2017年7月31日

走るより“食べる”のがメイン!? 「三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング」を走ってきた

 記録を狙ったり、ファンランしたり、マラソンの楽しみ方はさまざま。大会運営者もまた「ランナーにどう楽しんでほしいのか」「大会を通じて何を感じてほしいのか」という思いは異なり、全国各地に趣向を凝らした大会が数多く存在します。

 7月16日に宮城県石巻市雄勝町で開催された『三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング』は、その好例と言って良いでしょう。リピーター率のとても高いこの大会には、その環境を活かした素晴らしい“おもてなし”がありました。

レースよりこっちがメイン? 絶品の海の幸が振る舞われる前夜祭『おがつ横丁』

 大会前日、受付は雄勝町にある仮設商店街『店こ屋街』で行われています。到着すると、のぼりも立って大盛り上がり。たくさんのランナーが集まっていました。しかし受付後も、ランナーはそのまま残ります。実はこちらで、受付だけでなく“前夜祭”が開催されるのです。

 前夜祭を設ける大会はいくつもありますが、『三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング』はチカラの入れ方が違います。運営実行委員の代表である山本圭一さんの挨拶、そして乾杯を終えると、一気に会場がヒートアップしていきました。その理由は……。

 次々にテーブルへと運ばれてきた“海の幸”の数々。中にはマンボウなど、普段あまり食べる機会のない食材までたくさんあります。ここで、前夜祭に登場した食べ物を、いくつかピックアップして写真でご紹介しましょう。

▲シャリ少なめで握られた絶品『銀鮭のにぎり』

▲肉厚でぷりぷりの『ゆでホヤ』

▲殻のまま提供される食べごたえ抜群の『牡蠣』

▲驚くほど巨大で美味しい『牡蠣フライ』

 この他にも、お伝えし切れないほどさまざまな海の幸が提供されました。「これだけで、参加費のモトが取れるのでは?」なんて声も聞こえてきましたが、まさにその通り。しかも、すべて獲れたて新鮮です。

 昨年の大会は立食形式だったそうですが、今回はテーブルに着座して楽しむスタイル。私は見知らぬランナーの皆さんと相席させてもらったのですが、美味しい料理に舌鼓を打っていたら、いつしか自然と会話が弾んで仲良くなっていました。

 

 ビールやジュース、酎ハイは1杯目のみ無料、以降は有料での提供です。また、会場内では料理によく合う地酒も販売されていました。料理が美味しいと、ついついお酒も進んでしまいます。もはや前夜祭がメインのような感覚で、翌日にトレイルを走るなんて忘れてしまいそう。それでも当然、ちゃんとレース本番は訪れます。

 ちなみに前夜祭のみの参加も可能なので、応援に来た家族・友人と一緒に楽しむことができるのも魅力の一つ。これだけ豊富で美味しい海の幸を食べられるのなら、たとえ前夜祭だけでも雄勝町を訪れる価値ありと言えるでしょう。

走りごたえ抜群!眺め最高のトレイルランニング

 

 大会本番の朝。スタート会場の葉山神社には、前日たっぷりお酒を飲んだと思われるランナーの皆さんも、しっかり時間通り集結していました。スタート前に神社で完走祈願。睡眠時間は十分に確保できるようスケジュールが組まれているので、二日酔いで走れない……なんてことはないようです。

 スタート地点の目の前には、すぐに山道が。本大会は24kmと距離こそ長くありませんが、ほとんどロードはありません。しかも非常に走りごたえがあり、走り出し直後からランナーを楽しませてくれました。

 いきなり約1.3kmで標高350mまで登り、石峰山へ。その急傾斜に、ほとんどのランナーは歩きます。しかし、この上り坂はまだまだ序の口。この大会では石峰山に続き、明神山、小渕山、釜谷峠、硯上山、雄勝峠、石投山といくつもの峠越えが待っているのでした。ちなみに累積標高は約2,000m、もっとも高い地点は硯上山の約520mです。

地面は全体的にフカフカ。天候に恵まれ、ぬかるみなどなく走りやすいコースです。周囲を木々に囲まれ、とても心地よい環境。ところどころで、虫や鳥などの鳴き声が聞こえてきました。

 コース上には細かくピンクリボン、そして各所に案内板が出ているので、「道に迷いそう」という方でも心配無用。わざわざ地図でコースを確認する必要がなく、安心して走ることができました。もちろん事前にスタッフの方が試走して用意してくれたはずですが、トレイル初心者でも参加しやすいようにという配慮を感じます。

さらにコース上、視界が開けた際に見える景色が素晴らしい。海を眺めながら走れるトレイルランニング大会は、意外と珍しいのではないでしょうか。ついつい足を止めて、写真におさめているランナーがたくさんいました。

 私のオススメは、18km手前にある石投山からの眺め。目の前に広がるのは女川湾です。そしてここからは、ゴールまで下りメインとなります。そしてゴールにも、本大会ならではと言える工夫がありました。

 山を下りきると、ゴールと思われる会場が見えてきました。「やっと着いた」という気持ちとともに、楽しかったレースの思い出が蘇ります。会場から見える位置に姿を現すと、スタッフの皆さんが拍手と声援で温かく迎えてくれました。そして……。

 こちらのゴールゲートが見えて、ついにレース完走!……と思いきや、実はここからが本当のゴールなのです。

 そのまま海へダイブ!本大会、ゴールは“海にタッチした瞬間”なのです。もちろん海に触りさえすれば良いのですが、ほとんどのランナーは写真のように海に飛び込んでいました。あらかじめ濡れて困る持ち物は置いて……。私ももちろんダイブさせてもらいましたが、走って火照った身体を海水が鎮めてくれて、ちょうどいいクールダウンです。

 レース完走はうれしいものですが、私がこれまで見た中で、これほどランナーが“楽しそう”なゴールは初めてかもしれません。貴重な“雄勝石”でつくられた完走楯も、他にはない貴重な思い出です。とはいえ、これでレースは終了。あとは着替えて帰るだけ……と思いきや、まだレポートは続きます。

疲れた身体を癒やし、空腹を満たす『御宝美海』

 走った後はお腹が空きます。今大会ではレース後に待っている『御宝美海』が、そんなランナーの胃袋をがっちりキャッチしてくれました。御宝美海では前夜祭とはまた異なる、絶品・海の幸メニューは多数提供されます。

 その場で焼いてくれるアツアツの鶏肉は、疲れた身体にうれしいタンパク源。こうしたメニュー構成も、しっかりランナーのことが考えられています。

 こちらは、塩味の牡蠣ラーメン。大きな牡蠣がゴロゴロ入っており、出汁も効いていて最高です。ラーメンだけでなく、好みに応じて蕎麦も選べました。美味しい食べ物に癒やされながら、レースの感想など話して交流するランナーの姿は印象的。今大会はリピーター多数ということですが、前夜祭から通して参加させてもらい、私も「絶対に来年も参加したい」と思いました。

 帰宅する際には、ゴール写真をお持ち帰り。他ランナーの写真も見ましたが、どれも飾りたくなるようなベストショットばかり。特に1人で参加した場合、ゴールの瞬間は誰かに撮ってもらうことができないので、非常にうれしいサービスと言えそうです。

 レース前後は絶品の海の幸を堪能し、素晴らしい景色を眺めながら、自然に囲まれた走りごたえあるトレイルコースを走る。『三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング』は、非常に満足度の高い大会でした。今年が6回目の開催ですが、参加者・スタッフによれば毎年のように改良が重ねられているとのこと。そのことから、参加者に対する強い“おもてなし”の気持ちが感じられます。人気大会のためエントリーも早々に締め切ってしまうようですが、気になった方は、ぜひとも来年参加してみてください。

<Text & Photo:三河賢文>