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LGBT+と競技の公平性をどう考えたら良いだろう│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#63

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、人気の海外ドラマを観て感じた、性的マイノリティの人々と競技スポーツの考え方について。

誰だって誰かの代わりになるべきではない

 アメリカのテレビドラマ『NYガールズ・ダイアリー』が好きです。原題は『The Bold Type』。Bold Typeには太文字という意味と大胆な質という意味があるそうです。

 ニューヨークにある出版社の女性誌の編集部が舞台。そこで働く主人公の女性たちが仕事や恋愛で悩み、傷つき、成長していく物語。なーんて書くと、1998年から2004年にアメリカで放送された『セックス・アンド・ザ・シティ(SEX and the CITY/SATC)』の二番煎じかと思ってしまいますよね。正直にいうと、私もそういう偏見による好奇心から見始めました。もちろん『SEX and the CITY』は大好きです。世代的にも存分に楽しみました。その現代版と言われるドラマはどんなものかなあと思ったのがきっかけです。

 『NYガールズ・ダイアリー』も同様に、登場人物たちがセックスの悩みを本音で相談し合います。かなりきわどい会話や場面もありますが、今時らしく人種や性的指向に踏み込んでいます。

 3人の主人公の1人キャットは、SNS部門のトップを任されているキレ者。裕福な家庭で育った、アフリカ系です。ストレートでしたが、シーズン1でレズビアンとの恋愛を経験します。キャリアがあってアフリカ系でレズビアン。強者でもあり弱者でもあるのです。他の登場人物である2人の白人女性とは仲良しですが、それでも「あなたたちといくら仲良くしていてもまだ、白人しかいない場面に入っていくのは怯む」といったことを打ち明ける場面もありました。

 シーズン4の第3話は、ニューヨークで行われる市民マラソン大会を扱ったエピソードです。キャットはさっそく、ランニングファッションやらランナーへの取材やらを企画します。昼食をデリバリーしてくれた顔見知りの女性もランナーなので、気軽に「走るの?」と聞くと、彼女の顔が曇ります。彼女は元男性で、エストロゲン注射をしているのですが、書類上は男性として扱われてしまうため、エントリーできないとのこと。

 情に厚いキャットはさっそく、彼女のために行動します。怪我で走れなくなった女性のゼッケンを手に入れ、彼女に出走を進めます。しかし、彼女は「誰かになって走りたくない。自分の名前で走れないなら意味がない」といいます。至極、当たり前の感情です。キャットはそれに気が付かず、外側の形だけ整えようとした自分を反省し、大会の主催者にかけ合います。最後の最後で主催者もそれを受け入れ、デリバリーの彼女は「女性として」「自分の名前で」走ることができました。

 心に残る回でしたし、この結末も納得です。生まれた性が必ずしもその人の性とは限らないし、誰だって誰かの代わりになるべきではない。当たり前のことを再認識できました。

 とはいえ、新たな疑問というか、これが市民大会などではなく、その結果によって利益や名誉がもたらされるような大会や試合、もしくはプロスポーツの場合はどうなるのだろうかと考えてしまいました。もし仮に自分が女性のアスリートで、一生懸命練習を重ね、やっと出場権を獲得した試合で、元男性でホルモン治療によって女性になった誰かと競うことになったら、同じように「生まれた性が必ずしもその人の性とは限らない」とすんなり受け入れられるでしょうか。私に限っては、やっぱり無理だと思います。そして、選手個人の問題だけではなく、そこに公益性が生まれるなら個人が納得すればいいというものでもないでしょうし。

 アスリートでも、LGBT+の人はいるでしょう。そして、『NYガールズ・ダイアリー』のデリバリーの彼女のような心境になるかもしれない。

 実際に、今回の東京オリンピックではトランスジェンダーの選手が出場して、論議を巻き起こしています。ニュージーランド重量挙げの代表・ハバード選手は、2013年に性転向の手術を受けるまでは男性として試合にエントリーしていたそうです。

 何が正解なのか、私にはわかりません。しかし、世の中の意識が進んできた今、こうした問題は避けられない。個人個人が考える時期にきたのではないでしょうか。公平ってなんだろう、と。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)、『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)。

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<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>

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