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目指すは2020東京。3D化実現なるか!? 進化するスポーツ用義肢装具

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 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、アスリートを支えるスポーツ用義肢装具にも注目が集まっています。今、義肢の世界はどのように進化し、何を目指しているのか。競技の見方が変わる興味深いお話を、義肢装具士の沖野敦郎さんにお聞きしました。

スポーツ用義肢装具士の仕事とは?

――義肢装具士さんの仕事って、具体的にどのようなものなのでしょう。

まずは足を入れる部分(ソケット)を作るのが義肢装具士の仕事です。クルマのF1で例えると、車のシートに当たる部分。車のシートの出来が悪いと、木の椅子に座っているようなもので長時間耐えられません。振動があっても痛くない、体にフィットするシートを作らないと。石膏で切断部分の型採りを行う、完全オーダーメイドです。

ソケット以外のジョイント部品や板バネのカーボンの部分はメーカーが開発、製作したものを自由な発想で組み合わせていきます。車でいうとエンジンやフレームにあたる部分はどれを選ぼう、というふうに。

――完成までどれくらいの時間がかかるんですか?

型を採って納品まででしたら3~4日でできますが、ただ単に足の形にあわせて作るだけでは使えません。そこから調整が必要になります。人間の足は踵で体重を支えるようにできていますが、切断されている場合は、その部分に体重がかかるととても痛いんです。それで型となる石膏を削って、押しても痛くないところ、たとえば膝の下のじん帯のところなどへ体重を逃がすように、型を削って調節していきます。

競技用の場合、実際に走りながら繰り返し調節を行っていきます。もともと自分も陸上をやっていたので、ただ彼らと一緒に走りたいという目的もあるんですが(笑)、しょっちゅう現場に出かけています。

競技人口は伸び悩み。国内義肢アスリートの現状 

――今回は義肢を使用する競技のなかで特に陸上トラック競技についてお伺いしたいのですが、どのような種目があるのでしょうか?

義肢を使って走る種目は、100m、200m、400mの3種類です。その中で障がいの種類によって細かくクラス分けされています。800m以上は2周目からオープンレーンになるので、コース取りのための厳しい競り合いは危険という理由で、800m以上はありません。

――義足で100mは何秒くらいで走れるのですか?

男子の膝下切断の世界記録は、10秒61。膝上切断になると12秒01です。12秒といったらちょっと速い中学生。10秒61ならかなり速い大学生レベルです。膝上切断よりもひざ下切断の方が、片脚義足よりも両脚義足の方が速い記録が出ています。400mだと一時期有名だった両脚義足のオスカー・ピストリウスの記録が45秒39。もう健常の日本人でも勝てない記録です。片脚義足の人の場合、400mの世界記録は49秒66と、一般の速い高校生くらいです。

――100m、200m、400mと複数の種目に出場する場合、義肢は替えるんですか?

いい質問ですねぇ。距離によってスピードが違うので、フォーム、動きも変わってくるので、400m用の板バネ、100mの板バネというふうに履き替えます。カーボンの部分が固ければ固いほどスピードが乗ったら速いんですけど、スピードに乗るまでが大変なんです。柔らかいとしなってくれるので、スタートした直後はスピードに乗れるんですけど、最高速度は出なくなる。その兼ね合いが難しいですね。

――日本でいまスポーツ用の義足を使用している競技人口ってどれくらいの規模なのでしょうか?

少ないですよ。日本国内の切断者がおおよそ6万人と言われていますが、その中でこういう板バネを履いて陸上競技の本格的な競技会に実際に出てくる人となると非常に少ないですね。パラリンピックのレベルで競技している人となると、15人もいないかなという程度です。

――なぜそんなに少ないのでしょう?

競技人口がなかなか増えない理由の一つには、このスポーツ用義肢の価格が高いというのがあると思います。また作った後のメンテナンスも大変なんです。運動すると、当たり前ですが筋肉がついてくる。体の変化に合わせて、ソケットを調整する必要があります。その手間の大変さも、競技人口が増えない原因になっていると思います。

健常者の記録を超える!? スポーツ用義肢装具の可能性

――パラ陸上を観戦するうえでのポイントはありますか?

選手はもちろんですが、義肢にどこのメーカーを使っているのか注目してみると面白いと思います。アイスランドの「オズール」とドイツの「オットーボック」。今はこの2社がほとんどなのですが、ここに日本のメーカーが挑もうとしています。通常はエンジニアが素材を開発して、義肢装具士が義肢を作って、それで終わりなんですけど、義足を使いこなすためのトレーニングを元オリンピック選手の為末大さんが担当していて、三位一体のような形で義足アスリートのサポートする、「Xiborg(サイボーグ)」というメーカーです。100m佐藤圭太選手(膝下切断)が2016年にリオパラリンピックで使用しました。最近では海外の一流選手でも使う人が出てきています。これは注目です。

――スポーツ用の義肢には、なにか制限はあるのですか?

ルールがあります。まず長さ。片脚義足にはありませんが、両脚義足の人は長さの制限があります。形状のルールとして、スプリングの形状と車輪はダメです。あと、動力がついたらダメ。素材の制限はありません。ルールが整備される前に、義肢やそれを使う人間が追い越しちゃったって感じです。ドイツの膝下切断の選手は、幅跳びで8m40㎝という記録を跳んでしまい、ロンドンオリンピックの健常者の優勝記録を超えてしまいました。ですから、そのうちカーボン素材を使ってはいけない、ということになるかもしれません。

ただ、このカーボン素材って、健常者のスパイクの裏にも入っているんです。原理は一緒。しならせて、ぽーんと跳ねるために使われています。義肢のカーボンを禁止にするならスパイクもダメにして欲しいと思いますけど(笑)。

――東京オリンピックに向けてますます競争が激しくなると、さらにいろいろ出てきそうですね。

そうです。でも作り手としてはおもしろいですね。これまでマイナスとされてきた障害がプラスに変わるというのが、なんか痛快というか、弱小チームが勝つみたいな思いがあります。

――東京オリンピック・パラリンピックに向けて、さらに進化していくとしたらどんな部分でしょうか?

見ていただければわかるんですけど、今の競技用義肢は板状の2次元的なデザインになっています。実は陸上競技は直線だけではありません。カーブも走ります。私たちには足首があるので、ある程度カーブも対応できますが、義肢だと板の部分が斜めに着地するんです。そうすると片当たりしてバネの効果が落ちてしまいます。この構造を立体的なデザインにして、速く走れるものができてほしいです。

それともうひとつ、構造的に3次元で解析してもらって、スピードが遅いときとスピードが上がったときのたわむ部分を変えて固さが出るような構造が実現できればと考えています。世界的にもまだ存在しないので。これが「東京」に間に合うか。間に合ったら相当おもしろいことになると思います。

パラ陸上の世界は、まさに自動車レースの世界。車(義肢)と、運転手(競技者)がそろってこそ、勝利を得ることができます。今も進化を続けるスポーツ用義肢。この性能、特性、駆け引きを知っているだけで、目の前で繰り広げられるレースも全く違ったものに見えてくるでしょう。果たして東京パラリンピックに、どのように進化した義肢が登場するのか。日本人選手の活躍とともに、ぜひ注目していきたいですね。

[プロフィール]
沖野敦郎(おきの・あつお)
オキノスポーツ義肢装具(オスポ)代表、義肢装具士。1978年生まれ、兵庫県出身。山梨大学機械システム工学科在学中の2000年、シドニーパラリンピックのTV中継で見て義足で走るアスリートを見て衝撃を受ける。大学卒業後、専門学校で義肢装具製作を学ぶ。2005年義肢装具サポートセンター入社、2016年オキノスポーツ義肢装具(オスポ)設立

<Text:芳原信(オフィス・サウス)+アート・サプライ/Photo:吉田直人、丸山美紀(アート・サプライ)、Getty Images>

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