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体操競技の採点にAI技術が活用されるのはなぜ? 東京2020でも一部導入へ

 国際体操連盟と富士通は11月20日、都内で体操競技の採点支援システムの取り組みを発表しました。開発された技術や導入の背景、そして今後どのように活用が進むのか、レポートをお届けします。

どんな技術なの?なぜ体操競技に導入を?

 富士通と富士通研究所が開発した技術は、3Dレーザーセンサーを使った「動きのセンシング」、AIを活用した「骨格のフィッティング」、国際体操連盟と日本体操協会との共同研究によって生み出された「技のデータベース」を高速でマッチングすることで、瞬時の『自動採点』を可能にします。

 2020年の東京オリンピックでは5種目(男子:あん馬、つり輪、跳馬/女子:跳馬、平均台)、2024年のオリンピックでは全10種目(男子:あん馬、つり輪、跳馬、ゆか、鉄棒、平行棒/女子:跳馬、平均台、ゆか、段違い平行棒)においてシステムを稼働させる方針です。

▲握手を交わす、富士通 代表取締役社長の田中達也氏(左)と、国際体操連盟の渡辺守成会長(右)

 なぜ、体操競技に、導入が進んだのでしょうか。その理由のひとつは、長らく目視での判定が困難な競技とされてきたから。体操競技では、一連の動きの中で「手や足先の位置」「腰や膝の曲がり具合」「体軸の回転角度」「瞬間的な姿勢の正しさ」といったことを採点します。そこで昔から、多くの審判団を必要としてきました。一方で、近年では技の高難度化も進んでいます。つまり、採点支援システムの潜在的な需要があったわけです。

▲複数の3Dレーザーセンサーで選手の深度画像を認識。目には見えない近赤外線を使用しているので、選手の演技を邪魔せずにセンシングすることが可能

 会場では、日本体育大学の選手たちによるあん馬の実演デモが行われました。

 富士通の田中社長は、スポーツICTの広がりがもたらすビジネスの可能性に言及しました。体操競技の採点支援システムを確立すれば、選手の育成に応用した「トレーニングアプリ」をグローバルで展開できますし、体操競技の視聴者には観戦の魅力を向上させた「放送コンテンツ」を届けられるでしょう。富士通では今後とも、AIやセンシング技術、データ分析などを活用して選手の強化、競技のエンタメ性の追求、スポーツファンの拡大、スポーツ周辺産業の振興などを行っていく考えです。

▲富士通では採点支援システムで審判をサポートしつつ、トレーニングアプリ、放送コンテンツの提供も視野に入れている

審判はいなくなるの?

 では、ゆくゆくは人間の審判は必要なくなるのでしょうか。これについて、国際体操連盟の渡辺会長は「審判団の業務は残ると考えています。人の目で見て、最終的に判断しなければいけない分野があるから。しかし、支援システムでかなり削減できるのは確かでしょう。より正確で公平なジャッジも行えるようになります」と説明します。渡辺氏によれば、2020年東京オリンピックの体操競技に参加する選手は男女で総勢196名。これに対して、現状では体操の審判員だけで100名を超える人員が必要になっているそうです。

▲体操競技では、技の難度を判定するD審判、出来ばえを判定するE審判、リファレンス審判のほかにも線審など、大人数の審判団を必要としているのが現状

 また、練習中に自分の演技をスコア化できるため、選手にとっても大きなメリットになると説明(現状では、試合にならないと自分の演技が何点なのか分からないそうです)。さらには演技の点数がすぐに計算できることで、競技時間は現状の2時間半前後から1時間半ほどに短縮できるとのこと。試合がスピーディーになることで観客増にもつなげられる、との見立てを示しました。

▲採点時間がスピードアップすれば競技時間も短縮でき、来場者も気軽に観戦できるように。今後は、よりエンタメ性を高めた配信なども検討されていきそうです

 では体操競技の審判団は、今回の取り組みをどのように捉えているのでしょうか。日本体操協会の竹内輝明氏は「体操競技では、必ず頭を悩ませる場面が訪れます。身体のブレはどの程度だったのか、ひねりが1回だったのか1回半だったのか、腕の角度は何度だったのか。回転数や角度が数値で出るのであれば、悩む場面も少なくなるでしょう」と期待感を口にします。

▲日本体操協会の竹内輝明氏

 富士通の田中社長によれば、体操競技で培ったセンシング技術の知見やノウハウは今後、新体操、トランポリン、エアロビクス、スポーツアクロ、パルクール、果ては一般体操にまで応用していく考えです。はじめに体操競技を選んだ理由には「人の身体の動きのバリエーションが一番多い体操競技に取り組むことで、膨大なデータを得られるから」という側面もあったと説明。それにしても、アスリートの動きで培ったセンシング技術を、一般体操にどう活かしていくのでしょうか。

▲体操競技のほか、新体操、トランポリン、エアロビクス、スポーツアクロ、パルクール、一般体操にもセンシング技術を応用していく考え

 これについて渡辺会長は、いま注目を集める「ヘルスケア領域」での活用を将来的にはイメージしていると説明しました。「トップアスリートは、いわばショーケースなんです。そこから身体の動かし方のヒントを得ることで、一般の人が応用できることがたくさんある。例えば、歩き方をセンシングすることでどこが悪い(あるいは、これから悪くなる)ということが診断できる。高齢化社会を迎えるにあたり、データを活用することで国民の健康増進に役立てられるわけです」。いま開発中の技術が、トップアスリートだけでなく一般の人々に活用される時代が来る、と力説しました。

 直近の動きとしては、2019年にドイツ(シュツットガルト)で開催される「第49回世界体操競技選手権大会」において、一部種目に採点支援システムが導入される見込みです。では、オリンピックの採点をAIが行う時代はいつ頃、訪れるのでしょうか。これについて、富士通の担当者は「2020年に5種目を自動採点しますが、あくまで支援システムとしてで、最終的には人の審判団が判断します。その後、2024年、2028年とオリンピックは続いていきます。どのタイミングになるかは分かりませんが、人が採点した結果とシステムによる自動採点の結果が近くなっていった暁には。どこかで、AIが人の審判団に変わる時期がくると考えています」と話していました。

<Text & Photo:近藤謙太郎>

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