インタビュー
2017年10月24日

日本人初の快挙。世界一タフな自転車ロードレースを全走破した対馬伸也に競技とレースの魅力を聞いた(前編)

 昨今、各地でシェアサイクルやレンタサイクルが増えてきました。趣味としてのサイクリングはもちろん、移動手段に自転車を利用する方は多いでしょう。私はトライアスロン競技も行っているため、その延長でロードレースやイベント等にもたまに出場しています。

 自転車の世界は広く、特にヨーロッパでは国民的スポーツとしてロードレース等が人気という国が少なくありません。例えば『ツール・ド・フランス』は、自転車競技者でなくとも耳にしたことのある方は多いはず。そんなヨーロッパを舞台に、“世界一タフ”と言っても過言ではないロードレース『HAUTE ROUTE(オートルート)』が開催されています。

『HAUTE ROUTE(オートルート)』は7日間で行われるレースです。その総距離はなんと約900kmにも及び、さらにコースはいくつもの峠を経て獲得標高差が約20,000m。さらに同レースはピレネー・アルプス・ドロマイトという3ステージに分かれており、それぞれがすべて7日間で行われています。各ステージは連続して行われ、2つ走破すると『Iron Rider』、そして3つ全て走破すると『Triple Crown』という称号を得るのです。

 今回お話を伺った対馬伸也さんは今年の同レースに出場し、なんと“日本人初”の『Triple Crown』となりました。対馬さんにとって、ロードレースの魅力とは何なのか。ロードレースを楽しむためのコツなどを踏まえながら、2回に分けてご紹介します。

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7日間×3ステージを走破!HAUTE ROUTEとその魅力

 7日間にわたって走り続けるだけでなく、距離や獲得標高差はイメージすらできないほど過酷な『HAUTE ROUTE』。レース中はピレネーのツールマレー峠やアルプスのイゾアール峠をはじめ、レース1日に2〜3もの山岳を登ると言います。

「とてもキツいですが、その分だけ大きな達成感があります。下りのスピード感も楽しくて、時速60kmくらい出るんですよ。すると、頭の中が澄み渡ってくるように感じられます。耳に入ってくるのはブレーキと風、そして地面から伝わってくる音だけ。これが、とにかく気持ちいいんです」

 そう話す対馬さんの表情は生き生きとしており、レースを心から楽しまれてきたことが伝わってきました。1日4〜6時間のライドになるそうですが、きっと過酷だからこそ得られるものが、本レースにはあるのでしょう。

「有名な山岳をいくつも登りますから、そこから見える雄大な景色はやはり素晴らしいですよね。そしてHAUTE ROUTEでは、参加者同士がレースを通じて友達になっていきます。やはり、同じ競技者として通じ合うところがあるのかもしれません。冗談を言い合っているうちに、いつの間にか打ち解けていくんです」

 レース中でもお互いに声を掛け合うシーンがあるとのこと。種目こそ違いますが、私もウルトラマラソンを走る際には、よく他ランナーと会話を楽しんでいます。たとえ初対面でも、ロードレースという競技で繋がっている。そこに、国籍や年齢なんて関係ないのかもしれません。

もともとアップダウンは苦手だった

 これほど過酷なレースに出るのだから、対馬さんは以前からヒルクライムなどの登り坂が好きだったのだろう。お話を伺う前まで、私はそう思っていました。しかし実際のところ、ロードバイクに乗り始めた当初はアップダウンが苦手だったようです。

「自転車はもともと2013年4月頃、トライアスロンへの挑戦をキッカケに乗り始めました。その頃も練習で峠などに行きましたが、キツかったですね。どちらかと言えば、最初はアップダウンが苦手だったんですよ。それでも登りきると達成感があって、少しずつヤミツキになっていきました。HAUTE ROUTEを知ったのは、トライアスロンチームのメンバーが2014年にアルプスのステージに出場していたのがキッカケ。YouTubeでライダーの姿を見たらかっこよくて、自分でも走りたくなっちゃいました」

 対馬さんが初めて同レースを走ったのは2015年。ドロマイトのステージにのみ出場されたそうですが、その際に日本人でTriple Crownを獲得している人はおらず、自分が挑戦しようと決めたそうです。

「2回目にHAUTE ROUTE へ出場した2016年は、残念ながら途中でリタイアとなりました。Triple Crownには届かずIron Rider。そして今年、再びリベンジとして出場し、ついに日本人初のTriple Crownとなったんです。ゴールしたときは、大きな感動と達成感で胸がいっぱいになりました。」

 各ステージが終わると翌日にレジストレーションを挟み、その翌日には次のステージがスタート。実に20日以上もほぼ連続してロードレースを走り続けることは、どれだけ大変なことでしょうか。きっと、レース中は想像すら及ばない困難があったはず。日本人初の快挙を果たした対馬さんは、どことなく自信に溢れているようでした。レースの模様など以下YouTubeで動画が公開されていますので、ぜひその世界を覗いてみてください。

ロードレースは目標が明確で実力がそのまま反映される

 現在、ご自身でパーソナルレッスンの事業を手がけている対馬さん。ロードレースには、そうした仕事では味わえない魅力や面白さがあるようです。

「例えば仕事だと、目標に向けて取り組んでいるうちに、不確定要素から軌道修正するといったことは多いですよね。しかしロードレースはゴールが決まっているので、つまり目標が明確なんです。あとは、そこに向けてどれだけ練習していけるのか。自分の実力がそのまま白日のもとに晒されるのは、ロードレースの面白さだと思います」

 さらにマラソン等と比べて、身体一つでは出せないスピードを体感できることも大きな魅力だと言います。とはいえ車とは違い、動力はあくまで自分自身。そしてロードバイクを“乗りこなす”技術もまた、実力の1つなのでしょう。

「ロードレースに興味のある方は、まずヒルクライムに挑戦してみると良いと思います。本気のレースでは集団走行に慣れていないと危険が伴いますし、自身はもちろん周囲のスピードも違うもの。ヒルクライムはキツい分、スピードは出ませんから。あるいはファンライドイベントに参加して、集団走行の経験を積んでみるのも良いですね。安全を確保された環境で走れますから、初心者でも走りやすいはずです。私が過去に走った中なら、『ツール・ド・八ヶ岳』をお勧めします」

 次は11月に開催される『ツール・ド・おきなわ』の210km部門へ出場する対馬さん。これからも新たな目標を見つけ、私たちでは想像できないような世界へと挑戦していくことでしょう。次回はロードバイク初心者の方々に向けた、自転車の楽しみ方について伺っていきます。

後編はこちら

世界的ロードレースで活躍する対馬伸也に聞く。初心者が自転車ロングライドを楽しむためのポイント(後編) | 趣味×スポーツ『MELOS』

[プロフィール]
対馬伸也 (つしま・しんや)
1973年10月生まれ、東京都出身。2013年4月頃からトライアスロンへの挑戦をキッカケに、ロードバイクに乗り始める。2015年に初めて『HAUTE ROUTE』へ出場し、2017年大会で3ステージ全てを走破して日本人初の“Triple Crown”を達成。トライアスロンやピラティス等のパーソナルレッスン、栄養サポートを提供する『Athlete Architect』を運営している
【HP】http://www.athletearchitect.net/

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

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<Text & Photo:三河賢文>