インタビュー
2019年6月30日

阿部サダヲ『いだてん』ロングインタビュー「暗くなりがちな時代だからこそ、スポーツを通して明るくなってほしい」 (1/4)

 日本人初のオリンピアンとなった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。

 全47回の半分が終わり、第25回「時代は変る」(NHK総合/6月30日20時放送)から第2部がスタートします。金栗四三(演:中村勘九郎)に代わり主役を務める田畑政治(演:阿部サダヲ)は、朝日新聞の記者でありながら水泳指導者としてオリンピック選手を育て、果ては1964年東京オリンピックの招致活動にも関わったという異色の経歴を持つ人物です。

 阿部サダヲさんは、どんなアプローチでこの大役に臨むのでしょうか。「憧れ」と語る、ショーケンこと萩原健一さん(2019年3月死去)ら共演者との撮影エピソードも披露されました。都内で、阿部さんを囲んだ合同インタビューが行われましたので、その模様をお届けします。

●阿部サダヲ(あべ・さだを)
1970年4月23日生まれ、千葉県出身。松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」に所属。主な主演作に、TVドラマ『マルモのおきて』(フジテレビ系)、『下剋上受験』(TBS系)、『anone』(日本テレビ系)のほか、映画『舞妓Haaaan!!!』、『殿、利息でござる!』、『彼女がその名を知らない鳥たち』、『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』など。また、バンド「グループ魂」では、ボーカル・破壊として活躍。大河ドラマにはこれまで、『元禄繚乱』、『平清盛』、『おんな城主 直虎』に主演している。

●田畑政治(たばた・まさじ)
1964年の東京オリンピックを組織委員会事務総長として成功に導く。もともとは水泳をこよなく愛し、世界と戦える選手の育成に燃えた指導者。大学卒業後、新聞記者として政治家たちと渡りあいながらスポーツの地位向上をめざしていく。熱情家でロマンチストだが早とちりで落ち着きがないため、しばしばトラブルを巻き起こす。

【あらすじ】第25回「時代は変る」
いだてん後半の主人公がいよいよ登場! 四三(中村勘九郎)がまさかの3度目のオリンピックに出場し、負けて帰ってきた報告会で「負けちゃ意味がない」と息巻く若者が現れる。田畑政治(阿部サダヲ)である。30歳で死ぬと予言され、体の弱かった彼は、自分が生きている間に日本水泳を世界レベルに引き上げようと血気盛ん。朝日新聞に記者として入社し、政治家の大物・高橋是清(萩原健一)にも接触。震災不況でオリンピック参加に逃げ腰の治五郎(役所広司)や金に厳しい岸清一(岩松了)も驚く多額の資金援助をとりつけてみせる。

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“口がいだてん”と評される田畑を演じる難しさ

―― 田畑政治を演じてみて難しいところ。また、役柄のこだわりは。

田畑さんは、1932年のロサンゼルス・オリンピックで水泳日本代表の総監督を務めます。そのあたりまで、ドラマとしてもお祭り騒ぎのような、賑やかな回が続くと思います。その後で五・一五事件、二・二六事件などが起こり、日本が戦争に向かっていく状態になると心情的にも難しくなってくる。オリンピックを日本に呼びたいけれど、本当にこの国に呼んでも良いのだろうか。どう演じていくか、難しいところです。嘉納治五郎さん(演:役所広司)の思いと近いところがあるので、参考にしています。

嘉納治五郎さんは、田畑を指して「彼は口が“いだてん”だな」と評します。だから、そうじゃなきゃいけないんだろうな、と思って演じています。史実を聞くと、何を言っているか分からない人だったらしい。ギリギリ聞き取れるくらいのところまで攻めていければ良いなと思って頑張るんですが、本当に何を言ってるか分からないと、録音部の人から注意されるので、難しいところ。なるべく、考えるより先に口が出ているところを出せると良いかな、と思っています。後半は落ち着いてきますが、若いときはバーっと言いますね。

―― 演出からは、せっかちな役作りが求められています。具体的にしていることがあれば。

それは、歩く速さなどですね。あとはメモしても、殴り書きで自分の字も読めない人だった。料亭でご飯を食べたあと、必ずと言っていいほど他人の靴を履いて帰ってしまったり。せっかちも度を超えているというか。オリンピックのこととか、人と違うことをずっと考えていた人なんでしょうね。

一連の動きの中でやらなくちゃいけないことが多いんです。例えば、このタイミングでタバコに火をつけて、火がついている方をくわえて、アチチとなる、という一連の動きが難しい。当時は両切りタバコ(吸い口やフィルターがついていない)でマッチだった。NHKは小道具もちゃんと再現しているから、当時のマッチと同様に細くて、片側しかヤスリがついていない。どっちを擦るか、分からなくなることがあるんです。だからある種、ちょっとした競技のようで、アスリートみたいな気持ちで演じているときがあります。このタイミングまでにタバコに火をつけなきゃいけない、とか。挑戦する楽しさがありますね。

―― 嘉納治五郎さんとは違うな、と思うところは。

治五郎さんは「こんなときだからオリンピックするんだろう!」と仰っていて、田畑さんと似ている部分もあるんですが、手ぶらで行くというかね、何も持たないで気持ちだけで突っ走るところがある(笑)。でも田畑は理詰めでいくし、納得させてから行動するパターンが多い気がします。

モノマネされないタイプだからうれしい

―― 大河ドラマで主演を務める醍醐味や苦労はありますか?

オリンピックをやっていると、各国が舞台になります。現場で話されているのは、英語、フランス語、ポーランド語、イタリア語。いまドイツ語ですからね。すごい現場だな、と思います。なかなかない。役者の中にも、しゃべれる人がいるんですね。加藤雅也さん(IOC委員、杉村陽太郎 役)とか、フランス語も英語もしゃべり分ける。僕は見ているだけです。すごいなーって(笑)。塚本晋也さん(IOC委員、副島道正 役)も、もちろん役所広司さんも英語をしゃべって。ただ、一貫して田畑は英語をしゃべらないですね。第2部の後半は外交もしますが、英語は星野源くんがしゃべることになっています。ホッとしているんですが(笑)。

―― 田畑の青年期を、原勇弥さんが好演していました。

似せてくれているのかな、という感じはしました。しゃべり方とか。僕は普段、モノマネされないタイプだから、そういう人を見るとうれしいですね。ただ肌は、俺の方が白いなと思いました(笑)。

(編集部注:NHK関係者によると、実は原さん、昔から阿部サダヲさんの演技を研究していたとのこと。「ついに活かすときがきた」と、意気込んで撮影にのぞんだそうです)

前から、そんなことしてくれてたんですか(笑)。いやぁ、うれしいですね。

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