インタビュー
2017年6月30日

【デジタルでスポーツの勝利をつかむ #1】〈サッカー×デジタル〉アディダスのウェアラブルが運動量を可視化する

 今、スポーツはデジタル技術により「勝利への方程式」が変化しつつある。トップアスリートなどの間で積極的に科学的トレーニングが取り入れられている一方、指導者層、特に学生の部活動などにおいては、それらをまだまだ信じることなく、前時代的な根性論を振りかざす人も数多くいるように見受けられる。

 これだけ世の中がデジタル化された時代であり、試合に勝ちたいというベクトルは同じなのに、この水と油は一生交わることはないのだろうか? 本企画では、「デジタルでスポーツを勝利へと導く」現在の技術を追う。第1回は、アディダスが生んだ『マイコーチ エリート』をみていこう。

選手の運動量を採取・分析するウェアラブルシステム

 世界の競技人口が2億人を超えるといわれるメガスポーツ「サッカー」にも、当然デジタル化の波は押し寄せている。そういったデジタル化を積極的に推し進めるスポーツ用品メーカーであり、センサーやインターネットを介して選手の運動データを採取分析できる『マイコーチ エリート』を手がけるのがアディダスだ。

 『マイコーチ エリート』は、トレーニングで数値を可視化し分析できるアディダスのスポーツウェアラブルシステム。緑のデバイスが専用トレーニングウェアに装着する“プレーヤーセル”と呼ばれる小型の測定器。

▲スポーツウェアラブルシステム『マイコーチ エリート』

▲専用トレーニングウェアに装着する「プレーヤーセル」

 アンテナと組み合わせた白いベースステーションは、デバイスから送信されるフィジカル情報を受信。それらをリアルタイムでiPadの専用アプリ「miCoache liteダッシュボード」で閲覧したり、インターネットに接続したりすることで効果的に分析できる。アディダスがリリースしたのが2012年で、国内では2014年から『横浜・F・マリノス』が導入した実績がある。

▲各選手の走った距離などが細かく明示され、それらの情報はタブレットやPCなどで確認できる

▲1試合の中でどのくらいの距離をどのくらいの速度で走っているかも分かる

ドイツ勢が証明したシステムの有用性

 そのテクノロジーやシステムについて、アディダスの『マイコーチ エリート』担当・山下崇さんは言う。

▲アディダス『マイコーチ エリート』担当・山下崇さん

「スポーツの重要な要素には、戦術・技術、精神力・判断力、そしてフィジカルという三本柱がありますが、中でも一般的に最も重視されるのが戦術・技術部分であり、どちらかというとフィジカルはおろそかにされがちです。理由は明確で“目に見えづらい”から。でも、最近はリーグ戦や大会などでも走行距離が出たり、プロ野球もすぐに球種がわかる時代になりました」(山下さん)

 選手のコンディション管理、試合分析といった目的別にデータを自在に分析できるのも、『マイコーチ エリート』ならではだ。結果、『マイコーチ エリート』は世界の強豪チームに取り入れられている。レアル・マドリード、ACミラン、バイエルン・ミュンヘン、そして代表チームでもドイツ、メキシコ、アルゼンチンといった強豪国がトレーニングから試合までデバイスを活用する。

 中でも目覚ましい成果を出しているのがドイツ勢であり、バイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガ史上初の4連覇を成し遂げ、ドイツ杯も優勝。前回のチャンピオンズリーグも準決勝まで進出した実績をあげている。また、ドイツ代表は『マイコーチ エリート』導入後の2014年にプラジル杯で優勝するなど、目覚ましい成果が見られる。

▲ユーロ2016の準々決勝、イタリア戦に臨むドイツ代表。1対1のドローで、最終的にPKにより6対5と競り勝った

「ドイツ代表はケルン体育大学と産学連携で、学生たちによる研究対象としてサッカーのデータ分析を進めています。また、ブンデスリーガの試合は全てのスタジアムにデータ析用のカメラが設置されていて、両チームの選手全員の動きなどをすべてデジタルデータ化しているので、試合後などにブンデスリーガの公式ホームベージを見ると、走行距離のランキングや選手同士がマッチアップした際の勝率などが公開。選手はもちろんのことサポーターたちのデータ意識の高さなども、ドイツに好結果をもたらしている要因だと思われます」(山下さん)

▲ワールドカップなど、連戦時に選手のコンディション管理としても活躍する。ヨーロッパは特にデータを見る目がチームに根付いているので、選手も受け入れやすい

見えないデータを可視化して勝利へつなぐ

 データを重視することで、今まで見えなかったことが見えてきた好例がある。一般的にプロのサッカー選手は、1試合に平均10~12km走ると言われている。しかし、ヨーロッパの年間最優秀選手一人だけに贈られる賞『バロンドール』を5度も獲得したアルゼンチン代表リオネル・メッシ選手は、所属するFCバルセロナのとある試合で6.5kmほどしか走ってなかったことが分かった。

▲UEFAチャンピオンズリーグで活躍したリオネル・メッシ選手

「データを分析して見たところ、驚いたことにメッシはポールを持っているときの方が、持っていないときより早く走っていることが分かったんです。常に仲間たちを信じて、チャンスの時にはいつでも得点に絡めるよう、体力を温存しているのでしょう。この試合でも、ロスタイムで相手をぶっちぎり、同点ゴールを決めましたから」(山下さん)

 ただ単に怠けるために走っていなかったのではなく、ここ一番で爆速でドリブルして得点を取る。まさにメッシ選手がストライカーとして理想的な動きをしていることが、『マイコーチ エリート』によって改めて可視化された。

 このように海外ではGPSなども試合中に使用することが可能となっているサッカー界。そしてJリーグでもルール改正により、リアルタイムに分析などを行わない限り、試合中のIoTデバイスなどを使用することは認められるようになったという。

 将来的にはサッカーだけでなく、あらゆる競技がすべてデジタル化され、その競技間同士で選手のデータ共有が連携できるようになればいいと山下さんは言う。

「たとえばチームジャパンとして、サッカーも野球もバスケもテニスもラグビーも、ユース(育成)の段階から統一データされていれば、多くの才能のある選手たちを、若い段階でより適した競技に導きやすくなりますよね。そうすれば日本全体として、もっとすべてのスポーツで世界に勝つチャンスが広がるかもしれませんから」

<Edit:アート・サプライ/Text:三宅隆、滝田勝紀/Photo:下城英悟(GREEN HOUSE)、Getty Images>