2017年10月24日

世界的ロードレースで活躍する対馬伸也に聞く。初心者が自転車ロングライドを楽しむためのポイント(後編)

 総距離は約900km、獲得標高差が約20,000mという超過酷な『HAUTE ROUTE(オートルート)』に出場し、3ステージ全てを走破することで得られる称号『Triple Crown』を日本人で初めて獲得した対馬伸也さん。前回はレースについて伺うと共に、ロードレースの魅力をお話しいただきました。

 通勤や趣味などで、これからロードバイクを購入しようと考えている方も多いでしょう。今回は対馬さんに、初心者から自転車を楽しむためのポイントを伺いました。長く、そして安全に自転車へ乗り続けるための秘訣を、ぜひ参考にしてみてください。

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まずは近くのショップに行ってみよう

 これからロードバイクを始めようという方ならば、何を買えば良いのかすら分からないでしょう。長く乗り続けるからこそ、こだわりの“愛車”を見つけたいところ。まずはそうしたロードバイク選びについて、対馬さんに伺いました。

「すぐ購入するか否かに関わらず、まずは近くのショップへ行ってみてください。実際にロードバイクを見てみるわけです。最近では専門店だけでなく、自転車販売のチェーン店などでもロードバイクを扱っていることが多くなりました。ロードバイクはタイヤのサイズ1つとってもいろいろな種類があります。店員さんと交流しつつ情報を得ていくことで、ロードバイクの世界を覗いてみてください」

 ロードバイクを実際に目にすると、乗ってみたいという気持ちはさらに強まるかもしれません。購入しようか迷っている方なら、一歩を踏み出すキッカケになるでしょう。最近はインターネットでもさまざまな情報を得られるようになりましたが、やはり直接ショップで話を聞かないと分からないことがたくさん。さらにショップとの繋がりは、ロードバイクを購入後も役立つと言います。

「ショップでは、自転車のライドイベントを開催していることが少なくありません。中にはロードバイクを貸し出してくれるケースもあるので、ぜひチェックしてみてください。イベントを通じて仲間ができ、良い情報交換の場にもなります。特に初心者向けのイベントでは同じレベルの参加者が多いので、気軽に参加できるはずです」

 同じ距離を走るのでも、仲間がいればそれが1つの楽しみに変わります。特にロングライドは1人だと飽きてしまうという声がありますが、休憩中や走った後に交流できる相手がいることで、大きなモチベーションが生まれるのではないでしょうか。

自転車選びは“直感”を大切に

 ロードバイクに愛着が湧くことで、自然とそれに乗ることが楽しくなります。愛着があればこそ、空気圧やチェーンの具合なども気にかかり、メンテナンスにも目が向くことでしょう。しかしロードレースと言っても、メーカーやグレードなどは実に多様。対馬さんによれば、“直感”を信じることが愛着を持てるロードバイク選びのコツのようです。

「ロードバイクは、ずっと長く乗り続けるもの。だからこそ、最初の直感はとても大切です。良いなと思うものがあったら、値段などに関わらずできるだけそれを購入することをオススメしますね。私もそうでしたが、直感というのはつまり気に入ったということ。きっと、大切に乗ろうという気持ちになります。逆に値段など少しの差で諦めると、後悔してしまうかもしれません」

 中には初心者向けモデルから始め、続くようなら買い直そうと考える方もいるでしょう。しかしそうした場合、ロードバイク1台分の費用が余計に掛かることになります。また、パーツを取り替えてグレードアップさせる場合でも、土台があまりに安いものだとチグハグになってしまうようです。それならば、思い切って直感を信じ、欲しいものを買ってしまう。続いたら……、ではなく、続けるために大切にできるロードバイクを選ぶというのは、楽しむうえで重要なのかもしれません。

ロングライドを楽しむには“安全”が第一

 ロードバイクを購入したら、いよいよロングライドに挑戦! しかしロングライドを楽しむには、いくつか覚えておくべき知識があります。

「最低限、パンク修理(=チューブ交換)は自分で出来るようになっておきましょう。イベントやレースでも、基本的には自分で直すことが原則です。ショップで講習会を行っていることもありますし、インターネットで検索すれば手順の動画が見つかります。また、たとえ予算に限りがあっても、ブレーキだけはある程度のグレードを選びましょう。命にかかわる部分ですから。ロングライドを楽しむために、何より安全に勝るものはありません。頭にフィットするヘルメットや前方・後方を照らすライトなど、自転車以外の装備もしっかり揃えることが大切です」

 確かにレースはもちろん、トレーニング中にもロードバイクの事故は起こっています。特に慣れない初心者は、給水ボトルを取ったりコーナーを曲がったりするだけでも一苦労。私も初めてロードバイクに乗った際、直角コーナーで転倒した経験があります。最後に楽しかった気持ちで終えられるためにも、安全への配慮は欠かせません。

「自転車は軽車両ですから、自動車の運転免許を持っている方なら、教習テキストを読み返してみるのも良いですね。また、基本的に自転車は車道走行。やむを得ず歩道を通るときは、徐行するか降りて押すくらいが良いでしょう。車道でも、例えば自転車を追い越せずイライラしてしまうドライバーがいるかもしれません、アイコンタクトやハンドサインでコミュニケーションを心がけることをオススメします。ただ乗っているものが違うだけ。お互い尊重し、配慮してこそ自転車を楽しめるんです」

 最近は日本でも、自転車専用路ができるなど整備が進んできました。しかし対馬さんによれば、ヨーロッパ等に比べてまだまだ不十分だと言います。そうした配慮が行えてこそ、ロングライドを楽しむ資格があると言えるのかもしれません。

「ちゃんとルールを守って乗れるようになったら、輪行を覚えると良いですね。いろんな場所へ出かけられるようになり、一気に世界が広がります。ただし鉄道会社によって輪行には規定が設けられているので、ちゃんと遵守するようにしてください。ただし趣味として走るなら、スピードの出し過ぎは厳禁。スピードを出したいなら、ちゃんと交通規制のされたレースに出場してください」

 ロングライドにも、趣味として楽しむ人がいれば、レースでスピードを競う人もいます。自分に会った走り方を選び、それに適した場所を走ること。その先に、ライダーそれぞれの楽しみがあるようです。最近は荷物を積んでキャンプしながら走る“バイクパッキング”というものも登場しているとのこと。ロングライドの楽しみ方は、これからますます多様化してきそうです。

[プロフィール]
対馬伸也 (つしま・しんや)
1973年10月生まれ、東京都出身。2013年4月頃からトライアスロンへの挑戦をキッカケに、ロードバイクに乗り始める。2015年に初めて『HAUTE ROUTE』へ出場し、2017年大会で3ステージ全てを走破して日本人初の“Triple Crown”を達成。トライアスロンやピラティス等のパーソナルレッスン、栄養サポートを提供する『Athlete Architect』を運営している
【HP】http://www.athletearchitect.net/

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

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<Text & Photo:三河賢文>