2020年3月31日

アスリートたちの公平性と、東京オリパラ延期について│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#45

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 新型コロナウイルスによる感染拡大の影響を受け、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まりました。そんななかで気になるアスリートたちの公平性をどのように保ったり、守ったりすることができるのか……。甘糟さんが綴ってくれました。

公平と言葉でいうのは簡単ですが、なかなかむずかしいこと

 ここのところ、今度こそはコロナに関係ないことを書きたいと思いつつ、そうはいかない状況が続いています。それはそれ、これはこれ、として別のことに気持ちを持っていきたいのですが、今パソコンをいったん離れてテレビをつけたら、阪神タイガースの球団社長の記者会見が流れておりました。藤浪晋太郎投手をはじめとする3選手が残念ながら陽性だったことについての会見です。

 球団幹部が藤浪投手と相談したところ、実名報道をしてほしいと申し出があったそう。嗅覚が麻痺するという初期症状を知ってもらった方がいいという判断とのこと。いくら若くて鍛錬した肉体を持つスポーツ選手でも、陽性とわかったら怖いと思います。本当に勇気のある行動です。藤浪投手をはじめとする選手の方々の一刻も早い回復を願っております。

 それにしても、今となっては、オリンピック招致が決まった時のあのみんなが万歳してハイタッチしている場面が幻のよう。まさかオリンピックが飛ぶなんて、思いもしませんでしたよね。

 選手の方たちはなかなか練習に集中できないでしょうし、競技によっては練習すらむずかしいものもあります。マラソンなんて、結局、東京であるのか北海道なのか、あやふやになってきました。

 選考された選手がそのままなのかどうかもまだわかりません。いろいろな考えがあるようですが、いったん代表に決まった選手はそのままでいいと私は思います。もちろん公平さは必要ですが、どこかで線を引かないとキリがないですし、選考がもめて準備期間が減らされるのは選手にとっては本望ではないのでしょうか。

 しかし、こうして考えてみると、公平と言葉でいうのは簡単ですが、なかなかむずかしいことですね。よく取り沙汰されるのはマラソンの選考。私の世代ですと、「私を選んでください」とわざわざ記者会見を開いた松野明美さんの真剣な表情をよく覚えています。結局、有森裕子さんが選ばれ、見事に銀メダルをとったわけですが。それから、高橋尚子さんの落選。一つ前の大会で金メダを獲得した高橋さんが選考に漏れた時は、パソコンの画面を何度も見直すほど衝撃的なニュースでした。

 そんないざこざを避けるため、今年から一発勝負の MGCを取り入れたと思ったら、まさかのオリンピック延期です。はあ〜。関係者でも選手でもない、一傍観者の私でさえ声が出てしまいます。

 もしこれからの大会で、選ばれた選手よりいいタイムを出した選手がいたとしても、決定はそのままでいいと私は考えます。瀬古利彦氏は、「内定者6人の権利を守る」と取材陣に答えたそうです。

 公平という理想を追求する志は絶対にあきめてはいけないですが、果たして最新のタイムを考慮することが公平なんだろうかとも思います。一つ前の最高タイムを出した選手にも同じ時間的余裕があったらどうなるかわかりませんし。それでなくとも屋外でするスポーツは天候に左右されますし、屋内であっても必ず同じ条件でできるとも限りません。

 あらゆる条件を受け入れてベストなパフォーマンスを発揮できるのが強い選手なのです。改めて、そんなことを思いました。

 2021年に行われる「東京2020オリンピック」、パフォーマンスする選手、運営するスタッフ、世界各地から訪れるであろう観客たち、すべての方々が安心して参加できる大会になりますように。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)

《新刊のお知らせ》

幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける甘糟りり子さんが、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)が4月3日より発売。

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<Text:甘糟りり子/Photo:MELOS編集部>