2017年8月17日

親子ランは勝ち負けよりもチームワークを大切に。プロランナー藤原新に聞く「親子で楽しむランニングのコツ」

 ロンドン五輪マラソン代表の藤原新選手が講師を務めるランニング教室が、8月31日(木)に開催されます。第1部は小学生の親子、第2部は中学生以上が対象です。藤原選手は現在、8月27日(日)に出場予定の「北海道マラソン」に向けて最終調整の真っ最中。貴重な時間をもらい、親子で楽しく走るためのポイントやケガをしない走り方などについて教えていただきました。

自分の目標に重きを置けば、たとえ負けても達成感が得られる

——藤原選手は、子どもの頃から走るのが得意でしたか?

私が通っていたのは同じ学年の男子が全員で8人という、とても小さな小学校だったのですが、自分は短距離よりも長距離向きだなということは、その頃から感じていました。運動会のかけっこでは頑張っても3番だけど、持久走大会では6年間ずっと一番だったので。

3年生からは町内のロードレース大会に参加するようになって、近隣にある4、5校の小学校から100人くらいが出場する少年男子の部でも、1位になることができました。

——誰かに走り方を教わったりしていたのですか?

特に指導者などにはついていませんでしたが、父親が登山をやっていて、その体力作りのためのランニングにはよく一緒に行ってましたね。犬の散歩も兼ねて、距離は3キロくらいでしょうか。

また家の裏にある山でも、しょっちゅう遊んでいました。カブトムシを取りに行ったり、秘密基地を作ったりしながら、山の中を走り回っていましたから、無意識にトレイルランニングをしていたようなものですね(笑)。自然と足腰が鍛えられるような環境にはあったと思います。

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——陸上以外のスポーツを習ったことは?

小学2年生から6年生まで、地域のお父さんたちがボランティアで教えるソフトボールのチームに入っていました。雨が降ってグラウンドが使えない日は練習が駅伝になるのですが、それがすごく楽しかった。小学校時代は、純粋に走ることが好きでしたね。

——藤原選手のように足が速くないと、長い距離を走るのは「辛くて嫌だな……」と感じる子もいるかと。そういった子どもたちでも、ランニングの楽しさを味わえるようになるには?

ランニングの魅力は、人と競い合うこととはまた別に、自分だけの目標を立てて、それにチャレンジできることです。勝った負けただけでなく、自分が目標とした距離やタイムをクリアすることに重きを置いたら、たとえ負けたとしても達成感は十二分に得られます。そのためには、子どもが一生懸命に走り抜いたことに対して、親や指導者がちゃんと褒めてあげることが必要だと思いますね。

——藤原選手が、ご両親からかけられて励みになった言葉はありますか?

うちの母親は、私に発破をかけるようなことは一切せず、いい時も悪い時も「よく頑張ったね」と言ってくれました。陸上競技について、どこまで分かってるのかな? と、ときどき不安になるくらい“のほほん”とした感じで(笑)。でも、そういう親だったからこそ、自分はここまで陸上を続けてこられたのかなと。

物事を続けること=やる気を継続すること、だと思うんです。勝った時は当然みんなが「すごい、すごい」と言ってくれますが、負けた時に「お前はダメだ」と非難されてしまうと、やる気は失われていくものなので。そういった面では、自分はとても恵まれていましたね。 

親子マラソンは勝ち負けよりもチームワークを大切に

▲北海道マラソンに向けて合宿地で調整を続けている(写真提供:藤原新選手)

——昨今は親子で参加できるマラソン大会も増えていますが、お父さん、お母さんと子どもが一緒に走ることの良さは何でしょう?

子どもが長距離を走ることってそんなに多くないですから、親と一緒というのは何よりも心強いですよね。また、長距離は日ごろ練習していない大人より、練習している子どもの方が速い場合があるので、「お父さん、お母さんより僕の方がスゴイぞ!」という体験ができることも。それはそれで子どもの自信につながりますから、親御さんも「親としてのメンツが……」などと落ち込まないように(笑)。親だって、少しは子どもにダメなところを見せてもいいんですよ。私も、娘や息子たちに“負けたフリ”をよくしますけど、すごく喜んでますからね。

——では、走っている間はどんなことに気をつけると良いですか?

勝ち負けには、あまりこだわらないことですね。他の親子に負けまいと、親が子どもの腕を無理やり引っ張って走っているのをときどき見かけますが、それじゃあ、子どもは全然楽しくないでしょう? 実は、私も同じような経験があるのですが、「子どもからすれば、しんどかっただろうな……」と、あとで猛省しました(苦笑)。それよりも一緒に目標を決めて、それを達成できるように、お互いに励まし合ったり、助け合ったりしながらゴールを目指せればいいのでは。

力みのないフォームで走ればケガも疲労も軽減できる

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——大人の市民ランナーの方々にもアドバイスをいただきたいのですが、まずはランニング初心者に向けてお願いします。

ランニングを始めて日が浅い人たちが、体の中で最も痛めやすいのがヒザで、その原因は“オーバーストライド”にあります。体力がまだ十分に備わっていないのに、「前に、前に」と気持ちがはやって無理に歩幅を伸ばしていると、ヒザにねじれが生じ、そこに力が加わることでケガをしやすい状況が生まれてしまうので注意しましょう。

——ケガをせず、楽しく長く走り続けるためには、どういった心がけが大切ですか? 

一番基本とするべきなのが、練習のペースやレベルは徐々に上げていくということです。すると、その過程で体に順応が起こって、より質の高い練習に耐えられるようになっていきます。そのときどきの高揚感や「負けたくない」という思いで、いきなり長い距離を走ったり、スピードを出したくなることもあるかもしれませんが、そういった気持ちを我慢して、計画に沿ってレベルアップしていけば、ケガのリスクもある程度は抑えられます。

またその中で、体力と同時にランキングスキルを身につけることも必要です。言葉で説明するのはなかなか難しいけれど、楽に走れる走り方はあるんですね。力みのないフォームで、より楽に走っていれば疲労も少ないし、体の故障も軽減されると思いますよ。

——楽に走れるフォームを身につけるコツなどはありますか?

今は走り方のノウハウ本もたくさん出ていますが、文字から習得するのはけっこう難しいですよね。それより、ランニングの上級者などにいろいろと聞いて、教えてもらうと良いでしょう。

一番のおすすめは、皇居や神宮外苑などのランニングスポットに行って、実際に良いフォームで走っているランナーを見つけること。そして、そのフォームを真似していると、少しずつ近づいていくものです。お手本にしたい“画”を目に焼き付けるだけでも、脳神経的には反応してくれるので、そういうトレーニングの意識もぜひ持ってみてください。

<Text:菅原悦子/Photo:藤原新選手より提供、Getty Images>