“ほぼノーマスク”のウィンブルドンを観て。│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#62
アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。
今回は、先日開催されたテニスの4大大会・ウィンブルドン選手権について。
コロナとの共存を選択したイギリス
先週末、2年ぶりのウィンブルドンの決勝戦の中継を見ました。楽しむには楽しんだのですが、なんだか、いろいろと考えてしまったのも事実です。
映し出される観客席は満員。観客数を絞ってスタートしたウィンブルドンですが、セカンドウィークの火曜(現地時間の7月6日)からフルで観客を入れるようになりました。ほとんどの人はノーマスク。マスクをしている人は探さないと見つからないほどです。
▲ウィンブルドンの観客席
女子の決勝戦はトム・クルーズやウイリアムズ王子とキャサリン妃の夫妻なども観戦しておりました。トム・クルーズは関係者用のボックス席ではなく、一般席に座っていてちょっと驚きました。セットチェンジの際にサインを求めてきたファンに気さくに応じる様子をカメラに抜かれておりました。
▲トム・クルーズ
かつてはなんてことない場面だったはずですが、今の私たちにとってはまるで別世界。映画でも見ているような気がしました。
表彰式では、今年でオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブの会長職を退かれるケント公とともに、キャサリン妃がプレゼンテーターを務めました。ウィンブルドンの芝をイメージしたと思われるグリーンのワンピースに、ウィンブルドンのドレスコードである「白」のハイヒールという、ぬかりのないいでだち。この日が公務再開の初日だったそうです。
▲キャサリン妃
式典はもちろん、その後にクラブハウスで優勝者を出迎える場面でも実にエレガントで、これぞ王室という感じ。試合以外にもいろいろ楽しいです。グランドスラムを見るのは。すっかりコロナの前に戻ったウィンブルドンでした。
女子の決勝はチョコのカロリーナ・プリスコバ対オーストラリアのアシュリー・バーティ。2−1でバーティが勝ったわけですが、放送によるとグランドスラムの女子の決勝でフルセットにもつれ込んだのは久しぶりのことだとか。いわれてみれば、決勝戦は意外とストレートが多いかも。
▲アシュリー・バーティ
変則的な得点の数え方ゆえに一つのポイントでガラッと流れが変わるのが、テニスの特徴ですが、この試合もまさにそんなおもしろさに満ちておりました。なかなかのシーソーゲームで、得点以上に拮抗した試合でした。私は、昨年あたりからプリスコバの佇まいにひかれてますが、どちらにも勝たせたい!と思うようなね。
テニスの最高峰の大会の決勝戦ですから、当たり前ですが、ポイントが終わる度に場内から割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こります。そういう当たり前の日常を取り戻しつつあるイギリスをうらやましく思いました。スポーツイベントは観客とともにあって、成り立つものなんだなあと実感いたしました。
先ほど気晴らしに見たSNSでは、ある写真家の方が、オリンピックの仮設観客席を巡って撮影した写真をアップされておりました。結局、これらは一度も使われることなく、ただ壊されるのを待っているだけなんですよね。貴重な記録だと思います。
私は今でもオリンピック・パラリンピック開催に反対です。始まってしまえば盛り上がるだろうなんていう馬鹿にした見方の通りになるつもりはまったくありません。私は見ませんし、話題にしません。しかし、同時に、このままなし崩しのオリンピックが開催され、それによって感染者が急増し(多分するでしょう。誰が見たってそう思いますよね)、パラリンピックだけが中止になるなんて事態にならないことも願っています。あまりにも政府や組織委員会は、「開催する」という事実だけにこだわりすぎているし、透けて見えるのはあからさまな利権だからです。
▲国立競技場
2年延期にせず1年にしたのだからそれなりの見通しや策があるのかと思いきやそれはなく、とはいえ1年間はあったというのに、オリンピックを開催したいのなら本気で確保を目指すはずのワクチンも結局間に合わず、無観客でしか開催できないのなら見送るか延期をするものかと思いますが、そうしないのならせめて然るべき理由を説明して無観客有観客を決め都道府県で統一するのかと思ったらそれもできず、対策としてあげているバブル方式とは名ばかりの運営方法で、挙句にIOCの会長には「チャイニーズ・ピープル」と間違えられる始末。このニュースを知った時、呆れて思わず笑ってしまいました。今回の「東京オリンピック」は放映権のための場所貸しでしかないようですね。悲劇と喜劇が紙一重。
[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)、『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)。
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<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>