2018年6月30日

「パルクール」は、子どもの運動教育にどんなメリットをもたらすか (1/2)

 宮城県仙台市を拠点に、パルクールの指導やワークショップなどを行う合同会社SENDAI X TRAIN。代表を務めるのは、自身も世界大会への出場を控えたトレイサー(パルクール競技者)である石沢憲哉さんです。前回は石沢さんに、パルクールの魅力や活動を始めた経緯について伺いました。今回は子どもの運動教育という視点で、パルクールの与えるメリットについてご紹介します。

運動の基本動作を楽しみながら身につけられる

 もともと作業療法士としてリハビリなどの仕事に従事していた石沢さんは、以前から子どもの発達に興味を持っていたとのこと。実際、仕事を通じて発達障害を持つ子どもを見ていたこともあったそうですが、そこにパルクールと子どもの運動教育を繋ぐ着眼点がありました。

「子ども相手では、いくら理論を伝えても分かってもらえません。でも、パルクールなら楽しみながら取り組めると思い、支援学校で実際にやってみたんです。パルクールは、身体能力を高めるうえで最高のトレーニングになりますから。すると、これに子どもたちは大よろこび。机に乗ったり壁を蹴ったりするのって、普段なら怒られますよね。でも、パルクールだからやっていい。みんな楽しそうに取り組んでいて、これは発達障害の有無に関わらず共通することだと思いました」

 寝返りや起き上がり、立ち上がりなど。パルクールには、こうした人間の基本動作がすべて含まれています。そして繰り返し行うことにより、その動作は洗練されていく。鍛えようという意識は不要です。子ども向けにパルクール指導を行うなかで、石沢さんは子どもの運動教育におけるパルクールの可能性を強く感じたのだと語ります。

「今は何でも自動化が進んでいます。公園の遊具も少なくなり、子どもは身体を動かす機会そのものが減っていると思うんです。その結果、どうなるのか。身体の動かし方が下手になるんですよね。子どもたちの姿を見ていると、そもそもの基本動作がうまくできていません。でもパルクールなら、必然的に走ったり飛んだり、ときに転んだりすることになります。それに、ちょっとスリリングなところが、子どもたちがより楽しめるポイントだと思うんです」

 筆者も子を持つ親ですが、子どもが思いきり身体を動かして遊ぶ機会は確かに減っているように感じます。運動といえば体育の授業と習いごとだけ。しかし子どもは“遊び”こそ本気になり、熱中してさまざまなことを吸収していってくれるものでしょう。ところが、パルクールを運動教育に取り入れるとなると、“教える”側として課題もあるようです。

「パルクールは目標ありきです。何を見てパルクールに興味を持ち、何がしたくてパルクールを選んだのか。そのディスカッションを繰り返すなかで、子どもが自分から目標を伝えられるようになります。では、そのために何が必要なのか。目標が見えればやるべきことが分かり、それを実践し、積み上げることで達成に繋がっていきます。しかしそこに必要なのは、ティーチングではなくコーチングではないでしょうか。質問を投げかけながら目標や思いを引き出し、導いていくこと。ただ教えるだけでは力になりません。目標を明確に持てればこそ地道なトレーニングもできますし、それが“楽しい”と思えるキッカケになるはずですから」

 石沢さんは「Action Modify Program(通称AMP)」というコーチ派遣プログラムにより、子どもたちへの指導はもちろん、コーチングの視点から子どもたちにパルクールを教えられる指導者の育成にも取り組んでいるとのこと。教える人がいれば、一時的な指導に終わらず、継続的にパルクールを通じた運動教育が実践できます。

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