日本発のAI企業『AI&(エーアイ・アンド)』始動。79億円調達、国内AI基盤の構築へ
日本発のAIプラットフォーム企業「株式会社エーアイ・アンド」が3月25日、都内でキックオフ発表会を開催した。登壇したのは、CEO兼共同創業者のデビット・ベネット氏と、Co-Founder & Presidentの原信平氏。
発表会では、日本を拠点に最先端のAI基盤を整備し、グローバルに競争できるAI企業を目指す方針が示された。
日本とAIをつなぐ新会社として船出
発表会の冒頭、ベネット氏は自身と日本との長い関わりを振り返りながら、日本への強い思いを語った。

高校時代から日本に通い、通算で約15年を日本で過ごしてきたという。AMD日本法人でキャリアを始め、その後はレノボ・ジャパンやNECパーソナルコンピュータのトップを歴任。さらに米テンストレントではAI事業の商業化を主導してきた。
そうした経験を経て、いま再び日本に戻り、AIを加速させる会社を立ち上げることに大きな意義を感じていると述べた。

社名の「AI&(エーアイ・アンド)」には、「all ideas, connected.」という意味が込められている。原氏は、AIは人の仕事を奪うためのものではなく、人をより効率的にし、可能性を広げるものだという考えが社名の中核にあると説明。人とAIがともに価値を生み出す未来を見据え、さまざまなアイデアをつないでいく役割を担う会社にしたいと語った。
ミッションは「日本の最先端AIラボ」をつくること
同社が掲げるミッションは大きく3つある。1つ目は、日本の最先端AIラボを構築すること。2つ目は、グローバル水準のAIとコンピュートを提供すること。3つ目は、インフラとデータセンター領域でのイノベーションを通じ、その提供価値を高めていくことだ。

発表では、AIサービスを語る上でモデルだけではなく、コンピュート、データセンター、電力、冷却といった下層の基盤まで見据える必要があると強調された。
原氏は現在のAI市場について、ハードウェア、モデル、アプリケーションの進化スピードが急速に高まっていると説明した。ハードウェアは数年単位だった更新サイクルが短くなり、モデルも年1回だった更新が月単位、週単位、さらには日次の継続学習へ向かっているという。こうした変化の中で、ソフトウェア開発や業務のあり方そのものがAI前提へと変わりつつあるとした。

スライドでも、CUDA、DGX、GPT-3、ChatGPT、Claude Code、OpenClawといった技術の変遷が、加速するタイムラインとして示されていた。

キーワードは「トークン」。AI時代の需要増をどう支えるか
発表会で繰り返し語られたのが「トークン(AIが文章を理解・処理するための最小パーツ)」の重要性だ。原氏は、ユーザーが日常的に使う生成AIの裏側では膨大なトークンが動いており、AIエージェントや推論のループが増えるほど、その需要は爆発的に増えていくと説明した。

発表では、NVIDIAのジェンスン・フアン氏による「100万倍のコンピュータが必要になる」という見方にも言及し、今後のAI社会では現在とは比較にならないほどの計算資源が求められるとの認識を示した。
さらに原氏は、仮に1人あたり100のAIエージェントを使う社会が来れば、日本全体で必要となるトークン量も、それを動かすハードウェアも、消費電力も桁違いに膨らむと試算。だからこそ、単にAIモデルを使うだけでなく、それを日本でどう効率よく動かすかが重要になると語った。
分散しているAIの仕組みを、一つにまとめて効率よくする
同社が打ち出す戦略の中核は、分断されたAIシステムを縦に束ねる「Vertically Integrated」にある。

原氏は、現在の市場では電力事業者、データセンター事業者、コンピュート事業者、オーケストレーション、モデル、エージェントといった各層が別々に存在し、それぞれが利益を乗せることで、最終的にユーザーが高コストでAIを利用する構造になっていると指摘した。

これに対し、同社はデータセンターからサービスまでをまとめ、最適化し、コストと速度を改善していく構えだ。

また、同社はNVIDIAだけに依存せず、AMDやテンストレントなど複数のハードウェアを活用する「Heterogeneous」戦略も掲げる。AIの処理内容に応じて最適なハードウェアを選ぶことで、供給の不安を減らしながらコストと安定性の両立を図る狙いだ。
日本国内でのデータ運用と安全性も重視
データを自国で安全に管理する「Sovereign Privacy Security」も重視している。生成AIの利用が広がる中、自社データや個人情報がどこで処理されているのか分かりにくいことへの不安は大きい。ベネット氏は、日本国内のデータセンターでAIとコンピュータを提供できる体制を整えることが、企業や利用者にとって大きな安心につながると説明した。
日本国内に計算基盤を持ち、データの所在やガバナンスを明確にできる点を、同社の差別化要素として打ち出していく考えだ。

すでに事業は始動。顧客80社超、GPU1000台超を運用
今回の発表で印象的だったのは、構想段階ではなく、すでに事業が走り始めている点だ。
ベネット氏によると、同社はすでに約80社の顧客を抱え、テスト利用や実運用が進んでいる。2つのデータセンターを保有し、1000台以上のGPUを稼働させているという。社員数は15人で、今後さらに採用を拡大していく方針も示された。
資金の使途については、79億円を研究開発やオペレーション、人材採用に充て、3150億円のインフラ資本はデータセンターの設計・構築や、安全で電力効率の高い基盤整備に投じると説明。AI企業は大きな資本を必要とするが、同社は短期の資金繰りに追われるのではなく、自社の技術とミッションに集中できる時間を確保するため、十分な資本を先に確保したかったと語った。
同社のKPIは「トークン配布量」と「顧客導入」
今後の事業指標について原氏は、単一の数字ではなく、「どれだけ多くの人にトークンを届けられたか」と「どれだけ顧客に合ったAI製品を導入できたか」の両面で見ていく考えを示した。個人向けに偏るのでも、企業向けに偏るのでもなく、広くAIへのアクセスを広げることを重視する姿勢がうかがえる。
顧客像については、現時点では開発者や企業を中心に幅広く想定しているという。なかでも日本市場では、クローズドな大規模モデルだけでなく、オープンソースモデルへの関心が高いと指摘。プライバシーやセキュリティへの意識の高まりを背景に、日本国内の安全なデータセンター上でオープンなモデルを使いたいというニーズは強いと見ている。
教育機関や研究者支援も視野に
質疑応答では、今後の対外活動についても質問が及んだ。ベネット氏らは、大学での講演や各種イベント、企業とのパートナーシップを積極的に進めていく考えを表明。
加えて、将来的には日本の優秀な研究者や学生に対し、AIの力を無償で提供するような支援の形も検討していきたいと語った。単なる商用展開にとどまらず、日本の研究開発コミュニティ全体の底上げも視野に入れていることがうかがえる。
転換点を逃さない。“Japan”でAIを強くする
発表の締めくくりでベネット氏は、1990年代末のインターネット勃興期に起業へ踏み出せなかった自身の経験を振り返った。その後悔があったからこそ、次の大きな技術の波が来たときには絶対に逃さないと決めていたという。そして、その「次の波」こそが今のAIだと語った。
日本はこれまで数々の技術革新を生み出してきた国であり、そこにAIというレバレッジを掛け合わせることで、再び大きな革新を起こすことができる。エーアイ・アンドは、その起点として、“Japan発”のグローバルAI基盤企業を目指す。今回のキックオフ発表会は、その意思を強く印象づける場となった。

<Text & Photo:編集部>








