スポーツの未来。「オリンピック」と「運動会」への想い│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for2020〜」#55
みなさん、こんにちは。陸上競技の寺田明日香と申します!
今回のコラムでは、選手と母親という両方の立場から、迫り来る「東京オリンピック」と「スポーツ」への想いを書いてみたいと思います。
最後まで、お付き合いのほど、よろしくお願い致します!
「運動会」が中止になってしまう現状
1年延期になったオリンピック。そのオリンピックが、約60日後に迫っています。そんななか、私が主催するA-STARTメンバーのレースも続々と始まっており、「ベストが出た!」や、「入賞した!」などの連絡が入るたびにうれしさがこみあげてきます。
一方で未だコロナ感染者が多い地域は、緊急事態宣言下のまま。行事やイベントが中止、延期になっていることを考えると、複雑な想いもあります。私は、選手としての側面、母親としての側面を持っているため、立場によって考え方や見え方が変わったり、両方の立場から考えたときに矛盾や葛藤を持ったりすることがあります。
昨年の緊急事態宣言下と比べると、この1年間でコロナ禍の新しい生活様式がだいぶ染みつき、イベントやスポーツ大会における感染対策ガイドラインも示されるようになって、多くのイベントの開催も可能になりました。
しかし、運動会などの学校行事や、地域のイベントなどでは中止になってしまうことも未だ多く、楽しみにしていた子どもたち、家族の悲しみは大きいと思います。我が家の娘の小学校では、運動会は開催の方向で学校側が準備を進めてくださっていますが、別の学校に通うお友だちの何校かは、すでに運動会中止が決まってしまったと聞いています。
「楽しみにしていた運動会がなくなって、五輪があるなんて」
子どもや親たちが、そんな風に考えてしまうのは、ごく当たり前のことなのではないかと思っています。私自身、もし娘の運動会が中止になって、自分の出場するオリンピックが開催される場合、「娘の運動会を差し置いて自分が大運動会(オリンピック)に出るのか」と、複雑な想いを抱くことは間違いありません。
今年は学生の大会も開催されることが多くなりましたが、昨年はインターハイをはじめとした学生のための試合が軒並み中止になった一方、シニアの試合はいくつか開催されたので、昨年時点でも学生たちのことを考えると心苦しく感じていました。ただ、その分「私もがんばらなければいけない」とも思っていました。
オリンピックと運動会。アスリートとママ。
運動会とオリンピック。
2つの共通点は、その日のために一生懸命準備をしてくれる人たちがいて、出場する人たちは、仲間たちと一生懸命にからだを動かして、がんばること。また、その時、その瞬間にしか味わえない体験があるということ。
違うところは、国と国でのやりとりがあるということや準備期間、それに関わっている人たちの規模、かかるコスト、考えられる利益、成績によって人生が即変わるか変わらないか、などでしょうか。
“想い”の大きさでは、運動会も五輪も、私は変わらないと思っています。
母親という立場になっていっそう、子どもたちが楽しみにしていることがなくなっていくのは本当に辛いし、娘の想い出の一部を見られないのは悲しいです。なので、一方ができて一方ができないというのは、なんだかモヤモヤするのです。
ただ、選手としての私は、“仕事”として多くの人たちが関わっているものと、運動会とを同じ天秤にかけてはいけないのではないか、と思ったりもします。五輪で輝くのは選手ですが、その選手の後ろには、たくさんのスタッフや関係者の方々がいて、いろんなところで雇用を生み出しています。
この2つを並べてみても、母親の私と選手の私がせめぎ合うわけですが、1つ忘れてはいけないことは、どちらも「楽しみだ」と思う人もいれば、「やらなくていい」と思う人もいる。なくなって「残念だと」思う人もいれば、「よかった」と思う人もいる。どちらに転んでも、うれしい想いをする人も、悲しい想いをする人もいるということだと思います。
人それぞれ思うことや、感じることが違うのは当たり前で、自分と考えが違うからと排除をしてしまうと、自分の世界まで狭くしてしまうような気がしています。
未来に繋げていくために
4年に一度のオリンピック。楽しみな人も興味がない人も、嫌いな人もいるでしょう。
それでも私にとってのオリンピックは、小学生の時からの憧れであり、夢です。小学校の運動会は6年間ずっとリレーの選手だったし、徒競走では一度も負けたことがなかったので、おこがましくもオリンピックを目指す、なんて小学校の卒業文集に書いています。
でも、地方育ちの、ちょっと人より足が速い1人の子どもは、当時のオリンピックを見て「ここに出たい」と思ったのです。今、オリンピックを目指している選手たちのほとんどが、子どもの頃は私のように考えていたのではないでしょうか。
世界的に大変な状況下で、スポーツの祭典などやっている場合ではない、と言われるのはもっともですが、オリンピックがなくなることで、「スポーツってすごい、やりたい!」と思うきっかけ、そして未来がなくなることは、とても悲しいと思っています。
立場が違えば、考え方も見え方も感じ方も違う。ただ、よい社会、よい未来を求めるのは、みんな同じはず。
オリンピックを夢見ていた子どもから、オリンピックに手が届きそうになっている大人になったからこそ、"今"だけではなく、どうやったら"未来"(子どもたち)に繋げていけるかを考え続けていきたいと思っています。
【あわせて読みたい】
・アスリートの立場から。東京オリンピック開催の是非について伝えたいこと
・応援される⇔応援する、アスリートの私に娘が教えてくれた発見とは?
【この連載のアーカイブはこちら】
・寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for 2020〜」
[プロフィール]
寺田明日香(てらだ・あすか)
1990年1月14日生まれ。北海道札幌市出身。血液型はO型。ディズニーとカリカリ梅が好き。会いたい人は、大谷翔平と星野源。小学校4年生から陸上競技を始め、小学校5・6年時ともに全国小学生陸上100mで2位。高校1年から本格的にハードルを始め、2005~2007年にはインターハイ女子100mハードルで史上初の3連覇。3年時には100m、4×100mリレーと合わせて同じく史上初となる3冠を達成。2008年、社会人1年目で初出場の日本選手権女子100mハードルで優勝。以降3連覇を果たす。2009年世界陸上ベルリン大会出場、アジア選手権では銀メダルを獲得。同年記録した13秒05は同年の世界ジュニアランク1位だった。2010年にはアジア大会で5位に入賞するが、相次ぐケガ・病気で2013年に現役を引退。翌年から早稲田大学人間科学部に入学。その後、結婚・出産を経て女性アスリートの先駆者となるべく、「ママアスリート」として、2016年夏に「7人制ラグビー」に競技転向する形で現役復帰した。同年12月の日本ラグビー協会によるトライアウトに合格。2017年1月からは日本代表練習生として活動した。2018年12月にラグビー選手としての引退と陸上競技への復帰を表明。2019年シーズンから競技会に出場し、6月に日本選手権女子100mハードルで9年ぶりの表彰台となる3位に入り、7月には100mでも自己記録を更新。8月には19年前に金沢イボンヌ氏が記録していた日本記録13秒00に並ぶと、9月1日に「富士北麓ワールドトライアル2019」で史上初めて13秒の壁を突破し、12秒97の日本新記録を樹立。カタール・ドーハで開催された「世界陸上」に出場。2021年には12秒96に日本記録を更新した。再び陸上競技選手として、2020年東京オリンピックを目指す。
◎所属企業:株式会社ジャパンクリエイトグループ
◎主な記録:100mハードル日本記録保持者(12秒96)/100mハードルU20日本記録保持者(13秒05=2009年世界ジュニアランキング1位)/100mハードル日本高校歴代2位(13秒39)/100m:11秒63【今後の主なスケジュール】
●第8回木南道孝記念陸上競技大会
2021年6月1日(火) 大阪・ヤンマースタジアム長居
●サトウ食品日本グランプリシリーズ 鳥取大会 布勢スプリント2021
2021年6月6日(日) 鳥取・鳥取県立布勢総合
●第105回日本陸上競技選手権大会 兼 東京2020オリンピック競技大会 日本代表選手選考競技会
2021年6月24日(木)~27日(日) 大阪・ヤンマースタジアム長居
●東京オリンピック
2021年7月30日(金)~8月8日(日)東京・国立競技場
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<Text & Photo:寺田明日香/Edit:松田政紀(アート・サプライ)>