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2024年9月27日

なぜスポーツ選手は試合中にガムを噛むのか。スポーツ歯学を研究する専門家が回答

サッカー選手や野球選手、ゴルフ選手が、試合中にガムを噛んでいる。そんな姿がテレビにちらっと映ることがあります。SNS上では「なぜ?」「ルーティンなのかな」と疑問に思う声もチラホラ。

試合のときにガムを噛む理由について、東京歯科大学 口腔健康科学講座 スポーツ歯学研究室の武田友孝(たけだ・ともたか)客員教授にお話を伺いました。

試合中にガムを噛んでいるスポーツ選手を見かける

──ここ数年、SNS上で「サッカー選手や野球選手はどうして試合中にガムを噛んでいるのか」という投稿を見かけます。スポーツ選手が試合中にガムを噛む行動は、いつ頃からあるものなのでしょうか。

昔からメジャーリーグなどではガムを噛みながらプレーする選手が多くいました。近年では、日本においても野球だけでなくさまざまな競技のアスリートがガムを噛んでいることが増えてきたように思います。試合中に限らず、試合前の準備中などでも多く取り入れられています。

──ガムを噛むことで、スポーツ選手のパフォーマンスにどのような良い影響があると考えられますか? フィジカル・メンタル両方の視点から、それぞれお願いいたします。

フィジカル面では静的バランスや瞬発力の強化、メンタル面では集中力や判断力アップ、リラックス効果などがあります。

フィジカルコンディショニングを整える

・静的バランスの強化

ガムを噛むことで静的バランス※が整うことがわかっています。静的バランスがよいことは、運動に大切な構え例えばバッティング時の構えの安定につながります。また、静的バランス能力が低いと運動中の膝のケガのリスクになることなどが報告されています。

※静的バランス=動かない状態を保ち続けるための能力

・瞬発力の強化

ガムを噛むことで、ジャンプ力が高まることが報告されています。また、女子中学生を対象とした試験では、ガム咀嚼トレーニングにより、スタートダッシュが速くなることも報告されています。

ガムを噛むトレーニング(ガムトレ)により咀嚼筋を鍛えること、噛むバランスを整えることで、パフォーマンスの向上に繋がることがさまざまな研究で明らかになっています。

あるアスリートの噛むバランスをチェックすると、口腔内の右側だけで噛んでいました。その選手に、左右でバランスよく噛むようにアドバイスしたところ、後日聞いた話では、体のバランスが良くなり調子も上向いたようです。

瞬間的なパワーを効率的、効果的に発揮するには、偏りなく噛めるということも大事なのです。

メンタルコントロール

・集中力・判断力アップ

ガムを噛むことは脳への血流を増加させます。ガムを噛むことで、認知機能を司る前頭前野の血流もよくなり、集中力と判断力が高められます。

・リラックス効果

噛むという「リズム運動」により、「セロトニン」の分泌が増加することでストレスが低減し、精神の安定にも繋がります。また、緊張すると口の中が乾くことがありますが、ガムを噛むことにより、副交感神経由来のさらさら唾液が多く出て、口を潤すことができます。

──ガムではなく、グミやスルメでも同様のメリットは期待できますか? どれも「噛む」メインの食べ物ですが……。

咀嚼筋を鍛えるということであれば、グミやスルメでも効果は期待できると思います。一方で、アップやトレーニング、試合中に集中やリラックスをするために噛み続けることができるかと考えるとガムが適しているのではないかと思います。

また、グミの中には糖分の多いものがあります。「噛む」ことのメリットは良いのですが、むし歯予防の観点からは注意が必要です。

──パフォーマンスアップのためにガムを噛む場合、どんなガムが適しているでしょうか?味や成分、硬さなど。

自分のリズムで噛むことが重要ですので、好みにあった味や硬さのものを選ぶことが重要です。その中でも、シュガーレスガムや硬さが続くものを選ぶことをおすすめします。

──ガムを愛食しているプロスポーツ選手として、たとえばどんな方が挙げられますか?

ロッテと共同で噛むことを通じてアスリートをサポートする「噛むスポプロジェクト」を行っています。

野球やサッカー、バスケットボールなどさまざまなアスリートに専用のガムを提供しています。野球では千葉ロッテマリーンズ、サッカーでは川崎フロンターレやジュビロ磐田、バスケットではレバンガ北海道、プロゴルファーの中嶋常幸プロや池田勇太プロなどをサポートしています。

たとえば、千葉ロッテマリーンズの中村奨吾選手は、「運転中やトレーニング前後にガムを噛むことを取り入れており、身体がほぐれることを実感」しています。また、小島和哉選手は「緊張して口がパサパサになるので、ガムを噛むことで口を潤しています。練習中にはポケットにいくつかガムを入れておき、頻繁に噛んでいて、ガムは常に身近にあります」とコメントしています。

川崎フロンターレ遠野大弥選手は、ガムを噛む理由について「集中できるように噛み続けています」とガムを噛むメリットを感じていただいています。

──ジュニアアスリートやリトルリーグなど、子どもが活躍するスポーツ現場でも、試合中のガムはパフォーマンスを高める手段として適していますか? その場合、試合前と最中(ベンチなど)、どのタイミングで噛むとよいでしょうか。

お子さんでも試合中の集中したいときや緊張した時に噛むことでパフォーマンスを高めることが期待できるかと思います。ただ、なかなか試合中に噛むことは難しいと思いますので、試合前に噛んで緊張を和らげたり、集中するためのスイッチとして活用したりするのがいいのではないでしょうか。

また、噛む力と運動能力の関係においては、しっかりと噛むことができる子どものほうが良い成績を収められることが、スポーツ能力テストとの関連性を調査した研究結果から明らかになっています。

さらに、噛むことを鍛えることで短距離走のスピードが上昇することも報告されています。運動が苦手なお子さんは、必要な場面では適度に噛むことを意識づけると運動能力の向上に繋がりやすいかもしれません。

参考サイトURL:https://www.lotte.co.jp/kamukoto/

──ちなみに、何分くらい噛むと効果が期待できますか。

しっかりとガムを噛むことで顎まわりの筋力トレーニングになります。左右のバランスを整えるということも考えて、左右5分ずつ均等にしっかり意識してガムを噛むことを、1日3回くらい行ってみることをおすすめしています。

──では、一般人でもパフォーマンスを高めたいときにガムを噛むとよさそうでしょうか。たとえば大事なプレゼン、面接のときなど。

スポーツシーンだけではなく、日常でもガムを噛むことで集中力や判断力がアップする、メンタル面ではリラックス効果もメリットとしてあげられますので、大事なプレゼン、面接の前に噛むことをおすすめします。

──「試合時にガムを噛んでいると、適当にプレーしているように見える」という声も耳にします。そうした方々に向けて、一言お願いいたします。

ガムはアスリートにとって多くのメリットがあるものなので、ガムを噛む方にはマナーも意識して噛んでいただきたいです。しっかりと口を閉じて格好良く噛んでいただきたいですし、噛んだ後のポイ捨てなど絶対にしないでいただきたいです。

一方、これまで述べてきましたように、ガムを噛むことの科学的に証明されたメリットを多くの方にご理解いただくことを望みます。車の運転中のガムを噛むことが眠気を防止し、重大な事故防止につながることは、皆さんご承知かと思います。

ご回答者プロフィール

武田 友孝客員教授(たけだ ともたか)

・東京歯科大学 口腔健康科学講座 スポーツ歯学研究室 客員教授(歯学博士)
・日本オリンピック委員会 強化スタッフ(医・科学)バレーボール競技、レスリング競技
・日本スポーツ協会公認スポーツデンティスト
・日本スポーツ歯科医学会指導医
・日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医

<Edit:編集部>