2018年2月14日

代々木公園で白戸太朗さんと“再会ラン”┃連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#6

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載も6回目を迎えました。

 今回は、甘糟さんのフルマラソン初挑戦を支えたパートーナーで、スポーツナビゲーター・東京都議として多方面で活躍する白戸太朗さんとの“再会ランニング”。昼間にも関わらず、まだまだ寒さが厳しい2月某日、代々木公園へ。

風も匂いも違う、初めての場所を走る新鮮さ

 2月に入り、 FacebookやTwitterのタイムラインで東京マラソンという単語をちょくちょく見かけるようになりました。「東京マラソンのために走り込んでます」だったり、「練習できてないのに、もうすぐ東京マラソン本番」だったり。2月25日の当日は、応援やボランティアを含めて、さらに関連の書き込みがたくさん見られることでしょう。いいなあ。

 42.195キロを走りきった達成感をこれから味わう人たちが単純にうらやましいのです。あの感覚は格別。なんの混じりっ気もなく「私ってすごい!」と思えるんですよね。タイムを目標にしている上級ランナーは違うかもしれないけれど、初めてのフルマラソンを走り終わった後の私はそうでした。

 あれは2006年4月のロンドンマラソン。その前年の1月に右足首に人工靭帯を装着するという手術を受け(テニスでやっちゃいました)、松葉杖が取れたのが3月。そこから約一年後のフルマラソンに出るという、今考えるとかなり無謀な計画を立てたのでした。手術後の勢いというか、気持ちが若作りだったんですね。ことの顛末は「マラソン・ウーマン」という文庫になっております。電子書籍も出ておりますので、よろしければ(かなり調子に乗ってますが、お許しを)。

 当時、コーチをしてくださったのが白戸太朗さんです。半年間、練習を指導してもらい、ロンドンマラソンの本番では伴走もお願いしました。白戸さん、トライアスロンの世界では知らない人はいないと思いますが、51歳の今でもレースに出る現役であり、ツール・ド・フランスの中継では解説を務め、トライアスロンの大会を手がけたり、なんだかいろんなことをしているいっつも忙しい人です。2017年7月からは東京都議としても活躍されています。でも、私にとっては、永遠に「コーチ兼友人」。

▲白戸さん(写真右)と久しぶりにラン

 先日、久しぶりに一緒に走ってきました。場所は代々木公園。白戸さんとの練習はすべて皇居だったので、場所を指定された時は軽く驚きました。千駄ヶ谷にあるトライアスロンのショップ「アスロニア」で待ち合わせ、店前で軽くストレッチして、アップ代わりに軽くジョギングしながら代々木公園へ向かいました。

 周回1.15キロのランニングコースではなく、公園全体を使って森の中を走りました。舗装されていない土の道が多く、ちょっとしたトレイル気分。走ったのは2月の初めでしたが、ところどころにまだ雪が残っていましたよ。

 正直言うと、この半年くらいちゃんと走れておりませんでした。定期的にランニングウエアを着て家を出るのですが、走ったり歩いたりを繰り返し、散歩以上ジョギング未満みたいな感じ。特に理由はありません。気力の欠落です。気分転換&体調管理のためのジョギングですから、気持ちが乗らない時はこれでいいかなあと思いつつ、月に100キロを目安に走っていた頃の自分にはもう戻れないなあなんて寂しくもあり。白戸さんには、最近はあんまり走ってないのでゆっくりめでお願い、と伝えたところ、それなら景色を変えてみるのもいいんじゃない、とのことで、代々木公園の森の中を巡るコースになりました。

 写真には写っておりませんが、ロンドンマラソン体験記を書いた当時のFRaUの編集長・講談社の加藤さんにも声をかけ、みんなで走りました。いつもは一人で海岸線沿いなので、森の中をわいわいと無駄口叩きながら走るのが楽しかった。ピクニック気分のジョギングでした。

 初めての場所を走ると、「走る」という行為そのものが新鮮に感じます。風も匂いも違うし、陽の光も違う。つられていつもとは違う自分に出会った気になります。

 コースの途中、ホームレスの方々のホーム(といういい方でいいのか?)が密集している地域を通るのですが、その光景は別の意味で刺激になりました。ビニールシートでできた家々にはそれぞれ個性があって、多少の豊かさの違いも見えてしまう。なんというか、いくつもの人生が置いてある場所でした。作家としては、もっと濃い物語が書けるようにならなくちゃ、なんて思いました。

 白戸さんに、今日は時間や距離は気にしないようにね、と言われました。これはフルマラソンの練習の時もよく言われたなあ。追い込む時期でなければ、走るって気持ちいい! と感じることが何よりの練習なんですよね。

 ん? 練習? といっても、今の私に走る本番があるわけではない。頭の中でそんなことを考えていたのがバレたみたい。

「やっぱり、目標を作ったほうがいいよ。どこか大会エントリーしなきゃ」

 や〜、42.195キロはもう無理です。といいつつ、ゴールの時のあの達成感は、12年近くたった今でも忘れられない快感なんですよね。

 走ることって、白いTシャツみたいな競技だと思います。着こなしも合わせるものも無限大で、ドレスアップもドレスダウンも自在な一枚、そして着る人の個性がそのまま出る、みたいな。さて、明日はどんなスタイリングで着ようかしらん。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。

<Text:甘糟りり子/Photo:編集部>