2019年10月26日

神木隆之介『いだてん』インタビュー。「ムカつくけど如才ない、五りんはそういう役としてありたい」 (2/3)

師匠をおんぶする場面も

――たけしさんと共演した印象は。

最初の記者発表のとき、もう肌感だと10年くらい前のように感じるんですが、ご挨拶したときに「あ、アウトレイジだ」と思いました(笑)。最初は迫力を感じていて。だって世界の北野武監督ですし、芸人さんでは言葉にできないくらいのすごい方。だからこそ、勝手に怖いイメージを抱いてました。どんな方なのか、まったく分からない状態だった。

でも、五りんは師匠に失礼な態度をとりますよ。「あ、ボクいらないっス」みたいに遠慮がない。落語に興味がないから、志ん生がどのくらいすごい人なのか分かっていないんです。それを芝居でやらなきゃならない以上、ボク自身が「すごい人と共演している」という気持ちをなくさないといけない。そうじゃないと、気を遣った態度が芝居に出てしまうと思ったんです。アドリブで返すときとか、反射的に出てしまうものです。

そういう中途半端なことは嫌だなと思って。だから怒られても良いやと。そこで、おこがましいのですがセットに文鳥がいたときは、ボクから「鳥は好きですか」とか「いつも何されているんですか」なんて話を。セットに将棋が置いてあったら「将棋はやられるんですか」みたいな質問をさせていただいたりして。

「ここに居たほうがツッコミやすいですか」「どの位置だと叩きやすいですか」なんて積極的にお聞きしていて、でも本当に優しい方で、丁寧に質問に答えてくださいます。「じゃあ俺はこうやってやるから、こうして」なんて仕込んでくださることも。寄席のシーンのときも「お疲れですよね」「疲れた」「そうですよね」「ここが大変でさ」「大変ですよね」なんて袖で会話しています。いつも、質問以上の返しで付き合ってくださる。器の大きさが無限大な方という印象です。最初は怖かったですけどね。「役がこれなんで許してください」と謝るしかないなと覚悟していた(笑)。師匠レベルの方って怖がられるけれど、でも逆を返せば、師匠だから許してくれる器があるんだな、だから師匠なんだなと思います。

――師匠を、おんぶするシーンもあります。

重かったです(笑)。五りんと師匠の関係性を知っていれば感動してもらえる場面になっています。穏やかに和気あいあいと進んでいくように見えて、ここは2人がお互いの覚悟を決める大事なシーン。楽しみにしていただければ。

下り坂だったんですね。もし万が一、転ぶようなことがあったとしても、前転してしまうようなことだけは避けなければいけないと、もう命がけの必死の思いで、おぶらせていただきました。でも、とってもほっこりした思い出になりました。「ちょっと師匠、ずれてきたので上がりますよ、せーーの」でちゃんと反応してくださったり。映像もチェックしましたし、監督にも反応を聞いたんですが、すごく良いシーンになったと思います。

落語を体験できて幸せでした

――あらためて、落語の難しさについて。

まずは噺の量ですよね。ボクの落語のシーンはワンカットが長くはないのですが、それでさえ覚えられない。ひとつの噺を覚えるとなれば大変、それを何十、何百とレパートリーにしているのが噺家さんでしょう。とんでもない苦労があり、修行のようです。挫折もあるだろうし、ひとつ覚えたときに喜びもあるかもしれない。血と汗と涙を流していらっしゃる方たちですね。でもボクも寄席に行ったことがあるのですが、それを皆さん軽々しくやるじゃないですか。極限的に難しいことをやるのに、苦労しました、練習しました、という思いは微塵も感じさせない。マクラ、本題、サゲに一喜一憂があり、聞き手が喜怒哀楽を体験できる。優しい気持ちにも悲しい気持ちにもさせてもらえる。落語には人を感動させる力があり、だから愛される職業になっているんですね。

普通にしゃべるだけで難しいのに、噺だけで人の気持ちを動かす。それを寄席の何百人の前で、あるいいはテレビの向こうの人たちに伝える。素晴らしいです。日本が誇る伝統として、2020年に来日する海外の人にも聞いてもらいたいですね。芝居の役柄でしたが、それを少しでも体験できたのは幸せでした。

どうしても打撃系の場面がある

――熱いキャラクターが多いドラマの中で、五りんは涼し気なイメージです。そのあたり、意識しているのでしょうか。

これは台本を読んでいても感じるのですが、ボクらと金栗さん田畑さんたちは、まるで別世界にいる人間のようです。劇中で会うこともないですし、雰囲気からして全然違う。そういった意味では「本当に俺、いだてんに出ているのか」と思うくらいで(笑)。大河ドラマは規模も大きいですし、たくさんの役者さんが出ていて、演者が把握し切れないところもある。だからひとつの作品の中で役の雰囲気を変えて、という意識はないんです。

ボクはこれまでも宮藤さんの作品にいくつか出させていただいたんですが、どれも人をムカつかせる役なんですよ(笑)。どうしても人を自然とカチンとさせる、なおかつ宮藤さんにイジメられる。どうしても打撃系の場面がある。宮藤さんの中で、もうそういう役割なんだなって。映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)でもそうでしたし、今回も再認識しました。自然とカチンとくるけれど憎めないやつだな、まったくコイツは、と思ってもらえるような役回りでなきゃいけない。だから、今回もそれを守っています。ムカつくけど如才ない、如才ないけどムカつく、そういう役としてありたい。それが結果として、皆さんの役と被っていないのであればうれしいです。

――五りんのオファーが来たときに思ったことは。

まず、キャストの中で名前が浮かないかなと心配しました(笑)。いや”五りん”って何の人なの、オリンピックじゃん、象徴的すぎちゃって大丈夫なの、みたいな。役割も教えてもらえず、ただ「落語に興味のない落語家の弟子です」みたいな。えっと、どうやって生活しているのかな、どう落語と関わらないでいるのかなと疑問に思いましたね。

その後、まさかの落語をやるようになり、物語が動く中で話をつなぐ人間ということが分かって、結果的にはうれしかったんですが。宮藤さんには疑いの目しかなかったですね(笑)。

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