2019年5月22日

“走れない”から抜け出す処方箋を見つけたい│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#30

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 「トレーニングがなぜか続かない。その理由はなんだろう」。今回は、甘糟さんが日々のトレーニングに関する悩みを吐露しています。スポーツ好きであればけっこう陥りがちなこの経験、みなさんはどうやって乗り切ったり、向き合っていますか?

心のアップダウンも体調の一種

 最近、走れていません。

 いやいや、忙しくてジョギングに出る時間がないとか、足首に違和感があるとか、そういうんじゃないんです。走り始めることは走り始めるんですよ。週に一、二度はウエアに着替え、シューズを履いて、お気に入りの音楽を聴きながらジョギング。海沿いの道を、まずはゆっくりしたペースで走ります。3キロぐらいはウォーミングアップですからね。

 なのですが……。

 ここのところ、どうもその先が続かない。3キロぐらい走るとつい歩いてしまうのです。別に息が上がっているわけではなく、身体が重いわけでもなく、むしろウォーミングアップができているので足はさくさく動いている。それなのに、なーんとなくめんどうくさくなってしまうんですよね、走るのが。

 で、つい歩く。ほんの出来心です。

 ちょっと歩いたら、また真面目に走ろうと思っているんですよ。今休んでいるだけで本来は走っている時間である、その走っている時間をより鮮やかなものにするために一時的に歩いているのだと自分に言い聞かせています。でも、結局、そのまま走る予定だった距離を歩いて無理やり達成させ、帰路につくのです。夕陽が綺麗だったし、まいっか、と思いながら。

 よくなーい!

 わざわざ着替えてスマホを腕に巻きつけてるのに、これじゃあただの散歩です。ジョギングとはいえません。インスタには「お散歩ジョグ、行ってきました♡」なんて書いているけれど、なんでもかんでもきれいごとにして誤魔化すのは私のスタイルではないはずなんです。

 フルマラソンを完走した頃は、走るといったら基準は10キロでした。それぐらい走らないと、なんだか身体に余計なものが溜まっていくような気がして気持ちが悪かった。月に100キロを小さな目標にしていた時期もあります。そんな自分が、まさか5キロを走り切ることが億劫になるとは思いもよりませんでした。怪我とか多忙とか具体的な理由もなく。

 情けないことに心がついていかないんです。本当にただただ「めんどう」になってきちゃう。故障や体調の不良ではないので、自分はいつだって10キロぐらい走れるんだという自負が、それなら今日ぐらいサボっても大丈夫という思考回路になっているのかもしれません。

 いったんジョギングを止めるという手もあるのでしょうか。しかし、スポーツジムやテニスクラブのような退会という手続きなんてないし、ゴルフみたいに人と約束するわけでもない。一人で時間が空いた時にサクッとできるのがジョギングのいいところですから、こうなったらもう止めちゃおう! なんて意気込むほどではないわけです。

 こうして書いていて気がつきました。心のアップダウンも体調の一種なのだということを。私は今、ちょっとだけ体調が悪いんです。それは年齢的なもの(更年期ってやつですね)なのか、季節的なもの(湿度が高くなると、慣れるまで心身ともにしんどい)なのか、ストレス(ありがたいことに仕事が忙しい。薄利多売ですが。笑)なのか、きっとそのすべてが少しずつ心に染み込んできたんだろうなあ。

 何かしら、自分で自分に処方しなくちゃ。精神が不安定なわけではないから、モチベーションという栄養剤を心に与えるのがいいのでしょうね。今はまだ思いつきませんが、あれこれもがいてみようと思います。はてさて、どんな処方箋になることやら。あせらず、ゆっくり考えたいです。そして、また走るのが気持ちよくなって、あれ? 気がついたら10キロ超えてた、そういう自分に出会いたい。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。河出書房新社より新著『鎌倉の家』が刊行。

<Text & Photo:甘糟りり子>