悩ましい、ランニング時の感染対策│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#49
アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。
飛沫防止のため、ネックゲイターなどで口を覆うなど対処されているランナーも多いはず。ただ、これから暑さがより厳しくなるなか、どうしていけば良いのか……。悩ましいランニング時の感染対策について、甘糟さんが綴ってくれました。
もー、どうしたらいいんだ!
私にとっては気分転換のためのジョギングですが、ここのところ走っていると気が重くなることも少なくありません。ノーマスク、ノーバフのランナーがあまりにも多いので、単純に「怖っ」と思ってしまうんですよね。
海外の研究チームによるシミュレーションによると、ランニングの際、飛沫は10メートルといわれております。通常の5倍ですね。フルマラソンを何度も走られたという山中伸弥教授も、ランニング時の飛沫について言及され、バフ(口を覆えるネックゲイター)の使用を勧めていらっしゃいました。10メートルについてはいろいろな意見があるようですが、どう考えても通常より飛ばないはずがない。10メートル説に科学的根拠はないようだけれども、単純に怖いのです。うつりたくないし、うつしたくない。
私と同様の思いの方も少なからずいるはずです。だから、めんどうくさいけれど、走る際にマスクやバフをするのは世の中に対してのマナーだと私は思います。マスクは感染防止というより、自分の飛沫を飛ばさないためにするものですからね。
なんですが、マイコースである鎌倉の海沿いは、自粛期間だった4月や5月でもノーマスク、ノーバフのランナーが目についたのです。性別や年齢に偏見はありませんが、私の見た範囲では、中年の男性のランナーが特に多く、それに続くのは十代と思しき若者でした。中には天気のいい日に上半身裸の男性ランナーもいて、唾とか汗が目に見えるような気がしました。思わず背を向けちゃいまして、それから、向こうからノーマスク、ノーバフのランナーが来たら背を向けることにしました。せめてもの抵抗です。マスク警察になりたくないので言葉はかけたりはしませんよ。
しかし、背後からやってくる高速ランナーにはなんの抵抗もできません。はっはっと息を切らして(『いだてん』風なら、すっすっ、はっはっ、ですね)、口元をむき出しにしたランナーに追い越される時の恐怖といったら! 映画『ジョーズ』のサメが出てくる場面の音楽が頭の中で再生されますよ。まあね、一瞬のことでどれぐらいの飛沫がこちらに飛んでいるのかわからないし、その飛沫にウイルスが含まれている可能性も不透明ですが。
ランニングですれ違う時の飛沫ぐらいでは感染しないという人もいますが、本当なんでしょうか。実証はされていないから、どうしても怖い気持ちが拭えないのです。ブツブツそんなことをいっているうちに、季節は夏。マスクやバフをつけて走るのも限界に近づいてきています。コロナの感染も気をつけなくてはなりませんが、熱中症への注意も必要です。もー、どうしたらいいんだ!
私はバフを使っておりましたけれど、夏向きのマスクに変えました。タキヒョーのレクールです。これ、おすすめ。
接触冷感性があるというナイロン・ポリウレタン素材だし、無縫製で作られているので縫い目がなく肌への負担も少ない。さすが繊維のプロフェッショナル。
そして、何より、私はシックな色合いが気に入りました。結局、そこかって、結局そこなんです。そこは大きい。グレー、ベージュ、ピンクがあるのですが、どれもちょっとだけスモーキーで大人っぽいのです。ただでさえスポーツウエアってカラフルになりがちなのに、そこに持ってきてカラフルなバフやら柄物のマスクを加えるのはあまり好みではなく、友人がくれたタキヒョーのマスクを見て「これだ!」と思ったのでした。ベージュとグレーをまとめ買いして使っております。洗って50回まで使えるとのこと。700円ですから、1回につき14円という計算になります。ランニング時だけでなく、普段もたいていこれです。
他の選択肢としては、走る時間帯を変えること、でしょうか。そもそもマスクをつけなければならないのは人とすれ違うからであって、人がいない状況なら、マスクはいらないわけで。
早朝なら、海岸線も人が少ないそうです。SNSでは、友人の「朝4時半からランニング」という投稿におののいていたら(私にとっては早朝というより、夜中の続きぐらいな印象)、白戸太朗さんも「朝6時から走った」とアップしているではありませんか。長いこと夜型の生活を送ってきましたが、がんばって朝型にシフトしてみようかなあと思う今日この頃。まあ、私の早朝って8時ぐらいなんですけどね。全然、早朝じゃないか……。
[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)、『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)。《新刊のお知らせ》
幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける甘糟りり子さんが、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)が4月3日より発売。
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<Text & Photo:甘糟りり子/Illustration:Getty Images>