インタビュー
2019年9月21日

大迫傑が語る、MGCとその後 (2/3)

―― レース中に設楽選手とのタイム差は把握していましたか。

沿道にいる一般の方が教えてくれることが多くて、ああ開いたなとか、急に縮んできたなと思ったり。開いたときは、大丈夫だろうとは思いつつも不安がなかったと言えば嘘になりますし、それが少なからず自分の焦りにつながった部分はあります。ひとつの原因ですね。

―― 普段、あまり焦りという言葉は口にしないと思うんです。冷静に行こうと思いつつも、そういう部分が出てしまったのでしょうか。

そうですね。あとは、いつもと違う状況というか、こういう大会になると。あとは、自分がどういう状況に今いるのか、このレースの中でどういう立場にいるのか、焦りとは違う部分で。

―― まだ代表選手は決まっていませんが、五輪のコースを確認できたことについては。

日本人選手の特権かなと思っていますし、ただ、東京オリンピックを想像しながら走ったかと言われればそうではなくて、目の前のひとつの大切な大会として捉えて走っていたので、正直、この経験が100%、東京オリンピックに活きるかと言われればどうか分からないですね。コースに慣れることが良いことかどうかは、また人それぞれですし。その状況によっても変わってくるので。

―― 7月下旬に1万メートルを走り、アメリカに戻ってハーフマラソンを走りました。それは計画通りだったんでしょうか。

そうですね。いつもそんな感じでつくっているんですが、大きな変更もせずに、故障とかで飛ばしたこともなく順調にきていると思います。良い練習ができたと思いますね。

―― 改めて、マラソンの難しさを感じた部分は。

いかに自分を信じられるかというところと、最後の最後は精神力だなというところ。あとはトラック競技以上に、小さな判断の違いが後半に影響が出てくるなということは強く思いました。

―― 先ほどの話にあった、判断のところですね。

はい。これがハーフマラソンだったら大きな差にはならなかったですし、スピードがあれば勝ちきれると思うんですけど、42.195kmとなると。ひとつひとつが小さな判断だったり小さな焦りだったりしても、積み重なって大きくなるんだなぁと思います。

―― 練習を積んできて、今回のレースを終えて、満足感はありますか。

2位までに入れなかったことを残念に思っていることを大前提として、ただ「本当にゴールできるのかな」と思った瞬間もありますし、足がいっぱいいっぱいになっているのを感じて「これはやばい」と思ったことも。ただ、そうした中でも強い気持ちを持ち続けて、最後までゴールできたということは、ボクの中ですごく大きな意味を持ちます。ボク自身、メンタルに強い部分を持てているのを感じました。ほかに走った選手も含めて、すごいプレッシャーの中で走ったと思うんですけど、選手たちへのリスペクトだったり。もちろん敵同士ではあるんですけど、終わった後、直接話してはないですけど、気持ちが共有できる部分があったんじゃないかなと思うんです。

―― こういう独特のレースで、連帯感のようなものを感じたということですか。

そうです。もちろん、本当に悔しくて何も話せない選手もいるとは思うんです。でも、多くの選手が終わってホッとした表情をしていて、みんな同じ気持ちなんだなと。もちろん、これが終わりではないですし、まだいくつかレースがあるので、そこを狙っていくんですが。ひとつ、終わったのでみんな気持ちを切り替えていこうというところはあったんじゃないですかね。

―― 次にやるべきことが見えたレースでしたか。

今回のレースから学ぶことはたくさんありましたし、詳しくは言えませんが終わった後にコーチと話をして、こんなことが必要なんじゃないかと。ほかの選手を見ても学ぶことが多くて。ダイナミックに動きが大きなままでいくべきなのかどうなのか、そこに答えが見つかってはいないですが、今後改善する余地があるなと思いました。

改めてマラソンって日本で注目されるスポーツなんだなと

―― ファイナルチャレンジのことは未定ですか。いつくらいまでに決断しますか。

コーチがいないことには話が進まないので、もちろん帰ってからというところで。最初の段階では、休んでそのあとで立ち上げというところでは、あまりやることは変わらないので。わりと時間はあるかなと思っています。そんなに近々では決めないですね。

―― これから日本で大事なレースが行われます。どこに注目して欲しいですか。

自由に見て欲しいというのが正直なところではあるんですけれど、難しさ、それが周りから見れば楽しさとイコールなんだと思うんですが、小さい判断が大きな違いを生むので。序盤は団子になっていましたけれど、視点が変わってくるんじゃないかなとは思います。この選手はここで動いたから、こうやって落ちちゃったんだとか、見え方があるので。そのあたりは、やっててもそうですし、難しさがありますがおもしろさになるんじゃないかと思います。あとは、ほかの選手も思っているところがあるので、いろんな選手の話を聞ける機会があればおもしろいんじゃないでしょうか。

―― 日本記録の更新に向けては。

もちろん、可能だと思っていますし、今回もそうですが、自己ベストで走れる状態をつくっていたので。ただ、これまでも記録にこだわって走ったことは1度もないので、同じようにしっかりと勝負にこだわって、結果がついてきたら良いなと思ってやっていきたいと思っています。

―― 1発勝負のマラソンでした。印象は。

当たり前と言えば当たり前ですが、通常じゃない状態から通常に戻っただけなので、ボクとしては「普通じゃない?」と思うだけで。緊張感が増す、ということはもちろんありますけど、それが勝負の世界なので。変えてくれたことに感謝するわけでもないですし、逆にボクは変わって当然だと思っているので。まだまだ、そういう変えなきゃいけない部分ってあると思います。例えばアメリカのトライアルだったら賞金が出たりするわけじゃないですか。あれだけ注目されていて、もちろんスポンサーを出せないというのはありますけど、選手への還元ってどうなっているのと。ボクらは年に数回しか走れないマラソンで生計を立てているわけで、そういうところも、アメリカにいるからこそ、アメリカ人のコーチがいるからこそ「なんで無いんだ」と疑問を持ち始めるのであって、その辺は。ボクがこうやって言っていかないと気付かない部分もあるので、そのあたり、恐れずに発言していくっていうことをやっていきたいと思います。

1 2 3