コロナ禍におけるランニングイベント運営の工夫とは。宮城県・作並トレイルツアーの場合 (1/3)
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、いくつものスポーツイベントが開催中止を余儀なくされました。エントリーしていた大会が中止になり、悔しい経験をされた方は多いでしょう。しかし最近、少しずつ開催に踏みきるイベントが出始めています。
いまだに収束の見通しは立っていませんが、いつまでも中止ばかりでは練習のモチベーションも保てません。感染は怖いけれど、開催されるなら参加してみたいという方は多いはずです。また、開催する側にとっても、いつまで自粛すればよいのか不安があります。
特に地方ではイベント開催が地域活性に繋がるケースも多く、場合によっては観光産業などに大打撃を与えていることが少なくありません。そうした地域のひとつが、宮城県にある作並(さくなみ)温泉。新型コロナウイルスの影響で、例年より観光客が激減したと言います。
そんな作並温泉で、11月7日・8日の両日にかけて「作並トレイルツアー」というトレイルランニングのイベントが開催されました。コロナ禍においてどのような背景から開催へ踏み切り、どんな感染対策が行われたのか。実際に開催された大会の光景と合わせて、くわしくご紹介します。
作並温泉旅館組合・吉井崇さんの苦悩と思い
コロナ禍でのイベント開催までには、いろいろな悩みや葛藤があったはず。そして例年であれば大勢の観光客が訪れる作並温泉ですが、やはり今年は観光産業としても大きな打撃があったようです。そうした開催までの背景について、作並温泉旅館組合の事務局長を務める吉井崇さんに聞きました。
―― 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、作並温泉における観光業の状況はどのように変化しましたか?
団体予約を受けていた宿泊施設が非常に苦戦しています。そのため、旅行形態の変化に対応してかなくてはならない状況です。現在はGoToトラベルで持ちこたえていますが、終了後にどうなるのか。先行きは不透明ですね。以前からではありますが、コロナ禍において一段とお客様のニーズに敏感になったと思います。旅行形態が大きく変化する中で、今後は勝ち負けがはっきりしてくるのではないでしょうか。
―― そんな中、「作並トレイルツアー」の開催に踏みきった理由は何だったのでしょうか? また、県外から人が集まることに不安はありませんでしたか?
過去にも開催しているイベントで、これまでの参加者から開催を希望する声が多かったことが大きな理由です。また、屋外イベントなので、比較的3密にはなりにくいと思いました。実際、周囲からも不安視するような声もありません。一方でまだまだ自粛ムードは強いですから、旅館内では感染拡大の防止対策をしっかり取らなくてはと強く思っていました。参加者のほとんどが東北在住です。そのため、首都圏からの参加者に対する面は若干心配しましたが、実際には特に問題ありませんでした。
―― 温泉地でスポーツイベントを開催することに、どんな魅力があると考えていますか?
スポーツの後、すぐに温泉に入れるというのは非常に大きな魅力であり、強みだと思います。また、イベント参加後に改めてグループで再訪いただくケースも少なくありません。イベントのために足を運んでもらったことで、そうしたキッカケ作りができていると思います。
―― 今後のイベント開催について予定されているものがあれば教えてください。
ウルトラマラソンやスノーシューハイキング、フォトロゲイニング大会を、スケジュールが許す限り開催する予定です。今回のトレイルランニング開催をベースに、しっかり感染拡大防止対策をとっていきます。作並温泉は、豊かな自然の中でスポーツを楽しむことできる環境です。また、山形県との県境に面しており、仙山交流も視野に入れて今後も魅力を発信して参ります。ぜひ、多くの皆さまに作並温泉へ訪れていただければ。
なお、作並温泉ツアーの会場となったのは、創業200年以上もの歴史を持つ老舗旅館・鷹泉閣岩松旅館。くわしくは後ほど取り上げますが、イベントはもちろん、旅館としても感染対策の徹底ぶりはすばらしいものでした。
徹底した新型コロナウイルスへの感染対策
イベント開催においては、可能な限りの感染対策が講じられていると感じました。運営側は事前に綿密な打ち合わせを行い、必要な備品も調達。具体的な対策について、シーン別に見ていきましょう。
受付~競技説明
大会受付では手をスプレーで除菌した後に検温を行い、計測した体温と合わせて「メディカルチェックシート」を記入・提出。体調確認のうえで参加者を受け入れていました。なお、大会は2日にわたって開催され、連日参加する方も少なくありません。その場合でも、両日とも検温とシート記入が必要です。
競技説明も含めて、走っている間を除き、参加者およびスタッフはマスク着用を徹底しました。また、可能な範囲でのソーシャルディスタンス確保を呼びかけていました。競技説明ではどうしても大きな声を出さなければいけないため、発言者は通常より他者との距離をとっています。
ランニング中
ランニング中はマスク着用が解除されます。これは、マスクによって呼吸が苦しくなるなどの健康リスクを避けるための対応でしょう。それでも中には、buff(バフ)などで口元を覆ったまま走っている方もいました。また、どうしても間が詰まってしまうシーンはあるものの、皆さんランニング中もソーシャルディスタンスを意識しています。
途中で何か所か写真撮影。距離は近いものの、皆さんマスクを着用したり手や布などで口を覆っています。立ち止まっているとはいえ、走っている最中では息苦しいはず。それでも誰一人として文句を言わず、むしろ最高の笑顔を見せてくれました。
休憩中などでもマスクは着用。皆さん、バックパックやポケットなどにマスクを入れ、すぐ着用できるようにしているようです。「面倒なのでは」と参加者の方に話を聞いたところ、以下のようなにコメントしてくれました。
「面倒ではありますが、もし感染者が出たら運営の方々に迷惑がかかりますから。それに、ずっとイベントが中止ばかりだったので、開催してもらえるだけでも感謝ですよ。マスク着用の面倒くささなんて、イベントで走れずモヤモヤした気持ちに比べたら大きな問題じゃありません」
途中でエイドは設けられていましたが、こちらも感染対策はバッチリ。スプレー除菌したうえで、スタッフはマスク&ゴム手袋着用での対応です。