神木隆之介『いだてん』インタビュー。「ムカつくけど如才ない、五りんはそういう役としてありたい」 (3/3)
オリンピックの見方が変わりました
――オリンピックへの認識が改まりましたか。
目標に向かって一生懸命、頑張っているアスリートの姿は本当に人の心を打ちますし、自分もその1人だった。でもこれまで、テレビ、ニュースでやっている程度の知識しかなかったので、皆さんと同じような楽しみ方をしていました。
『いだてん』に携わって、この人はどういうきっかけで水泳をやるようになったんだろうとか、人生の転機となったエピソードなどがすごく気になり始めました。小さい頃からオリンピックを目指していた方もいれば、途中から競技を変更された方もいる。人に言われたり、自分で「俺こっちの競技の方が向いている?」なんて才能に気づいたりしたんでしょうね。そこにたどり着くまでの理由はさまざまで、その中で挫折もあったり。普段どんな生活をして、どんな人柄で、何を目指していて、その周りにはどんな人たちがいて、と。
オリンピックの大会に向けて、人生を賭けた物語がある。選手、サポートチーム、スタッフ、国を巻き込んだ思いやしがらみを知ったら、もっとおもしろい角度で見られそうです。好きなアスリートが、いまライバルと握手した、何か喋っている、そんな楽しみ方がボクにもできるようになったら良いですね。
役柄に愛情が沸きます
――大河ドラマは4回目の神木さんですが、1年を通しての役柄は初めてです。ご感想は。
長いですね(笑)。これまでは途中参加だったり、誰かの幼少期だけだったり、限られていたのですが、最初から最後までというのは長いです。長いからこそ、自分の役を見る余裕もあるし、どうやって育てていこうかと、深いところまで考えられる。そして愛情が沸きますね。自分の中でも「ああ、こんな愛しいキャラにしたいな」という想いがあり、スタッフさん、カメラマンさんや音声さん照明さんからも「こんなふうに演出したい」というのが伝わってくる。みんなが愛情を持って、それぞれの人を見ている。
各部署が助け合いながら、ときにぶつかりながら、どうしたら良いのか考えながらやっています。愛情を感じる現場です。今回、長いので毎日の実感としてそれがあって、貴重な体験です。これを大事にしていきたい。『いだてん』で肌で感じた経験を今後、ほかの現場でも活かしていけたら。
残りの撮影も楽しみです。あぁ、コイツはここに着地したかったんだな、ということが伝わればうれしい。そこのピースを埋めていけるように、9月以降も撮影していきます。
いつもの変わりない大根さんでした
――映画『バクマン。』(2015年)でともにした、大根仁さんも今回『いだてん』に参加されています。印象的なエピソードなどあれば。
いつもの変わりない大根さんでした。最初に発表があったときは「ああ、大根さんなんだ」とびっくりしました。どんな風に撮るんだろう、何回も本番やるのかななんて思ったり。『バクマン』のときは佐藤健くんと一緒でした。大根さんはオタク気質で追求型なので、演出にこだわっているし、ボクらも演技にこだわった。お互いに結束感があって信頼できる環境でした。大根さんならボクの意図も分かってくれる、という安心感があり、「たぶんこういうことをしたいのかな」という意図も伝わってくる。疑問が不安にならず、いつでも監督に聞けた。だから今回も一緒の作品に関われて嬉しいです。
ほかのスタッフさんにもけっこう、映画で共演した方がいます。NHKのスタッフだけでなく、『バクマン』の二宮さんという助監督だったり。中学1年生のときにご一緒したスタッフさんなどもいて「お久しぶりです」という不思議な感覚。小さい頃から知ってくださっている方たちもいて、安心して撮影できています。
――五りんについて謎が深まりますが、今後のみどころは。
これから、五りんは道を踏み外しまくっていきます。古今亭志ん生の弟子として、時代が変わる瞬間を今後も語り継いでいくのかと思ったら「おぉ、違うぞ」と。シナリオが最後に近づくにつれて、五りんの方向性が二転三転していき、もっと余計に人物が分からなくなる。「え、こんなことやるの」という突拍子もないこともやり始めます。彼の、地に足が着いていない感じが表われている。結局、君はなにがやりたいの、何処に行きたいの、何を目的としているの、というような立ち位置になっていくんです。
初めてここの脚本を読んだとき、どこに着地をしたら良いのかと動揺しました(笑)。でも、これは近道でもなく遠回りでもなく、彼が歩んでいくために必要なプロセスだったんだ、という考えにたどり着きました。まぁ、でも本当に驚きましたね。そんな五りんの動向も、作品の魅力のひとつになっていけば良いかなと。
<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>