2018年6月28日

良い香りが運動能力をアップさせる秘密は前頭葉にあった!?(後編) (1/2)

 「香りを、新たなスポーツウェアに」というコンセプトのもと、2018年春に発売された「フィッツスポーツ セントテーピング」。前編では、香りとスポーツをマッチングさせたアイデアや開発についてのお話を訊きました。そこから見えてきたのは、どうやら本当に身体能力をアップするらしいということ。香りの力によってパフォーマンスがアップしたというテスト結果の内容までお伺いしました。

 香りの力でパフォーマンスをアップできるならば、今後のスポーツ業界に与えるインパクトは非常に大きくなるでしょう。後編の今回は、発売元であるフィッツコーポレーションの開発担当者である桜井孝さん、家現大輔さん、そして監修を務めた杏林大学医学部の古賀良彦名誉教授に、引き続き、香りと身体の関係性、身体にどう影響を与えるのかなど「香りで運動能力が上がる本当の理由」について伺いました。

香りが前頭葉を活性化させると運動能力アップ!?

― 古賀教授は昔から「スポーツと香りの関係」を研究されていたのですか。

古賀:いえ、私の研究テーマは、「香りが身体のパフォーマンスにどう影響するか」でした。スポーツに限らず、あらゆるパフォーマンスを対象に、その背景となる脳の活動にどのような変化が起こるかを客観的に検証してきたのです。学問で言えば、「精神生理学」となります。

スポーツ分野では、数十年前に「スポーツ中の汗の匂いを消すとどうなるか」という研究をしました。結果は、「汗の匂いはパフォーマンスを下げる」という仮説にたどりついたのですが、検証時「良い香りはパフォーマンスを上げる」という仮説も必然的に出てきていました。桜井さんから話をいただいたとき、もっと探求してみたい気持ちもあったのでふたつ返事で引き受けさせていただきました。

今回の試験では、香りにより「リラックスした」「集中した」という本人の主観での評価を客観的に示すことがポイントでした。この感覚の違いが生まれるのは、脳の中でいうと「前頭葉」なんです。その部分がどのように変化したかを見ていきました。

▲左から商品企画の家現さん、古賀教授、ブランドマネージャーの桜井さん

― 具体的にはどのように製品の効果を検証していったんですか。

古賀:検証は、「前頭葉の血液量変化」「運動時のパフォーマンス変化」「アンケート(官能検査)」3つの側面から計測しました。

日常の何気ない動作、スポーツでの動作、どちらも身体を動かしているのは脳の司令塔と呼ばれる前頭葉です。「無香」「エクストラフォーカス装着」「エクストラリラックス装着」の状態で、3分間前頭葉の血液量変化を測定しました。

すると血液量の変化は「エクストラフォーカス」は無香の約7倍、「エクストラリラックス」は約6倍となることがわかりました。これがどういうことかと申しますと、特定の香りで前頭葉が活性化し判断力や運動能力が向上したといえます。

▲血液変化量の結果(FITS Webより)

― 血液量とパフォーマンス向上の関係ってどうすれば調べられるものなんですか。

古賀:影響を調べるために、血液量が増加した状態で複数のスポーツを行ってもらいました。1つのスポーツだけだと数値が偏るので、バスケットや野球などいろいろと試しましたが、統計的に有意だったのは、「エアロバイク走行距離」と「長座位体前屈測定」でした。

エアロバイクでは、無香テープと集中力をアップする「エクストラフォーカス」を装着し10分間の走行距離を比較。すると無香の場合は平均5964m、「エクストラフォーカス」装着時は平均6293mと約330mアップ。長座位体前屈では、リラックス効果がある「エクストラリラックス」を使用し、柔軟性を測定すると無香の平均が44cm、「エクストラリラックス」装着時は平均46cmと約2cmアップしたのです。

数値だけ見ると少ないかもしれませんが、これは貴重なデータなんです。これまでの「気合い」やメンタル強化トレーニングだけではなく、アスリートが極限状態になったとき、「あと一歩頑張ろう」というように、気分を上げてくれる材料として香りが影響することが実証されたことになるんですよ。

― 記録が伸びたことはわかりましたが、血液量が増えると身体にどんな影響があるんですか。

古賀:脳に必要な栄養は、酸素とブドウ糖。その栄養を運ぶのが血液です。認知・判断・運動を司る前頭葉に血液がどれだけ届いたのかが、運動能力の決め手となります。スポーツしているとき脳では、次の動きや対処法など行動プランを立てながら動きます。瞬時に情報を収集して分析・行動へ移す判断が求められたとき、前頭葉が十分な血液で満たされ活性化していることでパフォーマンスがアップするメカニズムです。

― 香りが前頭葉の活性化につながるということですね。

古賀:そうですね。効果的な香りを開発したといえるでしょう。香りでの変化は、最初に「好きな香りで気分が高揚する」。次に「リラックスや集中」という気持ちへ移行する。そのときに血液量が変化する。もちろん満足感や充足感も関係してくるでしょうが、明らかに前頭葉が活性化することが、「香りによるパフォーマンスアップ」を裏付けています。

これまで「香りとスポーツの関係」を研究する人も少なく、提案する人も少なかったのも事実です。ただ香りは、まだ解明されていない可能性を秘めているということが十分に考えられるのです。最後のひと頑張り、もしくは最後の判断に効果的なのではないでしょうか。

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