インタビュー
2022年1月18日

「ラグビーはボールを使った最高の遊び」。ラグビー界のレジェンド、元日本代表・伊藤剛臣さんに聞く”ラグビーの楽しみ方” (1/3)

 日本代表チームの決勝トーナメント進出という、歴史的な快挙に日本中が盛り上がった2019年ラグビーW杯。日本の地元開催での活躍に、ラグビーのおもしろさを初めて知ったという人も多いのではないでしょうか。

 今回は、日本ラグビー黎明期から活躍してきたラグビー界のレジェンド・伊藤剛臣(いとう・たけおみ)さんに、ラグビーの魅力と46歳まで現役を続けてきたラグビー人生、そして今後の展望について伺いました。

ラグビーは、ボールを使った最高の遊びじゃないかな

――伊藤さんが考えるラグビーの魅力を教えてください。

ラグビーは、ボールを持って走る、パスする、キックする、集団で押し合う、ボールを奪い合う、掴み合う、まさにボールを使った最高の遊びじゃないかなと思っています。そこにはルールもありますが、僕はそれがラグビーの魅力だと思いますね。

その中で、ラグビーの有名な精神が二つあるんですね。ひとつが「One for all all for one(ワンフォアオールオールフォアワン)」、そして「ノーサイド」の精神。この二つの精神をすごく大事にしているスポーツ、球技であって格闘技なのですが、それもラグビーの魅力ですね。

――「One for all all for one(ワンフォアオールオールフォアワン)」のラグビーとしての意味は何でしょうか?

日本語訳としては「一人はみんなのために、みんなは一人のために」です。野球は9人、サッカーは11人、ラグビーは15人、ラグビーというスポーツはこの人気スポーツの中でもっとも人数が多いんです。フォワード・バックスというポジションに分かれていて、それぞれの役割と特性があります。そういうプレーヤー達が、協力し助け合ってアタックしていく。身長が小さい人から大きい人、体重が軽い人から重い人、足が速い人から遅い人まで、それぞれみんなの特徴を出し合いチームの勝利へ向かっていく。それが「One for all all for one(ワンフォアオールオールフォアワン)」の精神ですね。

体格など関係なく誰でもできるスポーツです。15個もポジションがありますから、走るのが得意な人、当たるのが得意な人、いろいろな個性を出せるスポーツではないかと思います。

――ラグビーボールに関して、なぜあのような形なのでしょうか?

よく知りません(笑)。もともと豚の膀胱を丸めて空気を入れたのが起源らしいです。サッカーとラグビーって同じ起源を持つスポーツみたいなのですが、なぜあの形になったのかというのは、正直わからないです。どこに転がっていくかわからない、人生みたいなものでもありますね(笑)楕円形のボールをコントロールするように選手が頑張るのですが、コントロールしきれないところもおもしろさがあります。

――スピード感であったり、パワーといった迫力であったり、さまざまな魅力がありますね。

ラグビーというスポーツは、きちんと準備をしないとできません。さまざまなスキル、能力が必要となります。試合ではだいたい10kmほど走りますし、その中で肉弾戦のスクラム、ボール争奪戦、ブレイクダウンとありますが、まさに球技と格闘技が混ざったものですから、しっかりしたトレーニングを積まないとプレイはできませんね。

――みんながオフェンスをするし、ディフェンスもする。試合展開が速いイメージです。

そうですね。ラグビーというのは陣取りゲームではあるのですが、基本的につねにボール争奪戦が行われているので、そこでディフェンスではターンオーバーするのを狙うし、はたまた、いつターンオーバーされるかわからない。表裏一体でゲームが進んでいきます。

やろうと思えば何でもできる、気持ちが紳士でないとできないスポーツ

――ラグビーは紳士のスポーツと聞いたことがあるのですが、どういった意味でしょうか。

ラグビーは、イギリスのイングランドから始まって、昔は階級社会の中級以上の人たちがやるようなスポーツだったんですよ。そういうイメージからですね。

海外では、ラグビーを通じて、社会に出てリーダーシップを発揮するの人材を作るのだということも言われています。日本では、昔にスクールウォーズというドラマがあって、不良を更生するみたいなイメージがありますが。基本的にはイギリスの紳士的なスポーツとして、社会に貢献できる人材を輩出するという目的もあったのではないかと思います。

正直言うと紳士がやる野蛮なスポーツでもありますね(笑) 試合の中では、やろうと思えば何でもできるわけですよ。でも戦争じゃないですから。やはりルールがあって、踏み越えちゃいけないラインというのをみんなが守ります。気持ちが紳士でないとできないスポーツでもありますね。

ラグビー憲章といって、ワールドラグビーが提唱している五つの言葉があります。「品位、情熱、結束、規律、尊重」というの五つの言葉を守らないと、ラグビーをやる資格はないと思いますし、それは決まり事としてあります。見た目は野蛮なスポーツに見えますが、そういうものを守ってみんなプレイしていますね。

――ノーサイドという言葉について、教えてください。

ラグビーのおもしろいところで、試合終了の笛が鳴った時点で、敵味方なしというノーサイドの精神というものがあるんですね。これは日本から生まれたという説もあるのですが、そういう精神は世界的にもあります。

これはすばらしいと思います。先ほどまで本当に命をかけて戦ってきた者同士、試合が終わって勝者と敗者が分かれますが、お互いを健闘し合うこの精神にはいろいろと勉強させてもらいましたね。若い頃は、負けたときなかなかノーサイドの精神になれないこともありました。でも試合終了したら「もうノーサイドなんだ」と。日本のラグビーの伝統というか、世界でもそういう精神はありますね。

2019年ラグビーW杯でも、そういうシーンがありましたね。試合が終わった後もチームが整列して、お互いを健闘し合ったじゃないですか。

僕も46歳までプレイさせてもらって、本当に学んだことは、やはり全力を出し切ればそういう精神になれました。やはりラグビーやっている同じ仲間ですから。基本的にはラグビーという大きな仲間なので。

――ラグビーをあまり知らない方は、どういったポイントで観ていけばおもしろいですか?

観るポイントはいっぱいあります。いろいろな体格の人がいますから、女性だったら純粋にタイプの人を探せばいいですし、見方はそれぞれあっていいと思います。

ラグビーというスポーツで観るならば、陣取りゲームでつねにボール争奪戦が行われているので、それを楽しんでもらえればいいと思います。ボールは前に投げちゃいけないぐらいの知識でいいです。タックルされたらボールを離さなければいけない。スクラムとかセットプレーもありますが、あれも基本的にはボール争奪戦なので、ボールを持って走る、パスする、キックする、これを単純に観て楽しんでください。仲間で助け合ってボールをつないで得点する姿や、ディフェンスでは仲間とチームのためにみんな頭からタックルしますから、その攻防を楽しんでほしいですね。

僕なんか46歳まで現役でやれましたけど、ラグビーのルールは全部知りませんから(笑)ルールはレフリーに任せればいいんです。スクラムやラインアウト、ジャッカル、オフサイドなど、いろいろなルールがありますが、そんなことはレフリーに任せればいいんです。とにかくラグビーの攻防を楽しんでもらいたいですね。これはもうずっと言い続けています。

――ちなみに、ラグビーは生で観たほうがおもしろいですか?

そうですね、俯瞰して全体的に観ることができますし、生の音なんかも聞こえてきます。今はエンタテイメントになってきて、試合前やハーフタイムとかもありますので、より楽しめると思います。

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