか?
「IoTという分野ではこれまでにもいろいろなものを手がけてきたんですけど、今度はスポーツをIoT化していこうと思ったんです。例えば、ボールの中にセンサーが入って、ボールの挙動がわかれば楽しいよねって。サッカーとかどうなんだろうって。いろいろと模索したり調べたりする中で、2年半くらい前に野球ボールの中にセンサーを入れてという企画をスタートさせました」
―― 野球以外のスポーツでもこのシステムはニーズが生まれるのではと思うのですが
「サッカーは他社が一度挑戦されたことはあります。でも、野球はなかったんです。TRACKMANという仕組みがメジャーで普及して日本にも入るかなというタイミングだったので、これからピッチャーの球のデータ化は需要があると見込んだんです。うちはそれをIoTの分野から開発していこう、と」
―― TRACKMANで計ったデータともほとんど差異がないと
「1%もズレがないんです。あれはレーダーの技術を使ったもの。球にレーダーを当てて網のゆがみで計るシステムなんですが、基本的にはスピードガンと同じ発想で外から計っています。うちはボールの中にセンサーを入れて、ボールの中から計るという違いがあります。ボールにセンサーを入れて、ボールと全く同じ重さ、形のボールが作れればやれるよねってことで生まれました」
―― 球速などのデータはスマートフォンで都度確認することができますが、データを蓄積してパソコンで管理することはできるのでしょうか?
「通信でボールのデータをやり取りするのはスマホに限っているのですが、スマホから先はクラウド上にデータが上がってくるのでそこでの解析はパソコンでも行うことができます」
―― 現状このシステムでどんなものが計れるのですか?
「球速、回転軸、球種、変化量。できることはもちろんまだまだ増えていきます。しかも、できることが増えても買い直す必要もありません。アプリを都度ダウンロードしていくだけです」
―― それは消費者にはうれしいですね! このシステムで今後も含め、どのようなことができるようになりますか?
「開発に携わってもらったコーチの人たちともお話ししていたんですけど、普及していけば、ほかの人のストレートと自分のストレートはどう違うか、昨日の自分と今日の自分がどう違うのかが分かるようになりますので、トレーニングの方向性を決めていく際にとても役に立つと思います。最終的には高校生、中学生、プロを目指す方に使っていただきたいですね。間違った根性論でのトレーニングをしてしまい、投げ込んでなんぼみたいな世界で肩を壊してしまうのはもったいない。自分のトレーニングでボールの数値にきちんと変化が表れていくので、それを活用して効率的なトレーニングを実現させて欲しいです」
―― プロの球団もこの商品の導入に前向きだと聞きました。
「お話をしているプロ球団がすでに数球団あります。メジャーの球団にも高い評価を得ています。大学にも交渉していて、高校や社会人のチームともこれから交渉していこうと思っています。あと野球の次はゴルフでの展開も考えていますので、将来は衝撃に強いセンサーも開発し、いろんなスポーツの分野にもこのシステムを広げていければと思っています。もちろんスポーツ施設とのタイアップも考えています」
<Text & Photo:名鹿祥史>