アスリートの立場から。東京オリンピック開催の是非について伝えたいこと│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for2020〜」#48
寺田明日香選手の連載エッセイ、2021年の第1回は「東京オリンピック」開催について、寺田選手の想いを執筆してもらいました。昨年末に執筆を編集部から依頼し着手しましたが、年が明けて2021年になると、状況が一変。開催是非を問う世論調査なども8割近い人が、開催しない方がいいのではないか、という意見に傾いています。
このタイミングで本記事を公開することを編集部が決めたのは、アスリートである寺田選手の想いを多くの人に届けたいと考えたからです。さまざまなことに思いを巡らせながら現在の率直な考えを綴ってくれました。(編集部)
今だからこそ、「オリンピック開催」について伝えたい
みなさん、こんにちは。陸上競技の寺田明日香と申します!
2021年となり、私はお正月早々から31歳の前厄を迎えることにビクビクしておりましたが、読者のみなさんはよいお正月を過ごせたでしょうか?
新しい年が始まっても、未だ新型コロナウイルスの猛威は収まらず、関東圏・関西圏を中心に再度緊急事態宣言が出される事態となってしまいました。
気をつけても、気をつけても終わりが見えず、まさに延々と続くトンネルの中にいるような心中ですが、明るく過ごせる未来を信じて、今はとにかく感染予防に努めて過ごしていくしかありませんね。
さて、今回のコラムは、延期になっているオリンピック開催に向けた想いについてです。少しセンシティブな部分もあるので、正直に言うと触れにくいのですが、こんな時なので、あえてオリンピックを目指す1人のアスリートとして書いていこうと思います。
今回も、最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします!
いつでもポジティブで希望を持つこと
選手側から出る「オリンピックに向けて頑張ります」や、「メダル獲得を目指します」と言うポジティブな言葉。それに対する、ネガティブな声。
どんな選手も、今の状況下においては、多くの人たちに歓迎されるような今まで通りの華やかなオリンピックが開催できるとは思っていないというのが本心だと思います。ただ、選手というのは、どんなに苦しい状況下に置かれたとしても、後ろ向きな考えを持ち続けてはいけないのです。
それが、自分自身を高め続けるアスリートたちの強みであり、使命なのではないでしょうか。そのようなひたむきな姿が、今まで多くの感動を生み、多くの人に影響を与えてきた要因なのだと思っています。
どんなに苦しい状況下でも、1つの希望を持ち、それを信じてやり切る。
これはふだん私たちアスリートが抱いている考え方・行いですが、コロナ禍においてさまざまな対策をし、日々変化を求められる現在の状況にまさにフィットするものだと思うのですが、どうでしょうか?
「どうせこんなに対策したって、結局みんなコロナに罹って収束しないんだから、無理でしょ。諦めなよ」と、言われたら、頑張って対策したり自粛したりしている方々は、ちょっと嫌な気持ちになりませんか?
これって、「どうせオリンピックは開催できないんだから、オリンピックを目指すとか言ってるのバカみたい」と、言われる感じに似ている気がしています。
東京オリンピックへの軌跡
2013年9月、56年ぶりの東京でのオリンピック開催が決定し、日本中が湧いたあの日から早8年。現在、東京オリンピック開催への世論は、「中止だと思う・中止にするべき」が80%を上回っています。
東京オリンピック開催が決定したときも、前回のリオデジャネイロ大会が行われた2016年も、2020年がこんなことになっているなんて、誰もが予測できなかったことだったと思います。特にここ1年間で、世界は大きく変わってしまいました。
オリンピックに関わる人々は、選手はもちろんのこと、組織委員会や各競技団体、JOC(日本オリンピック委員会)、JSC(日本スポーツ振興センター)、大会スポンサー企業、ボランティアの方々など、出場する選手の何倍もの数の方々がこれまでの準備に携わってくださっています。
私の所属企業であるパソナグループも、オリンピック・パラリンピック公式スポンサーになっており、実際にオリパラ関連の会議に参加して、開催までの流れや関連イベントの考案、申請など諸々の手続きにおける大変さを目の当たりにしました。何年も前から社内でさまざまな調整を行なっている担当部署の方々も見てきました。
選手側の人間が、オリパラスポンサー企業の動きを内部から見られることは本当に貴重な経験だと思うとともに、こんなにもオリンピック開催に向けて動いてくださっている方々がいるんだと思うと、今まで以上に感謝の想いと、選手として期待に応えたいと思う気持ちが強くなりました。
選手の頑張りは表に見えるものだけれど、裏方として、「なんとしてもオリンピックを成功させよう」と頑張ってくださっている方々の努力は見えにくい。そんな中、政治的要素がいたる所に垣間見え、多くの方々に不信感が募る状況になっていることは、不本意であるとともに、悲しくもあります。
寺田明日香としてがんばり続けること
さて、ここまでかなり突っ込んだところまで書いてきましたが、端的に私の気持ちを言うと、
「完璧なオリンピックが出来るなんて本心では思っていないけれど、選手としてはどんな状況下でも最善の準備をしておくことが大切なので、開催中止が決定事項でない限りはがんばり続けるしかない(ポジティブ発言をするしかない)」
ということです。なので、オリンピック代表選考に関わる3月の「2021日本室内陸上競技大阪大会」や、4月からのシーズンインに向けて、難しい状況下であったとしても、健康第一にがんばり続けます。
私の陸上復帰時の目標は、オリンピックでの決勝進出です。
それがいかに難しいか、私もチームあすかスタッフも理解していますが、目標はブラさず果敢に挑戦していきます。
[プロフィール]
寺田明日香(てらだ・あすか)
1990年1月14日生まれ。北海道札幌市出身。血液型はO型。ディズニーとカリカリ梅が好き。会いたい人は、大谷翔平と星野源。小学校4年生から陸上競技を始め、小学校5・6年時ともに全国小学生陸上100mで2位。高校1年から本格的にハードルを始め、2005~2007年にはインターハイ女子100mハードルで史上初の3連覇。3年時には100m、4×100mリレーと合わせて同じく史上初となる3冠を達成。2008年、社会人1年目で初出場の日本選手権女子100mハードルで優勝。以降3連覇を果たす。2009年世界陸上ベルリン大会出場、アジア選手権では銀メダルを獲得。同年記録した13秒05は同年の世界ジュニアランク1位だった。2010年にはアジア大会で5位に入賞するが、相次ぐケガ・病気で2013年に現役を引退。翌年から早稲田大学人間科学部に入学。その後、結婚・出産を経て女性アスリートの先駆者となるべく、「ママアスリート」として、2016年夏に「7人制ラグビー」に競技転向する形で現役復帰した。同年12月の日本ラグビー協会によるトライアウトに合格。2017年1月からは日本代表練習生として活動した。2018年12月にラグビー選手としての引退と陸上競技への復帰を表明。2019年シーズンから競技会に出場し、6月に日本選手権女子100mハードルで9年ぶりの表彰台となる3位に入り、7月には100mでも自己記録を更新。8月には19年前に金沢イボンヌ氏が記録していた日本記録13秒00に並ぶと、9月1日に「富士北麓ワールドトライアル2019」で史上初めて13秒の壁を突破し、12秒97の日本新記録を樹立。カタール・ドーハで開催された「世界陸上」に出場。再び陸上競技選手として、2020年東京オリンピックを目指す。
◎所属企業:株式会社パソナグループ
◎主な記録:100mハードル日本記録保持者(12秒97)/100mハードルU20日本記録保持者(13秒05=2009年世界ジュニアランキング1位)/100mハードル日本高校歴代2位(13秒39)/100m:11秒63【今後の主なスケジュール】
●第104回日本陸上競技選手権大会・室内競技/2021日本室内陸上競技大阪大会
2021年3月17日(水)~18日(木) 大阪・大阪城ホール
●第53回織田幹雄記念国際陸上競技大会
2021年4月29日(木) 広島・広域公園
●第24回アジア陸上競技選手権大会
2021年5月20日(木)~23日(日) 中国・杭州
●第105回日本陸上競技選手権大会
2021年6月24日(木)~27日(日) 大阪・ヤンマースタジアム長居
●東京オリンピック
2021年7月30日(金)~8月8日(日)予定
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<Text:寺田明日香/Edit:松田政紀(アート・サプライ)/Photo:編集部>