今年は日本で世界大会も!みんなが主役になれる「キンボールスポーツ」を体験してみた
キンボールというスポーツをご存じでしょうか? 直径122㎝、重さ約1㎏の大きなボールを使うユニークなスポーツです。
初めて見る人は「えっ? こんな大きなボールをどうやって扱うの?」とビックリするかもしれません。でも、大丈夫。スポーツが苦手でも、子どもからシニアまで、すべての人が主役になれるのがキンボールスポーツなのです。今回はその魅力を実際に体験してきました。
キンボールってどんなスポーツ?
キンボールスポーツは、1986年にカナダのケベック州で、体育教師のマリオ・ドゥマース氏が考案しました。この“体育の先生が考えた”というのがポイントです。
普通のボール競技では、運動が得意な子と苦手な子に大きな差が開いてしまいます。バスケットボールやハンドボール、サッカーなどは、一度もボールに触らずに競技が終わることも珍しくはありません。そこでドゥマース氏は、“感動の共有や協調性を高めること”を目標に、誰でもが主役になれるキンボールスポーツを考案したのです。
キンボールスポーツは20m×20mのコートの中で、1チーム4名×3チームで戦う競技です。まず、ヒット権(バレーでいうサーブ権)を持ったチームが、コートの中央で他のチームを指名します。そして、ヒットをした後、指名されたチームはボールを床に落ちる前にレシーブします。手でも足でも頭でも、全身を使ってボールを取っても構いません。レシーブが成功したチームはセット権を得て、これを繰り返していきます。
得点は反則やレシーブミスをしたチーム以外の2チームに1点ずつ加算されます。ヒットやレシーブをしなかったチームにも得点が入るのが、キンボールスポーツのおもしろいところですね。最も高い得点のチームだけを攻撃することができるのも、大きな特徴です。
こうして見ていくと、キンボールスポーツが、綿密に考案された公平性・協調性の高いスポーツであることがわかります。攻撃と防御が一瞬のうちに入れ替わり、コールを間違えると反則となるので、体力だけではなく頭も素早く働かせなければならないのも特徴です。
イメージは巨大ボールのバレーボール? 簡単なルールで誰でも参加できる
東京都荒川区はキンボールスポーツが盛んで競技レベルも高い地域で、荒川区キンボールスポーツ連盟(小山博会長)が結成されています。理事長の大熊裕子さんにお願いして、筆者の高校生の娘がキンボールスポーツの体験をさせてもらうことになりました。
この日、荒川区立汐入東小学校の体育館で行われていたのは、区内でも強豪という汐入ペンギンズの練習です。指導をしてくださったのは、事務局長の新津光人さん。まず初めに、ボールを触らせてもらいます。
想像していたよりも堅いのに驚きました。バランスボールのようにグニャグニャと柔らかいものを想像していたのですが、実際はかなりの強度があります。外側はナイロン、中は固いゴムで、パンパンに空気を入れて使います。あまりの大きさに、最初は一人で持つのも難しいと思われるほどですが、すぐに慣れてキャッチボールができるようになりました。
次は、ヒットの練習です。組んだ両手をバットのように振って、ボールに当てます。この時、注意しなければならないのは、ボールの中心に当てること。上級者は片手で当ててもいいそうです。これは、片手の方が打つ方向が自由になるためですが、初心者はまず当てて遠くに飛ばすことが大切なので、両手打ちをすると良いでしょう。
どんなボール競技でも打つのは難しいものですが、キンボールスポーツの場合、ボールが大きいので、まず当たらないということがないのはうれしいものです。
レシーブは、体のどの部分を使って止めても良いので、汐入ペンギンズのメンバー2人に協力してもらったところ、難しいボールを足で器用にキャッチ。そして、2人とも、ボールを受けながら、とても楽しそうな笑顔になっていました。
コートからボールが出てしまったらアウトですが、レシーブする時、指一本でもコートのラインに残っていればセーフだそうです。しかし、例えば、コートのライン際で、ボールをキャッチする時、コート内の足が上がってしまったらアウト。これがなかなか難しく、つい足が浮いてしまったりします。
次は、セットの練習です。片膝をつき、頭を下げて両手でボールを支えます。写真は練習なので2人で行っていますが、試合では3人必ず揃っていなければいけません。
「チーム4人の協力が絶対に必要なので、誰か1人が突出してうまくても成立しないスポーツなんです」(新津さん)
運動が苦手でも、すぐに試合に出られるようになった
さて、次は、試合に参加させてもらいましょう。
ピンクのゼッケンをつけて、チームに加わる娘。ざっと練習しただけなので、「大丈夫なのかな」と思いましたが、体は動いているようです。運動が苦手で、いつも学校での体育の成績は下位の方なのですが、夢中になっているとそんなことも気にならない様子。ヒットもレシーブも成功しました。
「小学校1年から80歳までプレーできるスポーツ」と言われるだけあって、うまい人はうまいなりに、下手な人も下手なりに楽しめるのだなと感心します。
汐入ペンギンズの皆さんは、さすがに慣れているだけあって、ヒットの時は、わざと誰が打つのかわからないように、交互に打つ真似をするなど、細かいテクニックを使っていました。
攻守が目まぐるしく変わるので、「どのチームが勝っているのかな?」と確認する間もなく、1ピリオド7分は終了。結果は、すべてのチームが引き分けでした。お疲れ様です!
娘の感想は、「楽しかった」と、まず一言。
「ドッヂボールだとボールを持つこともなく、ただ逃げ回るだけですが、キンボールスポーツは攻撃に参加できるのがうれしいです」
運動が苦手な子どもたちのためにも、もっと、小学校や中学校、高校でも取り入れて欲しいスポーツですが、「ボールの値段は一つ約5万円で、得点板その他付属品を入れると全部セットで10万円ほどかかるのが、普及を阻んでいる原因の一つです」(大熊さん)とのこと。ボールは、大事に使えば3~5年は保つそうですが、体育館に置かれている用具の角に当たったりして、表のナイロン生地が避けてしまうのが難点だそうです。
しかし、その一方でキンボールスポーツは、着々と日本に根付きつつあります。今年は、「第9回キンボールスポーツワールドカップ2017」が、日本で開催されます。今年は日本男子チームの2連覇がかかっています。東京都の中央区立総合スポーツセンターで2017年10月30日(月)から11月5日(日)まで、カナダをはじめ13カ国が出場予定だそうですから、ぜひ観戦に行ってみてはいかがでしょう。今までとはまったく違った、新しいスポーツの魅力を発見できるかもしれませんよ。