実は幽霊会員です┃連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#9
アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。
いまや24時間営業の店舗など、身近な存在になったスポーツジム(フィットネスジム)。甘糟さんもジムの会員になっているものの、新生活が始まるこの季節、なにやら悩みを抱えているそうです。
「本当の私」は、明日こそ必ずジムに行こうと
実は、私、ほとんど幽霊会員なんです。某ジムの。
このようなサイトでこのような連載をしているのに申告しづらいのですが、今年に入ってから会費を払っているジムに行った回数は「ゼロ」です。昨年一年を振り返ってみても、う〜ん、3、4回ぐらいかな? このままでは会費がお布施状態になってしまいます。
3月はちょうど、年度の変わり目。解約しようかどうしようか、ずっと迷っています。気軽にジョギングはしますし、暖かくなったらたまに海には入りますし、誘われればゴルフもします。最近はまったく興味のなかったヨガなんかに行くこともあり、決して運動不足ではない。この連載でいろんな体験をさせてもらう機会もありますしね。
それに、今は筋肉を増やすより、伸ばすというか柔らかくする方に気持ちは向いています。なんだけど、もちろん今現在の筋力はキープしたいわけ。めんどくさい女だなあ、我ながら。
先日、白戸太朗さんと一緒に走った時、「大きな筋肉ってほとんど脚だから、走ってればまず筋力は落ちないよ」といわれました。そう、大腿四頭筋、大臀筋、ハムストリングスはジョギングで鍛えられるんですよねえ。走ってりゃあ、嫌でも腹筋使うし。逆に、フリーウエイトにハマったとして、僧帽筋を鍛えすぎて大きくなっても困ります(かつて、これ、やったことがあります。首が太く&肩が厚くなってジャケットが入らなくなっちゃいました)。
ええい、どうせ行かないんだから、もう解約してしまえ、としょっちゅう思うんですけれど、20年近くなんかしらのジムの会員カードを持っていた者としては、それが無くなるのは少しさびしく、不安にもなります。バーとかダンベルを持つ場所がなくなったら、一気にだるだるになったりしないだろうか? ジムに行ってもいないのに、そんな心配をしちゃうのです。
ほとんど行かないジムの会費を払うのは、(当たり前だが)大いなる無駄&いかにもバカっぽい。しかし、今はたまたまタイミングが合わないだけで、「本当の私」は定期的にジムでトレーニングをこなす意識高い系のはずです。いや、そうに違いない! この2つの思いの間で揺れているのでした。現実の「本当の私」は、原稿が終わっても、明日こそ必ずジムに行こうと思いながら、ソファに寝転んで録画しておいた映画かなんか見てビール飲んだりしているんですけどね。
いくつか自分にいい訳をさせてください。
ジムは車で30分ほどのところにあります。近くも遠くもない。さっさと行って、何ならTシャツだけ着替えてシャワーは家で浴びればいいのですが、ジムの近くにはせっかくなら寄りたいおしゃれスポットがいくつかあり、寄るのであれば着替えはコーディネートを考えて選びたいし、化粧道具も持って行きたい。そうなると、荷物は大きくなるし、準備が面倒になる。で、結果、「明日こそ」と毎日思っています。
それから、現在、初夏に出す単行本の佳境です。ここを乗り切ったら、定期的にジムに通い、自分のメンテナンスを怠らない「本当の私」になりたいと思っています。のはずなんですが、それが終わるとすぐ次の小説の取材や新しいエッセイの連載が始まります。出版不況の中、売れっ子でもなんでもない私は、こうして切れ目なく仕事があるだけでありがたい。毎日が佳境の綱渡りみたいな感覚なのです。ジム通いを日常に埋め込むなら、〆切の合間に無理やり押し込まなければなりません。ほっと一息つく代わりにね。
解約すべきか、継続するか。さんざん悩んでも、通えば無駄にならないという、至って普通の結論しか出てこないのですが。
ところで、このサイトの名前、太宰治の「走れ!メロス」からきていることをご存知でしたか? それにちなんでみよう、いや、パクってみよう。
「無駄の多い人生を送ってきました」
人間失格にならないよう、気をつけます。
[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。
<Text & Photo:甘糟りり子>