大根仁『いだてん』1万字ロングインタビュー。「狭い部屋で撮るのは得意なんです(笑)。シベリア鉄道の旅の演出はワクワクした」
日本人初のオリンピアンとなったマラソンの金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。第9回「さらばシベリア鉄道」(NHK総合、3月3日20時放送)では金栗四三、三島弥彦が体験する、過酷なシベリア鉄道17日間の旅の模様が描かれます。
この回を演出するのは、数々のテレビドラマの演出・脚本を務め、映画監督としても活躍する大根仁さん。NHK大河ドラマにおいて外部から演出家を呼ぶことは珍しく、これが史上初の試みだそうです。今回は、都内で開かれた大根さんの合同インタビューの模様をレポートします。
自身が影響を受けた大河ドラマをはじめ、初演出回となる第9回の見どころ、深夜ドラマ時代から交流のある生田斗真さんや森山未來さん、浜野謙太さんらとの撮影エピソード、『いだてん』の視聴率、スポーツを演出する難しさや楽しさなどについて、たっぷり語ってくれましたので、ほぼノーカット(約1万字!)でお届けします。
[プロフィール]
大根仁(おおね・ひとし)
1968年生まれ、東京都出身。『演技者。』『劇団演技者。』(フジテレビ系)、『30minutes』『アキハバラ@DEEP』『去年ルノアールで』『週刊真木よう子』『湯けむりスナイパー』(すべてテレビ東京系)など深夜ドラマの演出や脚本を多く手がけ、2010年の深夜ドラマ『モテキ』(テレビ東京系)でブレイク。その後、『モテキ』(2011年)、『バクマン。』(2015年)、『SCOOP!』(2016年)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年)など映画作品の監督を務める。その他にも、電気グルーヴのドキュメンタリー映画やスチャダラパーなどのMV(ミュージックビデオ)など、音楽関連のコンテンツも多く手がけている。
[第9回「さらばシベリア鉄道」のあらすじ]
四三(中村勘九郎)と弥彦(生田斗真)は、ついに新橋駅を出てストックホルムに向け旅立つ。ウラジオストクやハルビンを経由してのシベリア鉄道17日間の旅。不手際で治五郎(役所広司)の渡航が遅れる中、監督の大森兵蔵(竹野内豊)と安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)のハネムーンのような態度、初めて触れる外国人の横柄さに、四三は不安を募らす。一方、孝蔵(森山未來)は、師匠・円喬(松尾スズキ)に「朝太」という名を授かり、噺家(はなしか)デビューに歩みだす!
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影響を受けた大河ドラマは?
――大根さんが過去のNHK大河ドラマで影響を受けた作品は?
いまは日曜日の夜8時というと、バラエティ番組が人気ありますが、ボクが小学生の頃は、テレビは一家に1台だった。父親がチャンネル権を握っていて、普通に家族で大河ドラマを見ていました。特に印象深いのは、市川森一さん脚本の『黄金の日日』(第16作、昭和53年)や、山田太一先生の『獅子の時代』(第18作、昭和55年)ですかね。どちらも有名な武将や、歴史に名を残した人がメインではない、という切り口が良かった。ドラマのつくりも斬新だった。いまでもファンはたくさんいると思うんですけれど、とても強く印象に残っていますね。
今回、お話をいただいたわけですが、もしテーマが有名な武将や偉人だったら、ちょっと腰が引けて受けていなかったかもしれない。俺も金栗四三(演:中村勘九郎)や、田畑(政治)さんは知らなかった。「え、誰?」という人物を描くことに、すごく魅力を感じました。
平成でいうと、やっぱり『龍馬伝』(第49作、平成22年)も従来の大河ドラマとは作り方が全く違って斬新だった。当時のNHKは革新的なドラマをどんどん作っていました。すごいな、と思ってずっと見ていましたね。あとは、どうかと思うくらいクオリティが追求されていた『平清盛』(第51作、平成24年)。どこまでいくんだろう、俺はついてくぞ、という気持ちで見ていました(笑)。
民放のドラマとは違う?
――どんなところに、民放のドラマとの違いを感じる?
ボクは本当に根無し草というか、ポリシーがないというか、まぁジャンクな性格なので、深夜ドラマもゴールデンタイムの民放ドラマも映画も舞台も書き物も、いろいろやっているんですが、「NHKだからどうこう」と思うことはなかったですね。脚本があり、演出家がいて、役者が演じるという点ではどこも変わらないです。
ただ公共放送で、これだけの歴史があると、若干ですが「ここ堅苦しいな」という部分はありました(笑)。むしろ、それを楽しみに来た部分もある。ここ数年のNHKのテレビドラマのクオリティについては、いちテレビ好きとしても「すごい作品がたくさん生まれているな」と思っているし、それがどんなシステムで、どんな仕組みで生み出されているのか、見てみたい気持ちがあった。いま勉強させていただいております。
あとシンプルに、美術がすごいと感じます。普通の映画やドラマでは、スタッフのクレジットは「撮影」がイチバン初めに来る。でもNHKでは、まず「美術」なんです。なんでだろう、と思っていたんですが、それを象徴しているというか。もちろん撮影も録音も、どのセクションも素晴らしい仕事をしている。中でも美術は、NHKの歴史がぎゅうぎゅうに詰まったセクションだなと感じています。
――第9回のシベリア鉄道のセットにも感銘を受けた?
そうですね。ボクは、ほかの演出陣やスタッフより後から遅れて参加したんですけれど、まず第9話を撮ってくれと言われて。脚本を読んだら「え、シベリア鉄道? ストックホルムに行く話? オリンピックの話ではない? 座りっぱなしか? スポーツを撮りに来たのに!」と思いました(笑)。
『いだてん』は全体的にそうなんですが、やったことのないことに挑む人たちを撮る。ドキドキしますよね。第9回は、100年前の人がシベリア鉄道に乗ってユーラシア大陸を横断して、ストックホルムまで行くという話。こんな映像、普通の仕事では撮れない。しかも45分かけてやれる、脚本も楽しい。とってもワクワクしました。何をしたか? まずシベリア鉄道で、実際に旅をさせてくれとプロデューサーにお願いしました。
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ボクはアスリートじゃないし、オリンピックに行く選手の気持ちは最終的には分からないと思うんですが、ストックホルムまで行くことの追体験はできるなと。まずそれをやりました。シベリア鉄道の資料などを読んで、歴史を勉強して、どう再現していくかを考えていった。食堂車と客車をまるまる再現して、窓の外はLEDで映して。一昨年ですか、映画『オリエント急行殺人事件』(2017年、20世紀フォックス)のシステムとほぼ一緒ですね。LEDに背景を流して、さも走っているように見せる。客車を揺らして走っているように見せる特殊なシステムもあって。
美術が手がけた食堂車と客車の再現度も、ちょっと引くくらいに素晴らしいんです。いやぁ、本当にびっくりしましたね。潤沢な環境で撮らせていただきました。スケジュールは厳しかったけどね(笑)。
▲忠実に再現されたシベリア鉄道の車内
大河ドラマに何の要素を加える?
――外部から参加してみて、どうだったか。
もともとチーフ演出の井上剛さんとは、10年くらい前から飲み仲間で友だちだった。お互い同じ歳で、なんだかドラマ作りに関して考えていること、スタンスが似ているなとずっと思っていた。3年くらい前に井上さんから、『いだてん』を一緒にやりませんかと話があって。飲み屋でね(笑)。カジュアルに、軽く誘われて参加することになったんですけれど。
外部から参加はボクだけじゃなくて、例えばVFXだったら映画『シン・ゴジラ』をやった尾上克郎さんという特撮時代からのプロフェッショナルの方がいらっしゃったり、タイトルバックは「劇団☆新感線」で映像などを担当している上田大樹くんがいたり。これまでの大河ドラマではなかったことですが、各セクションに外部からスタッフが参加しています。チーフ演出の井上剛さんの意図だと思う。では外部から来た演出家として、そこで何ができるだろうか。そんなことを人と話したり、考えたりしてきました。
サブ演出は久々です。普段、映画やドラマではチーフとして責任を追わないといけない。でも今回は、全体のクオリティを管理しないで良い、脚本も書かなくて良い、演出に集中できる。久々で、とても楽しかったですね。これまで深夜ドラマ、映画ではエンターテインメントをやってきました。だから、これまでの大河ドラマにはなかった、ポップな要素が加えられればなと思っています。
――視聴者として見たときの、『いだてん』の良さは?
なるべく日曜の夜8時に、リアルタイムで見ています。現場を知る身ながら「よくこんなことやっているな」と思います(笑)。驚くやら、呆れるやら。どのカットにも情報量が詰まっている。ここ最近の宮藤官九郎さんのドラマは、とても緻密に作られています。ここで張った伏線はここで回収するのか、ということが多い。民放ドラマだったら分かるけれど、これを1年間(全47話)やっていくのかと、その仕掛けにも驚きますね。あ、これは内部の視点ですか(笑)。
主人公の2人を描くことは、とんでもなく大変だと思う。近代モノということで自分もまだ不勉強ですが、NHKで時代劇をやるとき、「この時代ならこんな家のセット」という決まり、大河ドラマを作るメソッドがあるんですね。どの人物を取り上げても、それがあったわけですが、まぁボクは明治時代も立派な時代劇と言って良いと思いますが、近代劇のためにこれまでのメソッドが全く通用しない。それを1から作っていく、あ、これも内部からの視点ですか(笑)、それがテレビ好きの視聴者からしても、画面からビンビン伝わってくるということですね。毎回、すごいことをやっています。
――これまでの『いだてん』で印象に残っているシーンは。
どのシーンも好きなので、困ったなぁ。うーん。これまでのメソッドが通用しないという部分では、羽田マラソン(オリンピック選手を決める羽田の予選会)かなぁ。こんなもん、どうやって映像で再現するんだろうと思っていた。脚本、演出はもちろん、スタッフの力がすべて集中していた。ものすごく熱量があった。現場、お芝居、編集、音楽。VFXチームもいろんな仕事をしていた。
新しい魅せ方でしたね。いま視聴者は、ドラマだから、バラエティだから、スポーツ中継だからと頭の中でカテゴライズせずに映像を見ています。だからドラマの中で、あたかもスポーツ中継のような魅せ方をしても違和感がない。むしろ見やすいんです。これまでの大河なら「何とかの合戦、ああ何家と何家の戦いね」と分かるけれど、日本人が誰もオリンピックさえ見たことのない時代にマラソン種目の予選会をやる、それがどんなことだったか。誰にも想像がつかなかった、だから懇切丁寧に、それがどういったものだったか説明していましたね。走るコースを地図で説明したり、いまの順位を速報したり。ドラマとしてすごく正しい描写だったと感じます。
主人公にブラックな面が出てくる?
――金栗四三を、どんな人物と感じるか。
これまでは天然キャラで一直線に走ってきた人だった。でもボクが撮る第9回くらいから、これは実際にシベリア鉄道に乗ってみて自分も感じたんですが、1〜2週間も狭い部屋に閉じ込められているとものすごくストレスがたまってきて、ブラックな部分が出てくるんですよ(笑)。第9回では、これまで見ることができなかった“ブラック四三”が出てきます。性格の悪いボクとしては、この回が担当できて良かった(笑)。見たことのない眼つき、表情になっていきます。イライラもするし、三島弥彦(演:生田斗真)に対する嫉妬心も。それを乗り越えて2人がどうなっていくか。第9回の見どころです。
中村勘九郎、こんな顔するんだと思いました。それまで金栗さんと勘九郎さんで共通する部分を感じていて、一本気で真っ直ぐな人なんだろうと思っていたんですが、実際に仕事をすると意外な部分がたくさんあって、勘九郎さん本人の、これまであまり人に見せたことのない表情なんかも撮れたと自負しております。やはり中村勘三郎さんの血をひいている方だ、伊達じゃないと思いました。
――第9回の撮影期間は? 難しかったところは?
シベリア鉄道のセットを使って撮影した期間は2日半~3日くらい。ドラマや映画はストーリーの順番通りに撮影するとは限らないんですが、このときも、中村勘九郎さんと生田斗真が充分に親しくなった後の話を撮影してから、まだ親しくなる前の話を撮らないといけなかった。だから「まだ2人は、そこまで親しくありませんよ」「そうかそうか」なんて言いながら。そんな確認作業はありましたね。
――勘九郎さんのイメージは変わった?
もともと、うまい人だと思っていた。ボクは、中村勘九郎さんってダークな役が似合うと昔から思っていたんです。第9回では、金栗四三のダークな部分がチラチラ見える場面があるんですが、そんなところも撮れたのでは。勘九郎さんは、マッドな役が似合うので、いつか撮りたい。今回のいだてんでは無理ですけれど(笑)。金栗四三がね、いきなり、マッドな役になるというわけにもいかないので(笑)。
中村家のドキュメンタリーなどを見ていて、前々からそう思っていました。ダークというと語弊があるけれど、業の深い部分がありそう、というのかな。お父さんの中村勘三郎さんも生前、映画「顔」で酷くダークな役をやっていて、めちゃくちゃファニーだった。それを受け継いでいる部分が絶対あると思っています。
スポーツやオリンピックを演出する難しさは?
――スポーツやオリンピックをテーマにした作品を演出されることで、楽しいと感じることや、一方で難しさを感じることはありますか?
少し意外に思われるかもしれませんが、ボクはこれまでスポーツの仕事もしてきました。Jリーグが立ち上がったときに3〜4年、あるチームのドキュメンタリーを撮ったりしている。現場に撮影に行くと、サッカー協会やリーグのお偉いさんと、まだカジュアルにいろんな話ができた時代でした。そのときの経験値。あとは試合をどう撮るか、カメラやレンズなど機材をいろいろ試していた。そうした経験が20年経った今、役に立っています。
一方でスポーツ競技をフィクションとして再現することは、あまりやってこなかったので難しいと感じています。シンプルに相手がいる競技って、試合の中でドラマ性があって撮りやすいんですが、短距離や長距離って誤魔化しがきかない。役者本人のフィジカルも重要です。身体をつくらなきゃいけないので。身体の説得力ですね。(生田)斗真にしても、勘九郎さんにしても、長い時間をかけてこの役に向けてフィジカルトレーニングを続けてきました。なので、撮っていて本当にありがたい。力を入れたときのふくらはぎの筋肉が盛り上がる瞬間とか、本人で撮れるのが素晴らしいことだと思っています。
――オリンピックやスポーツに対する見方が変わった?
ボクはサブカル寄りの人間と思われがちですが、サッカー中継も好きで見ていて、W杯も3回くらい国内外に見に行っている。自分でもやっていたし、お祭り好きなんですね。ロックフェスなんかも好き。人が集まってワーってやっていると、否応なしにテンションが上がる。だから、来年のオリンピックも楽しみにしています。『いだてん』をやったことで、確かに見方も変わるかもしれないですね。日本におけるオリンピックの歴史を初めて知ったので、勉強させてもらったので。最初にこれだけの人たちがやってくれたおかげで、という見方ができる。実際、今年のお正月に箱根駅伝を見ながら、(第1回箱根駅伝の開催に尽力した)金栗四三さんのことを思って目がうるうるしました。
視聴率について
――視聴率がひと桁に落ちていることについて、どう思うか。
この質問には、慎重に答えるようにレクチャーされています(本人および記者団爆笑)。正直に話したいんですが、見づらいという指摘に関して。ボクは子ども時代から大河を見ていたし、いまも子どもと一緒に見ています。余計な情報がない子どもの方が、理解が早いというか、ビートたけしさんはどういう人、古今亭志ん生って誰、という情報量が少ないまま見ると、スッと「あ、この人が若い頃、こうだったのね」と理解できるみたい。
いま小学生、中学生の子どもの意見をよく聞いているんですけれど、分からない子がいないことにボクの方がびっくりしています。大人の方が、見づらいとか、構成が分からないとか、たけしさんが志ん生に見えないとか、まぁ、それは知っているからね、と思いますね。これはネガティブな回答ではなくてね、いろんな意見があって然るべきだし。在宅率の高い日曜8時という時間帯で、いろんな世代に向けて伝わるようにつくらなければいけない。見づらいとおっしゃる方の意見も、もっともだと思いますし、一方でまったく、そんなに複雑な構成とも思わず、明治と昭和を行ったり来たりしても「どうしてこんなに時代が飛ぶの」とも思わず、普通に理解できる世代もいる。なるほどな、と思う。
視聴率の話は、本当に難しい。あ、ボクは「視聴率をふた桁に戻す」なんて宣言は絶対にしませんよ、そこ絶対にメディアに取り上げられちゃうから(笑)。絶対に書かないでくださいね。映画の興行成績はものすごく分かりやすい。どのくらいの人が入って、どのくらい儲かったという形で。でもテレビの視聴率は、個人的には、何年も前から形骸化しているなと感じる部分がある。リアルタイムに見た人の数だけをはかる、というのがね。録画で見る人、ネット配信で見る人、BSでもやっているし。ボクもNHKオンデマンドに入っていますけど、そこで見逃し配信もしている。数字のトピックは分かりやすいんだよね、メディアの皆さんが内容でなく、そこ取り上げるのも仕方ないというか、当たり前だとは思いますけれど。
――それを踏まえて、第9回の見どころは?
それを踏まえて、ですか? あ、そういう意味では、これまではザッピングのように構成されていたところを、第9回ではこのキャラクターがこうなるんだよと、割とシームレスにつながるよう構成したつもりです。編集、音の付け方に趣向をこらしたというか。芝居のトーンも、時代が移ったときに、この人がこうなるんだ、若い頃こうだったんだ、同時期にこの人はこんなことをやっていたんだと、分かりやすくした積もり。だから、これまでよりシンプルで分かりやすいと思う。というのもメインの話が、日本からウラジオストックを経てストックホルムに向かう一直線の話なので、目的地がはっきりしている。そこに、枝葉をどうつけていくかだった。そういったことを演出で意識しました。見やすい回だと思います。
斗真とは「狭いね、懐かしいね」と言いながら撮影しました
――狭い列車の中での撮影が続いた。生田斗真さんは「若い頃に出た大根さんの作品を思い出した」と言っていた。
最初に生田斗真と仕事をしたのは1997〜1998年頃でしょうか、当時NHKで「天才てれびくん」をやっていて、彼がまだ14歳くらいのときでした。特に濃密な時間を過ごしたのは、2004年から2年半ほどやっていた民放の深夜ドラマ『劇団演技者。』において。これは舞台の戯曲をドラマ化する内容だった。ボクはジャニーズJr.、嵐、関ジャニ∞の全員と仕事をしましたが、生田斗真はグループデビューしなかったので割と暇だった(笑)。そのドラマにもよく出ていて。舞台は狭いワンシチュエーションのものが多いんです、30分×4本だから2時間の物語をつくることを当時、呆れるほどやりました。このときの経験から、ボクは狭い部屋で撮るのは得意なんです(笑)。
斗真と最後に仕事をしたのは、2006年の民放の深夜ドラマ『アキハバラ@DEEP』ですね。その後、彼はブレイクというかステップアップして今のポジションになった。だから一緒に仕事をするのは14年ぶりくらい? 照れ臭くもあり、どうしようかという感じでしたが、あっという間に関係性を取り戻せたような気がする。撮影する場所は、舞台よりも狭い客車の中っていうね。「狭いね、懐かしいね」なんてことを言いながら撮影しました。シベリア鉄道、たまに外に出たりもするので45分、ずっと客車の中ではないですけどね。食堂車にも行くし、東京ではどんなことが起こっていると見せるシーンもあるし。
孝蔵と志ん生の関係も進んでいきます。まぁ、でも斗真を久々に撮るのも楽しかったですね。そういう意味では、森山未來を撮るのも(映画およびドラマ作品の)『モテキ』以来で7、8年ぶりだった。
――チーフ演出の井上剛さんと大根さんを結んだのも森山未來さんだった?
そうですね。2010年くらいか。井上さんがNHKのテレビドラマ『その街のこども』を撮っていて。ボクは未來と『モテキ』を撮りに大阪に行っていて。3人で飲んで。『その街のこども』も、ボクは大好きだったし、『モテキ』と共通しているところを感じていて。それまでのテレビドラマとは違う手法で撮っている、分かりあえる部分があった。井上さんも『モテキ』をご覧になっていて、一瞬で打ち解けた。ですよねー、なんて言い合って。未來は用事があったのか、その場からいなくなって初対面の2人が残るという(笑)。それ以来の仲ですね。
人生でイチバン影響を受けた人
――落語とマラソンのパートが並行して進む。演出で心がけている、意識していることは?
そうですね……。落語もマラソンも、そのまま再現すれば良いものでもない。古今亭志ん生は映像が残っているので、たけしさんを似せることもできるけれど、じゃあ再現したところでどうなの、という部分もある。マラソンもそう。リアルに走っているように見せたいだけなら、それはスポーツ中継で良いじゃないかという。だからドラマとして、エンタメとしてどう昇華して見せるかなんですよね。
――落語とマラソンのコントラストを、どう考えている?
それは第何回か、によってさまざまに変わっていくことです。だから、ひとことで言うのは難しいですね。第9回で高座が出てくるのは、たけしさんが「ストックホルムではこんなことがありました」と話すシーン。たけしさんの声に、金栗さんと弥彦がクロスオーバーしていく。シンプルに言っちゃえば、NHKの『超入門!落語 THE MOVIE』的な。長尺として、ひとつのネタとして出てきます。
落語の”噺”で #いだてん をナビゲートするのは昭和の大名人 #古今亭志ん生。
— 大河ドラマ「いだてん」 (@nhk_td_idaten) January 7, 2019
演じる #ビートたけし さんは故・立川談志さんに弟子入りしていたことも。志ん生は最も敬愛する落語家とのことです。
「そのすごさを今の人たちにも知ってもらいたいね」https://t.co/EnyWa1wQwb#落語 #井上剛 #大根仁 pic.twitter.com/E8gfPpZFYz
――たけしさんを役者として、どんな風に見ている?
いままでの人生でイチバン影響を受けた人が、ビートたけしさん。その人と仕事できるのはすごいこと。映画監督としても大ファンですし、いろんな思いを持ちながらやっています。でも現場ではイチ役者。変な思いは持たず、プロとして一人の役者と向き合っているつもりです。
ハマケンと星野源。SAKEROCKの2人が同じ大河に出るおもしろさ
第9回では、ウラジオストックから列車に乗って2日くらいで着く街、満州のハルビンで途中下車しようという話になる。ハルビンといえば、3年前に初代内閣総理大臣の伊藤博文が暗殺された街だね、などと話をする。それを説得力のある映像にするため、やはり撃たれたシーンが撮りたかった。では、誰にやってもらう? 千円札の肖像でも有名な伊藤博文なら、お年を召した役者さんでも再現できるんでしょうけれど、そう言えばNHKの大河ドラマ『西郷どん』(第57作、平成30年)で浜野謙太が演じていたよなと。
ボクも好きで見ていましたけど、ドラマの終盤で主要な人物が次々と死んでいくのに、あいつだけ死ななかったなと(笑)。それじゃ、いだてんでその最期を看取ってやろうと。『西郷どん』と『いだてん』を繋ぐ、タスキの意味合いも込めて。ハマケンに、その役を担ってもらいました。
次回NHK大河ドラマ「いだてん」9話、10年ぶりにハマケンと仕事しました。浜野君、この10年ですっかり老けたなあ pic.twitter.com/skvA3Q36cz
— 大根仁 (@hitoshione) February 27, 2019
もともと同じバンド「SAKEROCK」で音楽をやっていた浜野謙太、星野源が同じ大河ドラマに出ているのも、自分の中では「おもしろい!」と思っているんですけれど(笑)。まぁ、これは伝わらなくても良い遊びの部分、小ネタです。
井上さんとの共同演出について
このあと、インタビュー会場に、チーフ演出の井上剛さんも登場し、合同インタビューに応じました。
――この先、井上剛さんと大根さんが共同演出する回もあるとか。
大根:はい。はじめ聞いたとき「共同演出って何だ!?」と思いました。やったことがなかった。現場で、2人してキャッキャしていれば良いのかな、とか思った(笑)。やったことがないことは楽しいですね。さっきも言ったようにドラマのつくり方、考え方が似ている部分があると感じていた。だから、そんなにおかしなことにはならないだろうとは思っていました。じゃ、やりましょうか、となった。
――やってみて、どうでしたか?
大根:いや、やらなければ良かったなと(一同爆笑)。嘘ですよ!
井上:ひとつの現場に2人でいることは、あまりなかったですね。
大根:その回は、ストックホルムから帰ってきた2人の様子と、その間に始まっていた新しい動きを見せるつくりになっていて。オリンピックの結果を引きずる金栗と三島の2人を井上さんが、新しい権力闘争をボクが撮りました。
井上:ストックホルムに行っている間に、国内では実はガラッと体制が変わっちゃうんですよね。
大根:嘉納治五郎さん(演:役所広司)がいない間に、大日本体育協会では権力闘争がありまして(笑)。新しくなります。
井上:おもしろいオバサンが出てきたりね。まだ詳しくは言えません。
大根:女子体育が芽吹いてくるんですね。
井上:杉本哲太さん(永井道名役)がおかしなことになっていきます(笑)。そういうところを、大根さんに撮ってもらった。
――杉本哲太さんについての印象は?
大根:ボクは昔、民放の『茜さんのお弁当』(1981年)というドラマが好きだった。だから、その話をよく撮影現場でも聞いています。哲太さんが「もうないよ」と困るくらい詳しく聞いています(笑)。
[番組情報]
『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』
《放送予定》
全47回 毎週日曜[総合]20時/[BSプレミアム]18時/[BS4K]9時
《作(脚本)》
宮藤官九郎
《音楽》
大友良英
《題字》
横尾忠則
《噺》
ビートたけし(古今亭志ん生)
《出演(キャスト)》
中村勘九郎(金栗四三)、阿部サダヲ(田畑政治)/綾瀬はるか(春野スヤ)、生田斗真(三島弥彦)、杉咲花(シマ)/森山未來(美濃部孝蔵)、神木隆之介(五りん)、橋本愛(小梅)/杉本哲太(永井道明)、竹野内豊(大森兵蔵)、大竹しのぶ(池部幾江)、役所広司(嘉納治五郎)
《以下五十音順》
荒川良々(今松)、池波志乃(おりん)、井上肇(内田公使)、岩松了(岸清一)、柄本時生(万朝)、大方斐紗子(金栗スマ)、小澤征悦(三島弥太郎)、勝地涼(美川秀信)、川栄李奈(知恵)、小泉今日子(美津子)、近藤公園(中沢臨川)、佐戸井けん太(春野先生)、シャーロット・ケイト・フォックス(大森安仁子)、白石加代子(三島和歌子)、髙橋洋(池部重行)、田口トモロヲ(金栗信彦)、武井壮(押川春浪)、永島敏行(武田千代三郎)、中村獅童(金栗実次)、永山絢斗(野口源三郎)、根岸季衣(田畑うら)、ピエール瀧(黒坂辛作)、平泉成(大隈重信)、古舘寛治(可児徳)、ベンガル(田島錦治)、星野源(平沢和重)、松尾スズキ(橘家圓喬)、松坂桃李(岩田幸彰)、松重豊(東龍太郎)、満島真之介(吉岡信敬)、峯田和伸(清さん)、宮崎美子(金栗シエ)、山本美月(本庄)ほか
《制作統括》
訓覇圭、清水拓哉
《演出》
井上剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
《公式サイト》
https://www.nhk.or.jp/idaten
<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>