2018年5月30日

呼吸や心臓が止まったときの応急処置は?「心肺蘇生法(CPR)」の正しいやり方

 スポーツ中に突然起こる体調不良。最悪の場合は、命の危険をともなう場合もあります。たとえ自分でなくても、まわりの人が体調不良を訴えた際には対処できるようにしておきたいものです。今回は、もっとも重要な応急処置の1つ「CPR(Cardio Pulmonary Resuscitation)」について学びましょう。

CPRとは

 CPRとは、心肺蘇生法(Cardio Pulmonary Resuscitation)のこと。皆さんもご存知の、心臓マッサージや人工呼吸がそれに当たります。呼吸や心臓が停止している人に対し、特殊な器具・医薬品がない状態でも施すことができる処置がCPRであり、このCPRがしっかりできていたかどうかが救命率を左右する重要なポイントとなります。

 心肺停止目撃時刻から、救急隊員が心肺蘇生を開始した時点までの時間区分ごとに、1ヵ月後の生存率を比較してみましょう。心肺蘇生開始5〜10分における1ヵ月後の生存率は 12.3 %であったのに対して、10〜15 分までは7.9 %と約4割低くなっています。また、1か月後の社会復帰率を比較すると、5〜10 分までが7.0 %であったのに対し、10〜15 分までは 3.9 %と約半分です。このことからも、いかにすぐCPRを行うことが大切か分かるでしょう。救急隊員が駆けつけるまでに私たちがCPRを行うことで、生存率をさらに高めることができるのです。

覚えておきたいCPRの流れ

 ここでは、倒れている人を発見した際の対応について、一連の流れをご紹介します。いざという時のために、しっかり頭に入れておきましょう。

1.倒れている人を発見したら、声をかけたり肩を叩いたりして、意識の確認を行います。

2.反応がない場合は協力者を求め、119番通報とAED(自動体外式除細動器)の手配を依頼します。

3.空気の通り道(気道)の確保を行います。気道確保は、あご先を上に持ちあげ、頭を後ろに傾けるようにします。

4.呼吸を確認します。気道を確保したまま、胸が上下に動いているかどうかを目で確認し、呼吸音がするかどうかを耳で確認します。また吐く息が感じられるかどうかも確認します。

5.正常な呼吸がない場合は、人工呼吸を行います。相手の鼻をつまんで、胸が上がる程度まで口から息を吹き込みます。

6.人工呼吸を2回繰り返しても呼吸が回復しない場合には、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行います。胸骨圧迫は毎分約100回のテンポで30回続けて行います。AEDを使用しない場合は人工呼吸と胸骨圧迫を繰り返します。

 最近では、人工呼吸より心臓マッサージの方が重要であるということが分かってきました。心拍や呼吸の確認ができない時点で、心臓マッサージを開始するようなガイドラインも発表されています。倒れている人を発見し、心拍や呼吸がないようであれば、すぐに心臓マッサージを開始するようにしましょう。また、1人で対処する場合は人工呼吸を無理に行わず、心臓マッサージを継続させることが重要です。

心臓マッサージにおけるポイント

 生存率を高めるためには、正しい方法で行わなくてはいけません。ここでは、心臓マッサージにおけるポイントを4つお伝えしておきましょう。

1.胸骨圧迫は5~6cmの深さ
 心臓マッサージは、胸の真ん中である胸骨の下半分を、5cmほど沈むように圧迫します。圧迫する位置も重要なので、事前にしっかりチェックしておきましょう。

2.リズムは1分間につき100~120回
 圧迫するリズムは1分間に120回を目安に行いましょう。1秒間に約2回行うわけですから、思った以上に速いペースで圧迫しなければいけません。それを救急隊員が駆けつけるまで継続させるのはかなり大変です。1人では体力が持ちませんので、複数人で交代しながら行いましょう。

3.胸骨圧迫では胸をしっかりと元の位置に戻す
 圧迫を行うたびに、胸を元の位置にしっかり戻すことを意識しましょう。戻しが少ないと圧迫し続けている形になり、血液の循環がうまく行われません。止まってしまった心臓の代わりに血液を循環させるイメージを持って、適切な圧迫と圧迫の解除を行うようにしてください。

4.胸骨圧迫の中断を最小限に
 圧迫の中断が10秒を超えないように気をつけましょう。AEDをセットする時なども、極力圧迫の中断を少なくすることが重要です。

AED(自動体外式除細動器)の重要性 

 普及が広まっているAEDは、ぜひとも活用していただきたい機器です。AEDとは自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator)のこと。停止した心臓に対し、電気を流すことによって心臓の拍動を再開させるためのものです。

 突然の心停止の多くは、心室細動と呼ばれる心臓の心室が小刻みに震えることによって、血液の循環が行われなくなってしまうことが原因です。この心室細動に対して、もっとも効果的な治療法がAEDとなります。AEDによって強い電気を流し、1度心臓を止めリズムを取り戻すのがAEDの最大の目的です。AEDは素人でも簡単に使えるように、開けると音声ガイドですべて指示してくれます。倒れている人を発見したら、AEDの手配をまわりにいる人にお願いするようにしましょう。

おわりに

 スポーツ中に限らず、いつ、どこで体調が悪くなり倒れてしまうかはわかりません。そんな時、まわりにいる人からの応急処置があるかないかで、生存率が大きく変わってしまうのです。実際に倒れている人を見たら、どうしていいか分からなかったり、助けるべきかどうか迷ってしまうこともあるでしょう。しかし、倒れている人を助けられるのはあなたしかいないのです。CPRを行うことをためらわず、すぐに駆けつけてほしいと思います。

 なお、CPRについてはさまざまな団体がガイドラインを発行しており、さらに詳しく解説しています。1度、目を通しておくとよいでしょう。

▼参考サイト
・厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-002.html

[著者プロフィール]
和田拓巳(わだ・たくみ)
プロスポーツトレーナー歴16年。プロアスリートやアーティスト、オリンピック候補選手などのトレーニング指導やコンディショニング管理を担当。治療院での治療サポートの経験もあり、ケガの知識も豊富でリハビリ指導も行っている。​医療系・スポーツ系専門学校での講師や、健康・スポーツ・トレーニングに関する講演会・講習会の講師を務めること多数。テレビや雑誌においても出演・トレーニング監修を行う。運営協力メディア「#トレラブ(https://tr-lv.com/)」などで多くの執筆・監修を行い、健康・フィットネスに関する情報を発信している。日本トレーニング指導者協会 JATI-ATI
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<Text:和田拓巳/Photo:Getty Images>