三宅弘城「幼い頃の夢はオリンピック選手。宮藤さんに『身体鍛えておきます』とアピールしてました(笑)」│いだてん:インタビュー (2/3)
金栗さんのことは、別の形で知っていたんです
――選手が頑張っている姿を見ていて、どう感じますか。
単純に感動します。脚本を読んでも映像を見ても、どちらも泣けてくる。辛作さんも、自分のつくった足袋を履いてくれているので、一緒に走っている気持ちになっているんでしょうね。水泳のときもそうでしたが、みんなで「頑張れ、頑張れ」とラジオの前で応援する。仲野太賀くんとか声を枯らしていましたし、一丸となって応援していました。
――高校まで本格的に体操をやられていたそうですね。オリンピックに関する事前知識はありましたか。
そんなに詳しくはなかったんです。単純に好きで見ていましたが、細かい所までは知らなかった。でも金栗さんのことは、別の形で知っていたんです。中学校でサッカーをやっていたんですが、シューズの広告で『カナグリノバ』という製品があったのを覚えていました。聞いたことないな、このラインも独特でおもしろいな、という風に記憶に残っていて。それで知っていたんです。宮藤さんと舞台をやっていたとき、一緒の楽屋だったんですが、宮藤さんが大河ドラマをやるんだということが情報解禁になった日に、皆川(猿時)くんが突然、楽屋に来て「お願いします。大河ドラマに出してください」と宮藤さんにお願いしてました(笑)。どんな話をやるのか聞いたら金栗四三という名前が出て。「それって、カナグリノバの人?」「そうそう、それそれ」なんて話を、宮藤さんとした覚えがあります。後から、ハリマヤさんの由来なども知ったわけです。
ところで、もともとハリマヤさんだった店舗が、今はお弁当屋さんになっている。そこで撮影に先立ってご挨拶に行きましたけどね、現在は小さな碑があるくらいで。少し切ない気持ちになりましたけれど(苦笑)。
――スポーツ足袋はニッチな製品で成功しました。瓢箪から駒、的な体験をしたことはありますか。
実は「役者をやりたい」と思ったことがありませんでした。ボクは、ずっと音楽をやりたくて、音楽で食っていくんだと思っていたんです。でも趣味が合うメンバーともあまり巡り会えず、大学3年生のときに「就職するのかな」と思っていたときに(ナイロン100℃の前身である)劇団健康の舞台を見て衝撃を受けたんです。演劇は堅いものだと思っていて、それまで興味がなかったのに、バンド以外にもこんな表現活動があったんだと思って。そこでチラシのキャスト募集を見て、すぐに履歴書を送ってオーディションを受けました。全くのド素人でしたが、エレベーターに閉じ込められたというシチュエーションで、エチュードをして。もう何をやったか覚えていませんが(笑)、次の公演から参加することになったんです。飛んで喜んだ記憶があります。それまで毎日、学校に行っていたのが行かなくなって、どんどんお芝居にのめり込んでいった。子どもの頃には想像していなかった場所に、今いるな、という実感があります。
――ハリマヤも辛作さんも、時代とともに変化していきます。
辛作さんは、金栗さんと張り合っていたときは威勢も良かったんですが、単純に歳をとったことで落ち着いてくる。第1部では濃いキャラがハリマヤに集まっていましたから、辛作さん自身も勢いがあったんですね。そんな辛作さんがいたから、濃い人達が集まっていたとも言えそうですが。あとは、時代の変化もあると思います。
辛作さんの人柄も、年齢を重ねて落ち着いてきますしね。息子も成長してきて、一緒に足袋をつくるようになります。親子であり、同志のような関係にもなります。一方ハリマヤでは、そこにいた者同士、いろんな意味で、出会いの場になっている。コミュニティのような役割があるんでしょうね。
こんなに、この子すごかったっけ(笑)
――マラソン足袋をつくっているときの辛作さんの思いは、どうだったのでしょうか。
探り探りだったとは思うんです。金栗さんもそうだけど、辛作さんも伝統を守りつつ「新しいことをやっていきたい」と思っていた。やってみよう、という方向に目覚めたところがあるんだと思います。金栗さんによって目覚めた部分も。職人魂に、さらに火がついたというか、そんなところがあるんではないでしょうか。
――金栗さんも無理難題を言ってきます。それに対して、辛作さんも「そんなのできるわけねぇ」などと言いながらも協力する。
下町ならではの職人魂というか、そういう部分があったんでしょう。
――中村勘九郎さんの魅力については、いかがですか。
画面からも魅力が伝わっているとは思いますが、一緒にお芝居すると、とてもハートがある人。なので、心と心でぶつかり合うことができる。やっていて感動しちゃうんです。本当に心のある役者さんですよね、だからやっていて楽しいんです。リハーサルを何回かやって、本番がさらに上がってきたりもする。
舞台は同じ芝居を何度もやらないといけないので、良いところを探っていきます。それに対して映像は一発勝負の部分があるから、ここぞとばかりに集中する。勘九郎くんも歌舞伎でロングランをやっていますけれど、同時に映像の楽しみ方も分かってらっしゃる。それを思う存分に楽しんでいる気がします。
――阿部サダヲさんの印象は。
「こんなに、この子すごかったっけ」と思って(笑)。感心しますね、田畑政治役もぴったりです。阿部くんも普段は口数は多くないですが、グループ魂でMCをやるときは、“口のいだてん”になるときもあります。もともと、ああいう要素があるのかもしれないですね。
前にインタビュー記事を読んだとき、阿部くんはセリフの練習時は声に出して読まないで、カメラの前に出たときに初めて声に出すと言っていて。あらためて感心しました。あと、やっぱり宮藤作品を分かっていますね。宮藤さんも阿部くんのことをよく知っているから書きやすいのでは。これは予想ですが、宮藤さんが書いたらマーちゃんがそれを超えてくる、そんなバトルになってますよね。
――宮藤さんの脚本については。
おもしろいところもすごいと思うんですが、毎回、泣けるのがすごい。スタッフ、キャストの力もありますが、台本を読んでいて毎回ぐっとくる。今回、さらに宮藤さんの心の熱い部分が出ている気がします。でも、ちょこちょこ、オモシロも入れてくる。熱い本だと思いましたね。そして言葉に力がある。言葉が強い。ご自身も役者をやっているからスーっと、身体に入ってきやすい言葉遣いで、気持ちで喋れるセリフを用意してくれる。暗記ではなく、気持ちの入った会話を書いてくれる。それがよく出ています。楽しく演じさせてもらってますし、一視聴者としても後から楽しく見ています。
――今回、参加が決まった際の周りのキャストの反応は。
阿部くんからはLINEもらいました。宮藤さんからは、バンドの練習の時かな、「よろしくお願い致します」って。
――バンドのリハーサルで、そんな話題になるんでしょうか。
グループ魂の活動が、今年はあまりなかったので、集まることはほとんどなくて。でも、もし集まっても関係が近いと、みんな恥ずかしがってあまり直接は言わないんじゃないですかね。