2020年4月15日

正しい姿勢を取り戻す、猫背改善ストレッチ法。一流アスリートが実践するヨガから学ぶ

 世界を舞台に戦っている選手は、どのスポーツであれ、自分のパフォーマンスを上げるために効果のあること、よいと思ったことをどんどん取り入れます。2017年、突然の引退発表で日本だけでなく世界を驚かせたプロゴルファーの宮里藍さんも同じ。2005年に主戦場をアメリカへと移し、2009年にはエビアン・マスターズでLPGAツアー初優勝をあげた彼女。180センチ級の選手が多くいるなか、日本女性の中でもそれほど大きくない155センチという身長にもかかわらず、2010年には世界ランキング1位にまで上り詰めました。

 その宮里さんを陰で支えてきたのが、今回ご紹介する「A-Yoga」の主宰者であり提唱者でもある、アスレティックトレーナーの山本邦子さんです。「A-Yoga」という言葉はまだ耳慣れないものですが、プロの世界では知る人ぞ知るヨガなんです。はたして「A-Yoga」とは、いったいどんなヨガなのでしょうか? 「A-Yoga」を活用した猫背対策ストレッチ法もあわせてレクチャーしてもらいました。

▲(左)山本邦子さん、(右)宮里藍さん

人間が本来持っている「あなたそのもの」を蘇らせるヨガ

 山本さんは若くしてアメリカに渡り、当時日本人ではほとんど持っていなかったATC(Athletic Trainer,Certified=NATA公認アスレティックトレーナー)資格を取得。その後、自身でさまざまな試行錯誤と勉強を重ね、「A-Yoga」という今までにないヨガ・ムーブメント・メソッドを確立しました。

 なお「A-YOGA」の「A」には4つの意味があります。1つ目は「Awareness」、2つ目は「Awakening」、3つ目は「Anti-aging」、4つ目が「Athletic」です。つまり「気づき」「覚醒」「抗加齢」「運動」という人間が本来持っている能力、カラダ、ココロを「A-YOGA」を通じて思い出させ、その能力などを引き上げるものです。

 そのメソッドを聞きつけて教えを受けた人たちは、宮里さんをはじめ、プロ野球では沢村賞に輝いた野球解説者の斉藤和巳さんや、今年のダービーを制した福永祐一騎手、競輪・S級の佐藤友和選手など、各スポーツ界で偉業を達成した人ばかりです。劇団四季の劇団員の多くも、山本さんから影響を受けています。アメリカの大学でも、さまざまなスポーツのトップアスリートに、けがの予防とパフォーマンスの土台づくりの指導をしてきました。

 2017年12月には、嵐の相葉雅紀さんがマスターとなっているNHKの人気番組「グッと!スポーツ」にて、山本邦子さんが講師で出演。その場でカラダの歪みを修正された相葉さんとアンジャッシュの児嶋一哉さんも、山本さんの“ゴッドハンド”ぶりに驚いていました。

――改めて「A-Yoga」というのを説明していただけますか?

人が産まれた時に授かった、元来持っている「素の能力」「素の姿勢」「素の呼吸」などを“取り戻す”ことを大切にしています。

――まず「A-Yoga」と一般的なヨガの共通点はなんでしょうか?

呼吸を使った全身運動であるということですね。

――では「A-Yoga」が普通のヨガと違う点はありますか?

脳神経が最適に働くために必要な7つの感覚システム(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、前庭感覚、 深部感覚)の構造と働きにより着目し、それぞれの働きを動きの中に意図的に取り入れて、脳の働きの活性とバランスがとれるように動作の導きを行っていることです。同時に小脳や生命維持をつかさどる脳のエリアに直接的な影響を与える呼吸機能の最適化に焦点を置いた動きの誘導を大切にしています。

――冒頭でおっしゃっていた「取り戻す」とは、具体的にどういうことでしょうか?

たとえば「腰が痛い」という悩みを抱えた人にさまざまな動きをしてもらい、腰とは別のところを刺激したり、別の動きをしてもらったところ、15分で痛みがなくなったということがありました。その方は50代の女性で「反り腰」だったのですが、背中に緊張があって、(正しい)呼吸もできていなかった。カラダをみさせていただき、ある部位を最適な位置に戻したところ、痛みを解消させることができました。

――15分ですか。すごいですね。

カラダの骨や筋肉などが本来あるべき場所にない場合、それを元に戻す動作や呼吸法によって改善されることはありますね。もっと言えば、この方は骨格的に骨と骨との間が詰まっていました。その間(スペース)を広げてあげたところ、痛みが解消したわけです。

――骨と骨が詰まると、痛みが出る?

神経筋骨格系の働きを考えたとき、関節のスペースを適度に保つことは、脳の働きを円滑にする大切な要素になります。関節の位置やスペースの乱れは、体調不良の一因になります。なので、骨に限らずですが、カラダの部位がズレていると、思わぬところに痛みが出たりすることもあるので、正常の位置に戻すことは重要な要素なんです。

――その手法をするうえで、「A-Yoga」が最適だと?

そうではありません。ヨガという「動き」を介して気づいてもらうことが目的なので、極論ですがよりよい方法があればヨガでなくてもいいんです。ただ、ヨガはカラダと呼吸との関連性が高く、(一般的なエクササイズではもたらしにくい)自律神経系の調整にも有益とも言われています。今は、それを伝えるには(ヨガが)ベストと思っているので、それを通じて「カラダ」を元に戻し、精神(ココロ)にも好影響を与えられればと思います。

――山本さん自身、ヨガをどう発展させたのでしょうか?

私がヨガをどう発展させたいということにコメントをするのは大変おこがましいと思いますし、ヨガはすでにその力を先達の皆様が実践を通して世の中に広めてくださって来たと思います。今、その道の歩みに加わった私にできることは、今までは科学的に証明されてきていなかったその効果や実践の方法に科学的な観点をいれながらも、人間の持つ感性を大切に、ひとり一人の人が自分の身体と向き合い、セルフケアのできる人が一人でも増えるようにヨガという生き方に接する機会、興味を持っていただける機会を作っていくことかなと思っています。子どもから高齢者まで、発達障害を持つこどもたちから難病の方、そしてアスリートまで。すべての人が必要とするものであることを伝えていきながら、多くの人の日常に広まることを願っています。

猫背対策になる5つの「A-Yoga」ストレッチ

山本さんに「A-Yoga」のストレッチのレクチャーをお願いしたところ、「猫背」の対処方法を教えてくれました。山本さんのスタジオに来られる方でも、猫背を治したいという方が多いそうです。

◆ストレッチ1

 まず、タオルやヨガマットを床に敷き、あお向けに寝てください。

 次に、背骨・背中全体が床に接地するようにします。その際、両手をそれぞれ左右の腰の部分に入れてください。手を軽く押すくらいの感覚がいいと思います。

 次に、鼻で息を吸って思いきりお腹を膨らませてください。

 お腹が空気でいっぱいになったあと、口からはぁ~と息を吐いてください。

 これをもう1回繰り返します。

 この動作を5~10回くらい繰り返してください。ただし回数よりも「正しくできることが重要」です。カラダに無駄な緊張を与えることなく、お腹に空気を入れ、吐ききることができる回数で行いましょう。無理な10回よりも正しい3回を目指しましょう。

◆ストレッチ2

 写真のように床に手をつく姿勢を作ってみてください。

 事前の準備として、この動きを覚えてください。左手を床につける場合は、このように右手で左の肘をサポートする形で、そのまま左肘を(顔の方向に)押していきます。

 肩回りが堅い人などは、下画像のようにタオルを入れるなどしてもいいですね。この形を作ることが大切です。

 片手ができたらもう一方の手も同じ形を作ります。

 お尻をつけたまま頭と手の平で床を押すようにして、胸を持ち上げます。背骨を軽く反りながら、最初にやったようにお腹への深い呼吸を意識してみましょう。初めての人は、3~5回くらいを目安にしてみてください。

◆ストレッチ3

 正座をしましょう。

 体を2つに折り曲げる形で前に倒し、うつぶせのポーズを取ります。

 深いうつぶせの姿勢になるよう、背中と手をまっすぐ伸ばすのがポイントです。

 猫背の人は、下記の写真のような形になってしまいますので注意です。お腹が開いて首の後ろが縮んだようになってしまいます。上記の写真のような姿勢を作れるようにしましょう。

 慣れてきたら少しずつ手を伸ばしていき、最終的にはぺったんこに2つ折りの状態にしてください。そしてお腹を膝のほうに引き出しながら、ゆっくりと呼吸を繰り返しましょう。

◆ストレッチ4

 正座をし、体を前に倒して2つ折りの状態にします。

 ここでも背中をまっすぐに伸ばしておくのがポイントです。この姿勢のまま両方の手のひらを上に向けます。

 手のひらを床につけます。「手のひらを上に向ける、床につける」動作を繰り返します。

 正面から見るとこんな感じですね。

 簡単に見えますが、できない方も多いと思います。回数もそれほどこなせないかもしれません。なぜなら、猫背の人は背骨をまっすぐに伸ばせないからです。猫背の人は知らず知らずのうちに背中を丸めてしまいます。この背中を「まっすぐにする」ということが意外にツライんですよね。

 まずはご家庭でこの4ポーズを実践してみてください。終わってみると姿勢がよくなっている自分に気がつくはずです。

◆ストレッチ5

 まず胡坐(あぐら)をかき、頭に手を置いてグルグル回してみてください。

 この動きによって、脇周辺の硬くなっている部分に刺激が与えられ、呼吸がしやすくなります。

 猫背の人は、長年の悪い姿勢のため、特に肋骨が閉じて硬くなっているケースが多いんです。それによって呼吸も浅くなっています。なので、この動きによって肋骨まわりに刺激を与え、スペースを作ってあげると呼吸がしやすくなります。呼吸と姿勢の筋肉は共有していますので、呼吸ができるカラダの土台を作ることは、姿勢の安定につながります。

「正しい姿勢」「正しい動き」「正しいポジション」で、心身を健全に

 筆者も以前から肋骨が前に出ており、悩んでいました。その話を山本さんにしたところ、「ちょっとストレッチをやってみましょうか?」と、私のカラダを軽くチェックしてくれました。その時間はたったの2~3分! すると、長年悩んでいた肋骨のポジションが引っ込みました。まるで手品にかかったようでした。

 もともと持っていた「正しい姿勢」「正しい動き」「正しいポジション」を取り戻すだけで、カラダやココロも健全になれる。あなたもこの「A-Yoga」で、本来持っているパフォーマンスを蘇らせてはいかがでしょうか。

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[プロフィール]
山本邦子(やまもと・くにこ)
1970年生まれ、東京都出身。有限会社トータルらいふけあ代表。カンザス大学教育学部運動科学科アスレティックトレーニング専攻で学士号取得、同大学教育学部運動化学科運動力学とスポーツ経営管理学の2分野で修士号を終了。カンザスアスレティックコーポレーションの専属アスレティックトレーナーとして契約。女子バスケットボール、女子サッカーのヘッドコーチとして働きながら、水泳、女子バレーボールチーム、トレーニングルーム全体のリハビリのコーディネートなどを任される。2003年に帰国し2004年より「A-Yoga」の構築、インストラクター養成を開始する。現在、大阪府立大学大学院臨床支援系領域総合リハビリテーション研究科博士課程在籍。著書に「アスリート新化論」(扶桑社)など。
【Kyoto MBM Labo公式サイト】http://mbm-labo.com/

《撮影スタジオ協力》
カラダ大学 https://www.karada-univ.net/

<Text & Photo : 青木秀道(H14)>