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嘉納治五郎の偉大なる功績とは。『いだてん』スポーツ史考証・真田久(筑波大学教授)が解説

 日本人初のオリンピアンとなった金栗四三(演:中村勘九郎さん)と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治(演:阿部サダヲさん)を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。

 29日放送の第37回「最後の晩餐」で、嘉納治五郎(演:役所広司さん)が逝去しました。『いだてん』では初回から登場し、作品を代表するキャラクターでした。そんな嘉納について、『いだてん』でスポーツ史考証を担当し、嘉納治五郎を研究し続けきた真田久先生(筑波大学教授)が解説。日本スポーツ史、そしてオリンピック史に大きな功績を残した嘉納治五郎とはどんな人物だったのでしょうか。改めて振り返ってみましょう。

『いだてん』の嘉納治五郎は実像に近い

—— 「いだてん」の嘉納治五郎先生について。

真田久先生:これまでは柔道の嘉納治五郎というと、神様のように奉られてきましたが、「いだてん」の嘉納治五郎は、喜怒哀楽がはっきりし、それでいて理想を見失わないキャラクター、つまり人間味のある人物として描かれていると思います。教育者やIOC委員としての治五郎の資料と照らし合わせると、実像に近いと思います。

—— 嘉納治五郎が日本のスポーツ、特にオリンピックに果たした功績について。

真田久先生:日本のスポーツにとっては、オリンピックを通して国際舞台への道を開いたこと。オリンピックを契機に、陸上、水泳、テニス、サッカーなど様々なスポーツが世界につながっていきました。オリンピックに果たした功績としては、日本でのオリンピックの開催の意義を世界に認めさせたことでしょう。アジアでの初開催だけではなく、オリンピックを世界の文化にするために日本開催が必要だということを 世界の人々が認めたということです。

—— 日本・アジアでのオリンピック開催を強く希望していた嘉納治五郎の行動の根底には、どのような思いがあったのか。

真田久先生:オリンピックの理念にはスポーツによる平和な社会の建設という理想があるので、日本での開催により、治五郎の提唱する「精力善用・自他共栄」(スポーツや教育で得た自身の力を目的に応じて効率よく活用し、特に他者のために尽くすことで、自分と他者がともに繁栄すること)の考えを広め、平和な社会を実現しようと考えていました。

世界中から尊敬された「ジゴロー・カノウ」

—— 晩年の治五郎先生のエピソードについて。

真田久先生:1938年3月のカイロでのIOC総会に出かけるとき、東京の返上やロンドンの突然の立候補(実際にはすぐに取り下げた)などの状況を聞かれた時、治五郎は「今からそんなことを心配したら頭が禿げる。いざとなれば柔道の奥の手を使うまでさ」とユーモアたっぷりに出かけました。最大の危機にあっても、逆らわずして勝つ、という姿勢だったのでしょう。嘉納の逝去にIOC員たちが追悼のメッセージを送りました。その内容がすごい。いかに治五郎がIOC委員から尊敬されていたかがわかります。

【ラツール(ラトゥール)伯爵(IOC会長)】

「嘉納氏の逝去は単に日本にとって偉大なる損失たるに止まらず、全世界のスポーツ界にとってもまた同様である。氏は青年の真の教育者であった。我々は嘉納氏の想い出を永く座右の銘として忘れないであろう。あたかも兵士のごとく氏は自己の義務を遂行しつつ逝った。しかし氏はもっと永く生きて氏の生涯の夢であった東京オリンピックを見るべきであった。この東京オリンピックこそ、氏が日本のあらゆるスポーツを今日の高き標準に引き上げるため費やした永年の労苦に対する報酬であったであろう。日本の全スポーツマンに対し、我々の最も深き哀悼の意を伝えたい」

▲写真中央がラツール伯爵(Photo:Getty Images)

【カール・ディーム博士(ベルリン大会事務総長、スポーツ教育学の権威)】

「氏とは1913年以来の親しい知友で全く感慨無量である。氏は世界で稀にみるスポーツ教育の総合的人格者で、氏の逝去は単に日本にとってばかりでなく、世界スポーツ界、教育界にとって痛惜に堪えない」

【アベリー・ブランデージ(IOC委員、米国オリンピック委員会会長)】

「嘉納氏は立派な『サムライ』であり、典型的教育家であり、そのスポーツ界に対する貢献は長く追憶されるであろう」

ブランデージ氏(Photo:Getty Images)

【フランソア・ピエトリ(IOC委員、仏国オリンピック委員会会長)】

「嘉納氏は永年の私の親友の一人である。氏はカイロ総会で最大の難事とされていた東京・札幌両大会獲得のため非常な過労を強いられ、ほとんど独力でこの難関を克服していた。日本国民は氏の真摯なしかも勇敢な努力に対して深く感謝しなければならない」

【クラレンス・ブルース(第3代アバーデア男爵、IOC 委員、英国オリンピック委員会)】

「私はかかる素晴らしい人物に会った喜びを長く記憶から消し忘れないであろう。また私はかつて氏が柔道の講義と実演をなした際その道場において当時75、6歳であった氏が、わずか一分足らずの間に氏よりもずっと年若い人を投げ倒し、出席者一同をして氏の勇気と熟練とを賞賛せしめた事も忘れ得ない。私は嘉納氏の遺志に従い、日本におけるオリンピック競技会を支える事を最大の幸福と考えるものである」

【クリンゲベルグ(IOC技術顧問)】

「今回の嘉納氏の最後の欧州訪問はオリンピック精神に合致したものだ。カイロ会議では非常な困難に直面したが、氏は巧みに、また自信を持ってこれを執り裁き、オリンピックの東京招致を確実にした。氏の残したもの、すなわち東京オリンピックを成功させることは氏を尊敬する者の義務である」

▲嘉納治五郎氏(Photo:Getty Images)

▲嘉納治五郎氏(Photo:Getty Images)

<Text:編集部/Photo:NHK提供、Getty Images>

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