2021年6月22日

寺田明日香、いざ日本選手権へ! 夫兼マネージャーが見どころを解説します!│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for2020〜」

 寺田明日香を応援してくださるみなさま、いつもありがとうございます! 夫兼マネージャーの佐藤峻一です。いよいよ今週末、日本陸上競技選手権大会が開かれます。東京オリンピックに向けての最終選考会にして、最重要の大会です。

 今シーズン、寺田が二度にわたり日本記録を更新したことで、「日本新記録! しかし、参加標準突破ならず」というニュースが多く聞かれ、「寺田はオリンピックに行けるのか? いつ決まるんだ?」というご質問をよくいただきます。

 そこで今回は特別編として、ただの夫兼マネージャーではなく、一応(!)日本陸連の元職員である私が、寺田のオリンピックへの道、そして日本選手権の見どころを解説させていただきます。いろいろな思いがこもってしまうので、ついつい長くなってしまいますが、お付き合いのほどよろしくお願いします!

寺田明日香、オリンピックへの道

 まず、寺田明日香が進むべき、オリンピックへの道です。長いので結論を書きますが、

●参加標準記録を突破しなくても出場できる道はあります!
●内定するのは最短で6月26日の日本選手権決勝です!
●現状ワールドランクで出場圏内にいます!

 こちらの日本陸上競技連盟が掲げる選考要項(※)ですが、抜粋&補足します(専門家ではないので、誤っているところもあるかもしれませんが、おおよそこんな感じです)。

※関連ページ:日本陸連の選考要項はこちら

 「陸上競技女子100mハードル」でオリンピックに出場するには、下記5つの条件があります。
なお優先順位は、1)→5)です。

1)日本選手権(6月25日:予選・準決勝、26日:決勝)で3位以内&日本選手権終了時までにオリンピック参加標準記録(12秒84)を突破
2)日本選手権で3位以内&7月1日にWA(ワールドアスレチックス)が公表するワールドランクにより出場資格を得た競技者
3)オリンピック参加標準記録(12秒84)を満たした競技者
4)ワールドランクにより出場資格を得た競技者
5)ファイナルエントリー後にWAから追加による出場資格が認められた競技者

 では、それぞれの条件について詳しくみていきましょう。

 1)については、期間内(2019年5月1日~2020年4月5日、2020年11月31日~2021年6月29日)に参加標準記録を突破すればそれだけでOKというわけではなく、日本選手権で3位以内に入る必要があります。ちなみに、寺田の自己記録(=日本記録)は12秒87で、参加標準記録にはまだ0秒03足りません。また、陸上復帰後の寺田の日本選手権の成績は2019年3位、2020年2位です。

 2)については、女子100mハードルのターゲットナンバー(定員のようなもの)は40人です。ワールドランキングはこちらから検索できます。

●Road To | World Athletics
https://www.worldathletics.org/stats-zone/road-to/7132391
(一番上のFILTERというところで、Women’s 100mHを選んでください)

 6月21日に閲覧すると、寺田のランキングは日本人1位の34位で、ランキングでの出場圏内にいます。このワールドランクは大会の格・順位・記録で点数化され、期間内(2019年6月30日~2020年4月5日、2020年11月31日~2021年6月29日)に自身が獲得したポイント上位5レースの平均の点数です。

 また、オリンピック陸上競技での同一種目の出場は1か国3人までになっているので、その国の4位以下の選手は除外されます。なお、ほかに日本人では36位(日本人2位)に青木益未選手、38位(日本人3位)に木村文子選手がおり、それぞれ圏内にいます。
※注:記録の有効期限である6月29日までに世界各国で大会が行われるので、ランキングはまだ上下します。

 3)は1)のうち、4)は2)のうち日本選手権で3位以内に入らなかった場合です。5)の場合は、タイムやランキング上位者から、辞退者による繰り上げが行われます。

 というわけです。おわかりいただけたでしょうか?

 6月29日までが記録の有効期限かつワールドランキングの期限となっていることもあって、日本記録を樹立してもそれがすなわちオリンピック内定とはいかず、先日、男子100mで9秒95秒の日本記録を更新した山縣亮太選手でさえも、まだオリンピック出場が確約されたわけではありません。

 つまり、参加標準記録突破とランキングを上げるための大会が続いてきており、その中でどれだけ実績を積み重ねても、基本的には6月25・26日の日本選手権が最重要ということです。

寺田にとっての日本選手権

 それではこの日本選手権、寺田にとってはどのような大会なのでしょうか。寺田の過去の日本選手権の結果は下記です。

2008年(18歳) 優勝(13秒51 向かい風1.5m)
※初出場、同種目最年少優勝
2009年(19歳) 優勝(13秒05 追い風1.9m)
※日本ジュニア記録、2連覇、同年の世界ジュニアランキング1位
2010年(20歳) 優勝(13秒32 向かい風2.0m)
※3連覇
2011年(21歳) 準決勝敗退(13秒87 向かい風0.5m)
2012年(22歳) 欠場
2013年(23歳) 予選敗退(13秒85 追い風0.3m)
  ― 6年間のブランク ―
2019年(29歳) 3位(13秒16 追い風0.6m)
※6年ぶり出場、9年ぶりの表彰台
2020年(30歳) 2位(13秒14 向かい風0.1m)

 このように、初出場から3連覇を果たしましたが、以降3年間は準決勝敗退、欠場、予選落ちで、2013年の日本選手権を最後に引退します。その後結婚、大学進学、出産、7人制ラグビー転向を経て6年ぶりに臨んだ2019年の日本選手権は、準決勝を全体1位で通過したものの決勝では3位、日本記録保持者として臨んだ昨年の日本選手権でも準決勝を全体1位で通過したものの決勝では2位に終わっています。

 なお、寺田が初優勝した2008年以降の日本選手権優勝者は下記のとおりです。

2008年 寺田明日香
2009年 寺田明日香
2010年 寺田明日香
2011年 木村文子(寺田は準決勝敗退)
2012年 木村文子(寺田は欠場)
2013年 紫村仁美(寺田は予選敗退)
2014年 木村文子
2015年 柴村仁美
2016年 木村文子
2017年 木村文子
2018年 青木益未
2019年 木村文子(寺田は3位)
2020年 青木益未(寺田は2位)
2021年 6月26日に決定!

 このように、この5年間は木村選手と青木選手が優勝をわけ合っています。ちなみに、大会記録は2013年の柴村選手と、昨年青木選手が出した13秒02。日本選手権ではいまだ12秒台での決着がありません(寺田は2019年9月に富士北麓ワールドトライアルで日本人初の12秒台=12秒97を記録)。

 また、今季の寺田の成績は、以下の通りです。全7レース中最初の1レース以外全てで12秒台を出しています。

  予選 決勝
4月29日織田記念 13秒25(+0.3m) 12秒96(+1.6m)
※日本新記録
5月9日READY STEDY TOKYO 12秒99(-0.8m)
6月1日木南記念 12秒87(+0.6m)
※日本新記録
12秒89(+0.3m)
6月6日布勢スプリント 12秒95(+0.9m) 12秒89(+1.8m)

 一方、同じく日本記録を持つ青木益未選手は、布勢スプリントで巻き返しました。

  予選 決勝
4月29日織田記念 13秒27(+0.4m) 13秒34(+1.6m)
5月9日READY STEDY TOKYO 13秒06(-0.8m)  
6月1日木南記念 欠場  
6月6日布勢スプリント 13秒01(+0.8m)  12秒87(+1.8m)
※日本タイ記録

 青木選手は前述のワールドランキングでは日本人2位の36位におり、出場圏内。まさに2人は好敵手といえます。

思い入れのある日本選手権の金メダル

 これはこぼれ話なのですが、実は日本選手権で与えられるメダルは2011年から現在のデザインになっています。

 ハードル種目の同じ「日本選手権」では、2020年から設けられた「日本選手権室内」もあり、寺田は60mHで2020年は2位(8秒14)、2021年は5位で、いずれも優勝を逃しています。

 寺田が最後に日本選手権を制したのは2010年。つまり、百獣の王・ライオンが大胆にあしらわれた現在の重厚感あふれるデザインでの金メダルを寺田は獲得したことがありません。

 寺田の陸上競技復帰以来、娘が欲しがっている「ライオンの金メダル」は、日本選手権の勝者にしか与えられない名誉あるもの。実に11年ぶりとなる優勝を果たして、初の「ライオンの金メダル」獲得は悲願でもあります。

 そして、寺田を応援してくださるみなさまに、ぜひ想いをご共有いただきたいのは、チームあすかとして、「オリンピックのファイナリストになる」という目標を掲げているという点です。

 上記のようにワールドランキングによってオリンピック出場の可能性は高まっていますが、その目標のためにも参加標準記録を突破してオリンピックに出場することが、世界で戦う上で必要な要素になるのです。そのため、12秒84を切っての金メダル、というのが日本選手権で見据える目標というわけです。

 長くなりましたが、泣いても笑っても、東京オリンピックに向けた決戦、ぜひ楽しんでご覧ください! そして、一緒に跳び越えていきましょう!

Hurdle for it!!!

【▼寺田選手によるエッセイ連載のアーカイブはこちら】
・寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for 2020〜」

<Text:佐藤峻一/Photo:Ikumi KODAMA/Edit:松田政紀(アート・サプライ)>