2018年6月29日

パルクールは自分を高める“トレーニング”。SENDAI X TRAIN代表・石沢憲哉が語る、パルクールの魅力

 皆さんは、「パルクール」というスポーツをご存知でしょうか。おそらく知っている方の多くは、「パルクール=アクロバティックなパフォーマンスを行う競技」といった印象をお持ちのはず。各種メディアでも、高所をジャンプ移動したりバック転したりと、見る者を魅了する多彩なパフォーマンスがよく取り上げられます。しかしイメージと実際の競技とでは、どうやら違いがあるようです。

 今回は、宮城県仙台市を拠点にパルクールの指導やワークショップなどを手がけている、合同会社SENDAI X TRAIN代表の石沢憲哉さんにお話を伺いました。自身も競技者として日本屈指のパルクールトレーサー集団「SAMURAI SEVEN」に所属し、日本代表リーダーとしてワールドチェイスタグ世界大会にも出場予定という石沢さん。いったい、パルクールのどんな部分に惹きつけられているのか。また、これからパルクールを通じて目指しているものとは。

忍者や特殊部隊に憧れていた学生時代。パルクールとの出会い

 石沢さんがパルクールを始めたのは2008年のこと。当時はパルクールについて情報が少なく、やはり街中でアクロバティックなパフォーマンスを行うなど、“なんとなく”のイメージで取り組んでいたそうです。

「小学校から高校時代まで、忍者や特殊部隊に憧れていたんですよ。でも、いざ将来のことを考えたとき、なろうと思ってなれるものではないと痛感し、夢破れてしまいました。結果的には作業療法士の資格を取得して病院に勤務するようになったんですが、病院と自宅をただ往復するなんて、つまらなかったんですよね。何かできること、おもしろいことはないかと思って古武術なんかを調べていたところ、その延長線上でパルクールを知りました。さらに当時住んでいた盛岡に社会人チームを見つけたんです」

 忍者や特殊部隊といえば、男性ならば同じように憧れを持ったことのある方は多いはず。そしてパルクールのイメージは、確かにそれと近いかもしれません。形は違えども、パルクールという競技に出会えた石沢さん。しかし2009年、手術するほどの大怪我を起こしてしまいました。

「高所から飛び降りた際に膝を怪我してしまい、手術することになりました。しかし、それでもパルクールは続けたかったんです。そこで動けないうちにと、パルクールについて改めて調べてみました。その中で知ったのが、トレーニング性が重要だということ。パルクール自体が体作りに繋がるもので、華やかに見えるパフォーマンスは一部に過ぎないのだということでした」

 パルクールの本質ともいえる“トレーニング性”に気づいた石沢さん。しかし2012年頃まではほとんどパルクールができず、ウェイトトレーニングやリハビリなどに費やしたそうです。そして2012年、在学中にお世話になった先生が立ち上げた病院に誘われて仙台勤務へ。そこで「仙台パルクール」というコミュニティを作り、少しずつ興味・関心を持つメンバーが集まってきたそうです。当時のコミュニティでは、気が向いた際にパルクールを無料で教えるといった活動をされていたとのこと。その中で感じていたのが、パルクールを教えることの難しさでした。

「パルクール=アクロバットだと思っている方が多いので、まず、パルクールがトレーニングであることを理解してもらう必要があります。でも教わる側からすれば、やっぱり混乱してしまいますよね。どう教えれば理解してもらえるのか、非常に難しく感じました。そんなとき知ったのが、“A.D.A.P.T”というパルクールの国際指導資格。資格取得を通じてパルクールの本質を学び、指導に活かそうと考えました」

 活動を開始すると少しずつ興味を持つ人が増え、保育園や幼稚園などからも指導依頼を受けるようになっていたとのこと。次第に石沢さんの中で、作業療法士ではなくパルクールで食べていきたいという思いが募ってきたのでした。そして2016年に合同会社SENDAI X TRAINを設立。同年に韓国へ渡り、A.D.A.R.Tの資格を取得したそうです。なお、現在国内に同資格の保有者は6名。そのうち4名がSENDAI X TRAINに所属しています。

パルクールは自分を高めるための“トレーニング”

 競技から指導、さらにはワークショップ開催など、パルクールを通じて幅広く活動されている石沢さん。パルクールを使った“鬼ごっこ”ともいえるワールドチェイスタグ世界大会にも、日本代表リーダーとして出場予定で、現在は支援企業も募集されています。はたしてパルクールの何が石沢さんをここまで魅了するのでしょうか。

「パルクールはどんなに歳を重ねても、できることが増えるんです。私自身、始めたのは21歳です。4mの壁に手が届くようになったり、バック転ができるようになったり。もちろん飛べなかった距離を飛べるようになるとか、日々成長を実感できます。努力した分だけ成果が明らかに返ってくるので、楽しいし、続けたいと思えますね」

 一見すると自分には無理と思えるような動きも、積み重ねによって可能になる。特別な能力が必要なのではなく、パルクールを通じて身体能力を引き出すのだと語ります。パルクールは“自分を高める”ためのトレーニング。筆者も、パルクールの動画をインターネットで見た際は、正直な感想として「すごい、けれど自分には無理だ」と思っていました。しかしできないのではなく取り組んでいないだけ。石沢さんの話を聞いていると納得感があり、自分にもできるような気がしてきます。

「大会こそありますが、パルクールには競争性がないんです。相手を尊重し、許容するスポーツなんですよ。コレと決まった形があるわけでもなく、アクロバットなものがあれば、クリエイティブなファンクショナルトレーニングもあります。人それぞれ自分自身の能力を試し、高めるためにやっているだけで、決して魅せるためのものではないんですよ。1m飛べる人より2m飛べる人のほうがすごいなんてこともありません。だからパルクールでは、相手を知ることがとても大切。その人が何を考えて競技しているのかなんて、実際に聞いてみなければ分からないじゃないですか。そこからお互いの理解が生まれ、各自のスタイルとして尊重し合っている。それがパルクールです」

 大会などではゴールタイムを競う「スピード」と何でもありの「フリー」、そして、たとえば足を着けず3歩以内に必ず動くといった技術を磨く「スキル」というスタイルで分かれています。しかし実際には同じスタイルの選手でも、何のために競技しているのか、その思いや考えはまったく違うのだとか。パルクールというトレーニングを通じて自らを高め、その高めた能力を試すために大会があるといってもよいでしょう。

 現在は、まずパルクールという競技について“知ってもらう”ことが1番の課題。そのために「SENDAI X TRAIN」は、“現代忍者”を各地へ派遣する“Modern Ninja Project”や、子ども向けパルクール教室など、多様な活動を行っています。

 次回は子どもの運動教育という視点から、パルクールの持つ可能性や効果について引き続き話を伺っていきます。

後編:「パルクール」は、子どもの運動教育にどんなメリットをもたらすか

▼SENDAI X TRAIN
https://www.sendai-x-train.com/
▼Modern Ninja Project
https://www.sendai-x-train.com/modern-ninja-project
▼SAMURAI SEVEN
http://samurai-seven.strikingly.com/

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>