手軽に始めやすい、続けやすい。ウォーキング教室で奥深き「歩き」の世界を知る (1/2)
2016年リオ五輪や2017年ロンドン世界陸上で大活躍した日本の「競歩」。陸上競技の中ではマイナーな種目と言えますが、近年はマラソンに替わる新たな日本の“お家芸”として注目を集めています。
一方で“歩き”はすべての運動の基礎・基本であり、ケガのリスクが少ないことから、運動習慣のない方のダイエットにも有効です。そこで今回は、初心者から競歩選手までさまざまな方を対象とする、明石顕さん(2005年、2007年世界陸上50㎞競歩出場)のウォーキング教室を取材しました。競歩の魅力、正しい歩き方を学びます。
2度の世界選手権出場を誇る明石顕さんから直接指導
ウォーキング教室を主宰するのは、東京都渋谷区の代々木公園を拠点とし、ウォーキングや競歩を通じて“美しく楽しく”歩くことを目指すウォーキングクラブ『代々木交友会』。毎月第1日曜日に「月イチ ウォーキング会」を開催しており、陸上競技の男子50㎞競歩で2度の世界選手権出場を誇る明石顕さんが講師を務めます。
明石さんは高校時代まで水泳に取り組みながら、国内最難関の東京大学に入学して陸上(長距離)を始めた珍しい選手。ケガのリハビリとして競歩に取り組むようになり、わずか1年余りで学生トップクラスに上り詰めたことから「東大生ウォーカー」として注目を集めました。
▲日本の男子競歩界で数多の実績を誇る、講師の明石顕さん
「最初は長距離をやっていたんですけど、故障をした時に『リハビリがてら(競歩を)やってみなよ』と先輩に勧められたのがきっかけです。競歩は競技人口がすごく少ないので、他大学と合同で練習をする機会が多くて、世界が広がる感じがして楽しかったですね。また、ちょっとがんばれば大きい試合に出られることも、自分にとっては魅力でした」(明石さん)
その後、みるみるうちに日本のトップ選手として台頭し、2005年と2007年には世界選手権(世界陸上)の男子50km競歩に出場(15位、16位)。2008年に記録した自己記録3時間50分11秒は、当時日本歴代4位(現11位)の好タイムでした。現役時代から高齢者向けの健康ウォーキングや競歩の教室を実施しており、2012年に35歳で現役引退。現在は毎週土曜日に母校・東大で後進の育成にあたるほか、日曜日は月イチで『代々木交友会』のウォーキング教室に赴いています。
日本の競歩は2015年、2017年の世界選手権、2016年のリオ五輪と、3年連続でメダルを獲得しており、いまや日本の“お家芸”と言っても過言ではありません。高校の全国大会“インターハイ”の正式種目として採用された2002年以降は徐々に競技人口も増え、かつてない盛り上がりを見せています。
「僕が引退してから6年くらいしか経っていませんが、競歩の注目度は確実に上がってきています。ずっと競歩に取り組んできた関係者としては、素直にうれしいです」(明石さん)
代々木公園にて月1回のウォーキング会
そんな明石さんが指導する4月のウォーキング教室(月1回)には約40人が参加し、この日が初参加という方もちらほら。最年少は15歳(春から高校生)、最年長は79歳で、なかには夫婦で楽しんでいる方も何組か見られました。
朝9時にスタートすると、まず全員で体操やストレッチを行い、ゆっくりと1㎞ほど歩きます。身体を温めたところで、今度は明石さん主導で各種ドリルを行っていきます。
▲競歩の動きはランニングとは違う筋肉を使うため、念入りに身体をほぐしていく
「不評なので最近やっていなかったんですけど(笑)、試合が近い人もいるので、しっかりやっていきましょう!」(明石さん)
そして競歩や健康ウォーキングにとって必須ともいえる“腕振り”を学びます。競歩の動きは腰をクネクネと動かす独特のフォームが特徴的ですが、ただ腕を振るだけでなく、腰の動きをつけることで歩幅を広げる効果をもたらすのだそうです。
「腰は横ではなく“前後”に動かします。そうすることで1歩の幅が広がり、全身運動につながります。競歩に取り組まない人でも、覚えておくと正しい歩き方につながりますよ!」(明石さん)
▲2人1組になって腕振りを行い、正しいフォームを身に付ける
正しい歩き方に必要な動きを学んだところで、今度は3人ペアとなって50mほど歩き、歩型のスペシャリストである明石さんに歩き方をチェックしてもらいます。
▲1人ひとりに的確なアドバイスを送る明石さん(左)。参加者も真剣な表情で話に耳を傾けます
そして今度はアドバイスを生かして、本練習ともいえる10㎞ウォーク(1㎞コース×10周)を開始します。この日は気温が25℃近くまで上がる厳しい暑さだったため、1周ごとに給水が用意されていましたが、ベテランウォーカーはほとんど水分を摂らずに完歩。中には “食べない”“飲まない”“走らない”で10時間以上歩く『かち歩き大会』へ積極的に参加するストイックなウォーカーもおり、そんな方々にとっては楽勝だった模様です。
▲100㎞ウォーク大会へ参加するツワモノもちらほら
およそ60分~90分かけて歩いた後は、お酒やお菓子を持ち寄って、みんなで和気あいあいの様子。取材当時の4月はお花見シーズンだということもあり、自然と大宴会が始まりました。
▲終わった後はみんなで和気あいあい
▲筆者も少々ご馳走になりました
ウォーキングの魅力は「手軽に始めやすく、続けやすいこと」
ここ10年ほどは空前のランニングブームが巻き起こっていますが、なぜランニングではなく“ウォーキング”なのか。明石さんは、競歩・ウォーキングの魅力について、こう話してくれました。