東北の“美味い”を楽しむファンランイベント「東北風土マラソン」は、どのようにして生まれたのか? (2/2)
「諦める瞬間は何度もありました。周囲からもフルマラソンじゃなくても良いのでは、あるいは来年で良いのではといった言葉がたくさん。でも、やったことが一番大切なのだと思います。第1回を見られたからこそ、第2回以降へのフックになったので」
紆余曲折を経て、それでも第1回大会は大成功と言えるでしょう。その証拠に、目を見張るのが参加者の属性。実際に集計したデータによれば、参加者の半分以上が過去の大会に参加した、もしくは友人・知人に聞いたという方なのだとか。リピーター率が高く、走り終えると来年も参加したいと思える、そんな大会なのです。
「もちろん、結果的に譲らざるを得なかったこともありました。例えば第1回大会は現在のような周回ではなく、行って帰ってくる折り返しコースだったんですよ。本当はもっと市街から走るコースなども想定していたのですが、受け入れられませんでした。その代わり、フルマラソンという長さは譲りませんでしたけどね。あるいは、メドックマラソンのようにレース中にお酒を出すことはできず、代わりに給水で日本酒の仕込水を出したり、レース後に日本酒のフェスティバルを同時開催したりすることにしました。何もかもイメージ通りとはいかなかったですが、それでも多くのリピーターがご参加くださることは、とてもうれしく感じています」
ちなみに竹川さんは、いつもハーフ部門をご自身で走られているとのこと。全選手がスタートしたのを見送り、走り出していくそうです。それによって、コース上でしか見られないランナーの顔を見られ、スタッフに感謝の思いを伝えられる。こうした1つ1つの行動もまた、同大会の魅力を高めているのでしょう。
マラソンで東北と世界を繋ぎたい!
東北風土マラソンは、いわゆるマラソン大会と一線を画しています。コース上で振る舞われる多彩な食べ物はもちろん、会場では日本酒フェスティバルや登米フードフェスティバル等のイベントを同時開催。前日にもご当地グルメを堪能できるFood Nightが開催されるなど、走る以外にも楽しみが溢れているのです。
「実は東北風土マラソンって、いわゆる「競技」じゃなく「お祭り」の要領で道路使用許可を取っているんですよ。おもしろいでしょ? ただ走るだけではなく、ランナー以外も訪れて楽しめる場にしたいんです。だから、大会に他の楽しみがどれだけあるか、それがとても大切。メドックマラソンがその理想形で、パスタディナーやウォーキングイベントなどが行われ、8000人の参加者に対して実際には30000人くらいの方々が訪れるんですよ。つまり、家族や友人を連れてくるわけです。そうなれば、東北風土マラソンは単なるマラソン大会ではなく、家族・友人にとっての体験であり、思い出になるじゃないですか」
実際に2017年の大会では、6000名の参加エントリーに対して来場者が45000名。さらに外国人は132名を占めたと言います。さらにおもしろいのが、外国人参加者の出身国。アジア圏はもちろん、チェコやポーランド、ボスニア、エジプトなど、実にさまざまな地域から大会へ訪れているのです。これはメドックマラソンでのブース出展など、竹川さんの行動が少しずつ認知されていった証拠と言えます。
「東北風土マラソンのミッションは、マラソンで東北と世界を繋ぐことだと思っています。世界というのは海外だけではなく、東北以外すべて。そしていずれ、日本一のファンランイベントと言われたいですね。そのために、第2回大会からは仮装賞を設けました。仮装って走っている本人より、むしろ見ている人たちが一番楽しんでくれるんです。そして大会は行政からの助成金なしで運営しているので、だからこそある程度の自由が効きます。エイドの食べ物は東北6県すべてから集まりますが、どこかの助成金のみに紐づいていたら、おそらくここまで広く集められなかったのではないでしょうか」
東北と世界を繋ぎたい。この言葉には、大会発足のキッカケとなった東日本大震災を受け、竹川さんが抱いた気持ちが今もなお強く持ち続けられていることを感じました。ランナーはもちろん、それ以外の方でも存分に楽しめる東北風土マラソン。第5回大会は、2018年2月18日(日)までエントリーを受け付けています。もちろん走らずにイベントを楽しんだり、ボランティアとして参加したりするのも良いでしょう。ご興味のある方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
[大会概要]
東北風土マラソン&フェスティバル2018
・開催種目:フルマラソン、ハーフマラソン、5km、アシックス・トゥモローラン、親子ラン、リレーマラソン、KIDSスマイルラン(障害者ラン)
・開催日:2018年3月24日(土)、3月25日(日) ※種目により異なります
・開催場所:長沼フートピア公園
・公式サイト: http://tohokumarathon.com/
[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】https://www.run-writer.com/
<Text&Photo:三河賢文>