インタビュー
2018年2月2日

勉強もスポーツも高めていきたい。その信念が大学受験やアメリカ公認会計士資格取得につながった。陸上・横田真人(後編)│子どもの頃こんな習い事してました #8 (3/3)

確かに、意識したことはありませんでしたが、そうかもしれません。アスリートは、俯瞰することがリミッターになることがあるんですよ。突き抜けられない。僕の場合、「行ける、行ける」という自分と、客観的に見ている自分がいたので、それが強さにもなり、弱さにもなってしまったと思う。ロンドン五輪出場後、記録が伸びず、客観的に見てあと4年でメダルは……という葛藤があって、高校のころのように本気で「メダルを獲る」と言えたかというと言えなかった。それが引退の理由のひとつだと思っています。

いまコーチとして、突き抜けることができない選手がいたら、それを補ってあげられる存在になりたい。壁にぶち当たったら、コーチも一緒に越えようとしてあげたい。スポーツ界では、「自立していることがいい」とよく言われます。自分でトレーニングできること、なんでも一人でできることが自立している、と。僕はそうは思わない。自分にあったコーチを、自分で責任を持って選ぶことが選手の自立であって、そこから先は一人では不可能。

子どもと親や先生の関係も同様。子どもが「こうしたい」と言ったときに、「だめ」「無理」と言わず、「やりたいならがんばりなさい。だめだったら帰ってくればいい」と、戻る場所だけ確保しておいてあげる。そうすれば子どもはいろいろなチャレンジができると思います。

――将来、もしお子さんが生まれたらどのような習い事をさせたいですか。

水泳ですね。イケメンでも泳げなかったらモテなさそうですし(笑)。極論として走ることは習わなくてもできますが、泳ぎは習わないとできない。万一のときに命を落とすかもしれないですし。あとは、本人が興味を持ったものを習えばいい。いろいろなことに触れる機会を提供してあげたいと思います。

――最後に、今後の展望を教えてください。

選手たちと、自分が見られなかった“その先の世界”を一緒に見たい。そして、アスリートは誰もが引退しなければならないので、そのときにおもしろい人になって、新しいスポーツ界をつくる人になってほしい。コーチは選手の人生にダイレクトに関わる重い職業。競技で伸びれば人生も変わる。僕のところを巣立っていった選手が、引退後も納得できる人生を送ってもらえるようにサポートしていきたいですね。

▼前編はこちら

野球で悪いことをするたび走らされていたので、実は走ることが嫌いだったんです。陸上・横田真人(前編)【子どもの頃こんな習い事してました #8】 | 子育て×スポーツ『MELOS』

[プロフィール]
横田真人(よこた・まさと)
1987年生まれ。東京都出身。2006年大学1年時に日本選手権初優勝(以降計6度優勝)。2009年男子800メートル1分46秒16の日本記録を達成する。2010年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、富士通に入社。2012年ロンドン五輪男子800メートルで1964年の東京オリンピック以来48年ぶりの日本代表に。2013年拠点をアメリカ・ロサンゼルスに移し、2年間トレーニングを積む。2015年米国公認会計士試験に合格。2016年現役を引退、2017年富士通を退社し、NIKE TOKYO TCのヘッドコーチに就任。

<Text:安楽由紀子/Edit:丸山美紀(アート・サプライ)/Photo:小島マサヒロ>

1 2 3