ライフスタイル
2020年5月25日

パリ五輪を走った2人のレジェンドの実話『炎のランナー』|スポシネ:観たらスポーツしたくなる映画

 1981年公開のイギリス映画『炎のランナー』は、1924年のパリ・オリンピックで金メダルを獲得したイギリスの陸上選手ハロルド・エイブラハムズとエリック・リデルの2人を描いた物語。実話を基にした本作は、そのテーマ音楽とともに今なおスポーツ映画の名作として語られる作品だ。

今回紹介する映画『炎のランナー』の見どころ

 徹底したアマチュアリズムを美徳とし、スポーツが特権エリート階級の余技であった時代のイギリス。ユダヤ人であるハロルドと、スコットランドの宣教師であるエリックは、自身の栄光のため、神と伝道のために走った。

 競技での勝利を、それぞれの個人的な目的のために求める彼らではあったが、とてつもなく真摯に、あまりにも純粋に「走ること」に打ち込む。その姿はほかのスポーツ映画のような華やかさも、怒濤のように盛り上がる派手さもない。それでもなお、この作品がスポーツ映画の名作といわれる所以は、丹念に描かれたスポーツへの讃歌が観る者に伝わるからだ。

 また、公開翌年の第54回アカデミー賞でスポーツ映画として作品賞、作曲賞はじめ4つの部門で受賞したことでも証明されている。

走ることは生きること! スポーツ映画不朽の名作

 1919年、裕福なユダヤ系銀行家の息子ハロルドは、名門ケンブリッジ大学に入学し、陸上短距離のトップアスリートになることを目指す。ユダヤ人であることにコンプレックスを抱き、ランナーとして競技に勝って栄光を掴つかむことで自らのアイデンティティーを確立しようとする。「ユダヤ人であることは、痛みと怒りと絶望を持つことだ」と友に語るハロルドは、偏見を打ち砕き、真のイギリス人になるために走る。

 一方のエリックは、走ることは神の恩寵であり、神のみ名と技を世に広めることという信念で走っていた。「走ることは苦しく、集中力と精神力を必要とします」と、説教で語るエリック。神のために栄光を掴め、妥協は悪魔の囁きだと教会の指導層に走ることで布教に貢献することを求められるエリックは、宗教家として神のために走る。

 彼らにとって走ること、これはもう完全に生きることの何者でもない。もし、彼らに走る才能がなかったならハロルドは人生に絶望し、エリックは宗教家として多くの衆目を集める術を持たなかったかもしれない。

 走って勝つことにどこまでも貪欲なハロルドと、教会側の思惑は別として、自らのランナーとしての才能を神に捧げるストイックなエリック。

 走ることを自らが生きるための指標にまで昇華した、スポーツの持つある意味スゴい力! 世のランナー諸君は、何のために走るのか? 生きるためとまではいかなくとも、走り続ける理由を問うてみれば自分が思っていた以上に大切な答えが見つかるのかも。

あまりにも有名なテーマ曲と名シーンは必見! 

 これからこの映画を初めて観るという方でも、印象的なメロディラインのテーマ曲に乗せて海辺をランニングするオープニングとラストシーンを、もしかしたら目・耳にしたことがあるのではないだろうか。この作品を語るなら絶対に語らねばならない、それほどまでに有名な名シーン中の名シーン。

 イギリス特有の薄曇りの空、波打ち際を真っ白なトレーニングウエアに砂を跳ね上げながら走るランナーたち。流れるテーマ曲はヴァンゲリスの「タイトルズ」だ。

 もうもう、このテーマ曲を聞いただけでカラダの奥底からジーンと込み上げてくるものがある。そしてあの格調高い映像。走るランナーたちの歓び溢れる表情。本連載テーマ「観たらスポーツしたくなる映画」の真髄ともいえる名シーンだ。見逃すなかれ!

『炎のランナー』<2枚組>
DVD発売中 ¥1,429 +税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
Amazonプライム・ビデオで見る

<Text : 京澤洋子(アート・サプライ)>