「腸の吸収が悪ければ、筋肉の質も悪くなる」。専門家に聞いた、正しい腸内環境の鍛え方&改善方法
身体を鍛える上で、食事が重要な要素となるというのは良く聞く話。では、正しい食事をとれば、身体のパフォーマンスは向上するかというと、必ずしもそうとは限らない。なぜなら、食事をとったうえで、その栄養素などを効率よく体に取り込むためには、消化器官の状態が重要となるからだ。
腸内環境を保つことが、身体のパフォーマンスにつながる
「消化器官の中でも、特に重要なのが腸なんです。はっきりいって食道とか胃なんかは通過道と消化だけですからね。では、なぜ腸が重要かというと、消化吸収の両方に直接関係してくるからです。中でも、特に大腸は外からと内側からと、鍛えられる唯一の場所なんです」
そう話すのは自律神経研究の第一人者として知られる順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生。先生は普段から、「腸は、内側と外側を鍛えろ」と話しているという。このうち内側からというのは、腸内環境を整える食事のこと。では、外側から腸を鍛えるというのは、どういうことなのだろうか?
「それは腸を刺激しないとダメですね。固定されていない小腸と違って、大腸は後腹膜の4点で固定されているので動かないんです。なので、お腹をひねったり、横にしたり、倒したりすることで、大腸が伸びたり折れたりするんです」
こういった動作はプロスポーツの練習でも取り入れられているという。では、実際に腸内環境を整えることによって、運動のパフォーマンスがどのように変化するのだろうか。
「やっぱり疲れにくくなりますね。さらに、筋肉の張りが良くなって弾力性が出ますし、回復も早くなります。運動能力も上がるでしょう。腸の吸収が悪ければ、筋肉の質も悪くなりますし、疲れやすいので怪我をしやすくなりますね」
食事は運動の3時間前、食物繊維を中心に!
トレーニングや試合となると、気になるのは食事をとるタイミング。栄養を蓄えながらも、便に悩まされたくないが、いつ頃に食べればよいのだろう。
「運動の3時間前には食べておいた方がいいですね。食べ物が小腸までたどり着くのが6時間後なので、3時間だと残り半分。このぐらいのタイミングであれば、腸にストレスはないでしょう」
運動前に食べるべきは食物繊維だという。小林先生はスポーツドクターとしても活躍しているが、食べ物だけではなかなか摂取するのが難しいので、「ファイバープロ」という食物繊維のサプリを選手に与えているとか。やはり運動を始める前は、一般的な食事よりもサプリメントを摂取することが、効果的なエネルギーの補充につながるようだ。
ちなみに、最近話題になっているアスリート飯について、専門家の目線からどのような効果があるか聞いてみたが、「一緒ですね何を食べても(笑)」とのこと。どうしても、食事からだけだと不足してしまうのが現状で、必要な食物繊維、乳酸菌をサプリメントで摂る方が効果的だという。
尿意のコントロールも腸内環境に左右される
長時間の運動をする上で、便とともに悩みの種となっているのが尿の問題。運動中に尿意を催してしまった場合、我慢したほうがいいのだろうか。
これについて小林先生は基本的には「出さなくてもいい」としながらも、我慢をしてストレスになってしまうのであれば出したほうがいいと話している。どうやら尿を出すか出さないかは、身体のパフォーマンスにさほど大きな影響は与えないようだ。さらに、尿意をコントロールするうえでは、やはり腸内環境がカギとなるという。
「腸内環境が悪いと脳への指令も悪くなってくるので、変にいろいろなものを飲んだり食べたりしない方がよいでしょう。結果として水を飲みすぎてしまうことも考えられます」
消化器官を鍛えるという発想は、普段からあまり考えたことが無い人も多いのではないだろうか。もし、どこか体の不調を訴えているときには、体の内側を見直すことをオススメしたい。
[監修者プロフィール]
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
1960年生まれ、埼玉県出身。1987年に順天堂大学医学部卒業。中学では野球、高校・大学ではラグビーをプレーし、学生時代はスポーツ漬けの毎日を送った。高校3年生の時に母親をすい臓がんで亡くし、それが医者を目指すきっかけに。大学卒業後は海外の病院勤務を経て、現在は順天堂医院で自律神経研究の第一人者としてコンディショニング、パフォーマンスの向上指導に関わる。著書に『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク出版)など
<Text:荒井隆一(H14)/Photo:神谷渚、Getty Images>