流行語大賞に「筋肉は裏切らない」を私が選ぶ理由│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#19
アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。
今回は、先日発表された「新語・流行語大賞」のノミネート語について。今年の傾向として顕著だったのが、スポーツ関連ワードの多さ。少し早いですが、2018年を振り返りつつ、甘糟さんのお気に入りの候補を紹介します。
トレーニング中に何度も頭の中をリフレイン
2018年の新語・流行語大賞のノミネートが発表されました。30の候補のうち、今年は10個がスポーツ関連。「奈良判定」やら「悪質タックル」やらダーティなイメージのものもありますが、それにしても3分の1がスポーツに絡んだものとは驚きました。ちなみに、奈良判定なんてそんなに流行ってなくない? とつっこむところまで含めてが流行語大賞だと思っております。ボクシング絡みなら、「歴史に生まれた歴史の男by山根会長」が断トツに印象強いですよね。
テレビの年間視聴率ベストテンでも、ワールドカップのサッカー中継やオリンピック中継がいくつもランクインする昨今。物語を作る&書くことを仕事としている身としてはさびしいですが、きっと、みんな作り物のドラマに心を動かされないのでしょう。いや、きちんと作ってある物語には反応するけれど、作為がバレちゃうようなものは見透かされちゃうんだろうなあ。その点、スポーツ中継って、作為の入り込む余地が極めて少ない。もちろん試合自体にはまったくない。その伝え方に、開いた口が塞がらないような作為が押し込まれていることも、時々ありますけれどもね(まったく関係のない&その競技に関心のなさそうなタレントさんが騒いでいると興ざめします)。
「スポーツは筋書きのないドラマ」なんて使い古されたいい回しですが、だから世の中の人の心をつかむのでしょう。喜び、悲しみ、悔しさ、いろんな感情をてらいなく味わうことができるのがスポーツ観戦です。
なんてことを考えるきっかけになったり、なんだかんだと思考を刺激してくれるのは流行語大賞です。
▲2018年のスポーツシーンで活躍した選手たち(Photo:Getty Images)
今年ノミネートされた、スポーツ関連の10個には、カーリング関連から「そだねー」「もぐもぐタイム」の2つ。野球はMLBの「翔タイム」、高校野球の「金足農旋風」、ワールドカップサッカー関連が「(大迫)半端ないって」、テニスが「なおみ節」。Watch系が並ぶ中、「eスポーツ」なる言葉がありました。正直言って、これ、私はなんのことかまったくわかりませんでした。なんでも、エレクトロニック・スポーツの略で、複数人がコンピューター・ゲームで対戦することを競技、スポーツと捉えたものなんだそう。将棋やチェス、オセロのような頭脳のスポーツってことでしょう。
やー、勉強になります! 流行語大賞。
しかし、何といっても私的に「大賞」を差し上げたいのは、やっぱりあのフレーズ。そう、「筋肉は裏切らない」です。10個のうちの唯一のdo系です。
ご存知の方も多いと思いますが、8月27日から30日の4夜に渡ってNHKで放送された『みんなで筋肉体操』から生まれた流行語です。俳優の武田真治さんをはじめとする超筋肉質の男性3人が淡々と腕立て伏せや腹筋やスクワットなどをする5分番組。情報や最新の道具が溢れる昨今、マシーンはおろか、ダンベルもバーも使わない、「体操」というところが逆に新鮮でした。最後に、筋肉指導の先生が例のセリフを言うのです。
▲ネットを中心に話題をさらった『筋肉体操』(Photo:NHK提供)
私、夏の半ばから、久しぶりに筋トレを再開しておりましたので、もうこのセリフがトレーニング中に何度も頭の中をリフレインしました。3セット目のきつい時、自分にいい聞かせたりなんかして。
個人的には、これか「君たちはどう生きるか」「#MeToo」のどれかに大賞をとって欲しいです。あなたの心に響いた言葉はどれでしょうか。
[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。河出書房新社より新著『鎌倉の家』が刊行。11月18日(日)には、代官山 蔦屋書店にて、「『鎌倉の家』刊行記念 トークイベント&サイン会」を開催予定で、現在申し込み受付中(詳しくはこちら)。
<Text:甘糟りり子/Photo:NHK提供、Getty Images>