2019年11月18日

ぎっくり腰│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#39

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、ぎっくり腰を発症してしまったという甘糟さん。身体がしっかり動くありがたさ、こつこつと少しずつやり続ける大切さを実感したそうです。

安心することも治療のうちなんだと実感

 久しぶりにやっちゃいました、ぎっくり腰。

 先月のことです。その日は、自宅での取材と撮影が2件ほどあって、朝から雑巾掛けをして、めずらしくきっちり化粧をしました。取材の方々がいらしてからは、お茶をいれ、写真を撮られたり質問にお答えしたりを繰り返し。なんですが、話してる間にだんだん腰がツラくなってきて、失礼だなあと思いながら、ソファに寄りかかるような体制でお話ししておりました。編集部の方が帰った後、あ〜、疲れたぁと言いながらゴロンと横になったのが最後、腰がセメントで固めたみたいな感覚になってしまいました。

 あれ? と思ったけれど、すでに遅し。ちょっとでも身体を動かそうとするとピキピキッと全身に響きます。そうなるともう、呼吸も大変。息をするだけで身体中に鈍い痛みが走ります。近くにあったクッションを手繰り寄せてそれに抱きつき、ローテーブルの上のスマホを左手だけを動かしてピックアップしました。自宅に来てくれるマッサージ師に連絡を取ってみたものの、その日はもう予約でいっぱい。アロママッサージ・サロンを経営している友人にLINEをして現状を伝えると、何人かに当たってくれ、居間の真ん中で寝そべったまま、返信を待ちました。「とほほ〜」っていう、今はあんまり使わない言葉が頭に浮かびます。

 1週間ぐらい前から、兆候はありました。ゴルフに行けば、翌日はベッドから起きる時になんとなく違和感があって、それが日に日に大きくなりました。ランニングをすると左の太もも後ろが張って、その張りがすぐに左の腰に上がってくる。ちょいちょいストレッチはするものの、どこかでもっと時間をかけてていねいに身体を伸ばさないとまずいなあと思いつつ、目先の忙しさにかまけてサボっていたのです。これがいけないんだよね!

 さて、友人からは返信が来ましたが、明日ならうちに来てくれる人が見つかったとのこと。それだけでもありがたいのですが、とにかく私は今、ここから動きたい。できれば、今夜ベッドに這い上がって眠りたい。往生際悪く、スマホであれこれ調べていると、母がご近所さんに今でも営業しているマッサージ屋さんを聞いてくれました。すると、うちから江ノ電で一駅のところにある治療院が、往診は無理だけれど、今からでも見てくれるという返事が来ました。

 とうてい車は運転できません。運転したら危ない。タクシーを呼び、這って玄関まで行き、そろりそろりとタクシーまで歩いて行きました。や〜、ここが大変でした。腰を曲げたまま、なるべく身体の形を変えないように移動しないと、またもやビキ〜ってなりますからね。

 初めての治療院ですが、若い先生が理論的に私の症状や身体の弱点を分析してくれました。これってけっこう大切なポイントかもしれません。安心することも治療のうちなんだなあと実感したのです。どうしてこんなことになっちゃったか知れば、予防もしやすいし。

 約1時間の治療時間のうち、マッサージをしているのは半分くらい。ストレッチをしたり、電気を通したり、さまざまなアプローチで私の凝り固まった腰、というより、身体全体をほぐす、というより元の健全な状態に近づけて行きました。

 翌日の夜には大切な会食があります。私以外の方はほとんどが初対面という集まりで、正直なところインフルエンザでもない限りキャンセルはし兼ねます。そんな事情を話して、腰に巻くベルトも購入しました。帰りにはずいぶん楽になって、ゆっくりとですが、普通の姿勢で歩けるくらいには回復。その夜は安眠できました。

 まあね、翌朝には少々ぶり返しましたよ。で、また同じところに治療に行きました。ぎっくり腰の一番の薬は時間ですからね。ベルトを巻きつけて、すべての動作をゆっくりして、笑う時も抑え気味に(経験者ならわかると思いますが、ぎっくり腰の時に笑っちゃうのって本当にキツい。笑)。もしかして、この期間だけ、憧れの「おしとやかな女性」になれていたかもしれません。

 1週間と1日経って、恐る恐るジョギングした時は気持ちよかったなあ。自由に身体を動かせるってすばらしい!

 あれからは、暇さえあればちょこちょこストレッチをしています。いつか時間のある時にまとめてやろうとしないこと。これ、掃除でもダイエットでも美容でも、たいていのものに当てはまりますね。すぐにサボっちゃう私ですが、地道に小さくがんばりたいと思います。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)

<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>