夏帆『いだてん』インタビュー。いつかはモノになる、と美濃部孝蔵(古今亭志ん生)を信じ続けた妻おりん (1/3)
日本人初のオリンピアンとなった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。
物語の語り部、古今亭志ん生(演:ビートたけし)の青年期である美濃部孝蔵(演:森山未來)が落語家として成長する課程において、糟糠の妻おりん(演:夏帆)の存在は欠かせないものでした。そこで今回、女優の夏帆さんを招いた合同インタビューが行われ、森山未來さんとの撮影エピソードなどを語ってくれました。
[プロフィール]
●夏帆(かほ)
1991年6月30日生まれ、東京都出身。2003年CMデビュー、翌2004年に女優デビュー。『天然コケッコー』(2007年)、『東京少女』(2008年)、『うた魂♪』(2008年)、『箱入り息子の恋』(2013年)、『海街diary』(2015年)など数々の映画に出演。『ヒトリシズカ』(WOWOW/2012年)、『東京ヴァンパイアホテル』(Amazon/2017年)など連続ドラマでも多数主演を務める。第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2019年10月、主演映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』が公開。●おりん
高田馬場の下宿屋の箱入り娘。鳴かず飛ばずの落語家・美濃部孝蔵と見合い結婚するが、やりたい放題の孝蔵に振り回される。“なめくじ長屋”と呼ばれる住まいでの極貧生活にもめげず、次第にたくましくなっていく。孝蔵の落語にかける情熱と才能を信じ、内職で家計を支え、二男二女を育て上げる。
【あらすじ】第30回「黄金狂時代」(8月11日放送)
1932年、田畑(阿部サダヲ)待望のロサンゼルスオリンピックが開幕。アナウンサーの河西(トータス松本)はレースの実況中継に気合いが入るが、大会運営側からの妨害にあう。田畑たちは実況中継の代わりにレースの模様を放送する奥の手を考える。治五郎(役所広司)はIOC総会でオリンピック招致の立候補を表明する。しかし9都市がエントリー済みという絶望的な状況。東京への招致に、ムッソリーニとヒトラーという2人の独裁者の思惑が影響することに──。
私も絶対に参加したい
――大河ドラマに出演が決まったときの気持ちは、いかがでしたか。
宮藤官九郎さんが東京オリンピックを舞台にした大河ドラマをやるらしい、という話を聞いたときから「私も絶対に参加したい」と思っていました。だからオファーをいただけたとき、本当にうれしかった。孝蔵さんは森山未來さんが演じることが決まっていて、ご一緒できるのが光栄でした。初めは緊張してしまいましたが、とても気さくな方で。現場で森山さんと面と向かってお芝居できるのは、とても貴重な体験をさせていただいていると感じています。
――絶対、出たいと思った理由は。
宮藤さんの脚本ですし、純粋に面白そうだと思いました! しかも大河で東京オリンピックを描くと。時代も近代の日本ですよね。それを大河ドラマでやるというのは挑戦的だと思ったし、一体、どんな作品になるのだろうと興味が沸いて。自分も参加したい、と思いました。噂になっていたんです、私の周りでずっと。宮藤さんが大河をやるというのは。良いな良いなと思っていて、だからオファーをいただいたときは、本当にうれしかったですね。
―― 作品の印象については。
宮藤さんの本に参加させていただくのは今回が3回目なんですが、本を読んだ印象とでき上がったものの印象が、いつも全然違うんですよね。本を読んでいて想像できなかったことが、実際に映像で見たときに「こういうことだったのか」と気が付くことが多くて。今回、オリンピックパートや落語パートなど、いろいろなパートがあると思うんですが、それぞれお話がリンクしています。その話のつなげ方は、宮藤さんにしかできない。毎回、感動しますね。
孝蔵さんの落語への情熱と才能を誰よりも信じていた
――なめくじ長屋でおりんは、貧乏に慣れてたくましくなっていきます。どう演じましたか。
本当に良い妻です。最初は箱入り娘なんですが、孝蔵さんと生活していくうちにどんどんたくましくなって、子どもが生まれると、さらにどっしり腹をすえて生活していきます。徐々におりんさんが変化するところを丁寧に演じられたら良いなと思っています。
撮影は、期間が空くんです。私は、昨年の10月頃から撮り始めたんですが、そこから3か月くらい空いて次のシーンを撮り、また何か月か空いて、と。しかもシーンが変わるごとに、何年も経過していることもある。久しぶりに現場に来たら子どもが生まれていて、何か月後かに来たらもう歩いていて、という感じです(笑)。昨日のリハーサルでは、子どもがもう自分と同じ身長になっていました。ドラマの中では描かれていない時間を埋めていくのが大変です。
――おりんさんは孝蔵の、どこに良さを感じているのでしょう。
とにかく、孝蔵さんの落語への情熱と才能を誰よりも信じていたのが、おりんさんだと思うんです。いつかはモノになる、じゃないですけど。破天荒で無茶苦茶な人ですが、それでもそばでずっと支えていくのは、孝蔵さんの才能だったり、熱いものを信じていたんだと思います。
――史実の資料も参考にされましたか。
はい。古今亭志ん生さんも本を出されていますし、美津子さん(長女)も、家族のことを書いた本を出されているので、それを読みました。
――夫婦を演じてみて、すごいと感じるところは。
すべてが真似できないと思います。良い夫婦というか、良い奥さんだなといつも思います。本を読んでいても、演じていても。こんな女性、ほかにいないんじゃないでしょうか。孝蔵さんが志ん生になるまで支え抜き、その後、息子ふたりも名人になるわけですから、賢妻だなと思います。憧れます。私は、こんな風にはできない。きっと我慢できないと思います。それだけ孝蔵さんのことを信じていたんだと思うと、本当に良い夫婦だなと。