インタビュー
2019年3月2日

杉本哲太『いだてん』インタビュー。「“怒る、怒鳴る”が永井道明さんの愛情表現。不器用な人ですから」

 1964年に東京オリンピックが開催されるまでを描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」。主演の中村勘九郎さんらの脇を固める俳優陣の演技も見応えたっぷりの大河ドラマですが、都内では先日、東京高師教授で学生寮の舎監の永井道明を演じる杉本哲太さんが自身の役どころについて語ってくれました。ドラマの中では、すぐに怒る教授、そして肋木(ろくぼく)の人としても認知されている永井道明。杉本さんは、どんな想いで演じているのでしょうか。

永井道明とはどんな人?

――永井道明は、どんな役柄だと感じていますか。

ほとんど怒鳴っているか、怒っているか。テンション高く、常に大きな声を出している役ですね(笑)。永井と言えば、衣装は黒い学生服。学ランを常日頃から気に入って着ているんです。

厳しい舎監ではありますが、実際に寮で撮られた当時の写真を見ても、生徒たちと同じ学ランを着て、満面の笑みで学生らと一緒に映っている。そこからも、生徒への愛が感じられます。子どもたちと同じ目線に立つために学ランを着ていたのかも。どこか父親のような想いがあったと感じています。

その裏返しで、怒る、怒鳴る。あれが永井さんのひとつの愛情表現だったんですね。不器用な人ですから。親身だからこそ怒る。この人、いつもプンプンしているなと、演じていて自分でも思います(笑)。宮藤さんの脚本にも、ここでトーンが一段上がる、さらに一段上がる、といったように指示が入っています。

――羽田の予選会では「歩いても休んでも良いから、生きて帰ってくれ」と呼びかける場面もありました。

自分で見て、この人、良い人だなぁと思いました(笑)。

――可児徳(かにいさお、演:古舘寛治)に絡むシーンも増えています。

あれは2018年の6月頃だったか、スタジオで撮影待ちのときに古舘さんからプレッシャーをかけられましてね。『哲太さん、明日は第8回のシーンがありますね。楽しみだなぁ。あそこはアドリブでやれたら良いなぁ』なんて言うんです。2人で酔っ払って、くだを巻くシーンについて、楽しくおもしろく膨らませてやっていこうよ、ということでした。実際やってみて楽しかったですね。

スポーツ反対派だった?

――はじめはスポーツを楽しむことに反対だった永井道明の気持ちが、だんだん変化していきます。その気持ちの推移について思うことは。

確かに永井さんは反対していました。自分は海外におけるスポーツの現場を見てきて、いまの日本人の体力、技術では競争できない、50~100年は早いと思った。ロンドン・オリンピックも生で見ていて、それも踏まえた上での考えだった。

気持ちが変わったきっかけですが、やはり金栗四三の登場が影響しているのでしょう。羽田の予選会のタイムを見て、これはオリンピックに参加できるのではないかと確信した。可能性はあると。

――レース前は「死人が出るぞ」と心配していましたね。

日本では、まだマラソンを走る上での身体の鍛え方などが確立されていませんでした。実際のところ、ストックホルム・オリンピックでは死者も出ます。永井は、マラソンの危険性を充分に認識しています。大げさな言葉ではなく、心からの言葉だった。本人としては、大真面目にまともなことを言っていたわけです。

印象に残っているシーンは?

――永井の目には、金栗四三はどう映っているのでしょう?

表向きはそんな素振りは見せませんが、けっこう、心の中ではかわいがっていますよね。愛情ゆえの厳しさを見せたり。四三を見出したことは、永井の中でも大きかったと思うんです。

――印象に残っているシーンは? 中村勘九郎さんはどんな人?

羽田の予選会は放送回を見ても感動しました。勘九郎さんが、隈取で必死の形相で競技場に現れる。ほかにもたくさんありますが、あのシーンは忘れられない。その表情に鳥肌が立ちました。

ボクはMr.肋木ですが、中村勘九郎さんはMr.ストイックマン。筋トレしてから撮影、撮影が終わってからトレーニングジムと、身体をつくって維持することに余念がないんです。もう、どこから見ても360度、四三になっている。役作りというか、もう心が乗り移っているんですね。四三さんなのか、勘九郎さんなのか分からない。これはすごいこと、相当なことだと思います。

――杉本さんも身体を鍛えている?

身体が硬いので、柔軟、ストレッチをやっていました。でも肋木に関しては、指導はしていますが、実際に生徒たちに見せるシーンはそんなにない。ところがある日、食堂のシーンで監督に「哲太さん、ここは肋木に足でもかけながら、体幹を鍛えながら話してください」といきなり言われたんです。肋木というものは、地味に見えて非常に難しい。自重で手が痛くなるので30秒もぶら下がれません。足も上げたりすると、自分の体重が乗っかってきて本当にきつくて。事前に言われていれば、それなりの準備もできたんですが……、なんとかやりましたけど(苦笑)。

永井役は、どんなイメージで演じている?

――杉本さんが2020年の東京オリンピックで、生観戦したい競技は?

そうですね、いくつかありますが、今回やはり作品に参加しているので、マラソンは是非とも見たいですね。

――永井を演じる上でイメージしている人物像は? 実際に学校にいた怖い先生?

いまの若い人が見たら、こんな怖い先生は学校にいないだろう、と思うかもしれませんね。でもボクが中高生のときって、体育の先生は基本的に怖かった。大きな声で怒られたし、手が上がることもあった。それに対して、親が文句を言うような時代ではありませんでした。当時の厳しい、怖い先生はモデルになっていますね。あとは、うちの父親が体育会系だった。レスリング部のコーチをしていて、厳しいスパルタのおやじだったんです。役のイメージになるような、怖い大人がその辺にゴロゴロいた時代でした(笑)。

嘉納治五郎の魅力は?

――羽田の予選会以外で、印象に残っているシーンがあれば。

多くのシーンが撮影された校長室ですかね。嘉納治五郎さん、可児さんとのアンサンブルが楽しかった。永井と同様、嘉納さんもでかい声をはっているシーンが多い。

――嘉納治五郎の魅力は?

永井は剛の部分を前面に出しますが、嘉納治五郎さんは、それに加えて柔らかさを持っている。懐が深いと言いますか、奥行きを感じます。

――杉本さんは左利きですが、撮影では右利きに直していると聞きました。

そうなんです。困ったのは(今後登場する)テニスのシーン。その撮影シーンで、左でやらせてもらえませんか、と監督に小声で交渉したら駄目ですと。CGでなんとかなりませんか、左手でラケットを振って、映像の左右を反転するとか。でも駄目ですと。泣く泣く、右手で打ちました(笑)。

ボクは書くのも食べるのも全部が左手なんです。まったく右手が使えない。前に「龍馬伝」で、龍馬のお兄さん役だった。食卓のシーンが多かったので、小豆を買ってきて家でつまむ地味な練習をしていました。ところが食べるシーンで出てくるものは、魚が多い。練習した動きとは違う、開く使い方が多くて練習が役に立たなかった(笑)。

「おんな城主 直虎」でも右利きで撮影しました。基本的に時代劇では、左利きはあり得ないんですよね、刀を指す方向がありますし、左利きでやると殺陣師の方にも苦労をさせちゃう。いだてんでは、柔道のシーンもあるんですが、そちらは右利きっぽくできました。

現代の日本人像とは違う?

――エネルギーのある人たちの物語。現代の日本人像とは違う?

若い人が見たら、うわ暑苦しい、なんでこんなすぐに大きな声を出すの、なにこれみたいに思うかもしれない。異質ですよね。でも当時は、先輩、先生に熱い人が多かった。皆さん主張を持っていたし、ハッキリお互い言い合っていた。平成が終わりますけど、KYという言葉に代表されるように、いまは空気を読む風潮がある。自分の思い、主張があってもかっこ悪いので簡単には表に出さない。みんなに合わせるという感覚ですね。良いか悪いか分かりませんし、大きな声を出せば良いということではないけど、一昔前の人たちには熱さ、エネルギーというものがありました。ドラマを見て、何か感じることがあったら良いなと思います。

――好きな登場人物は?

みんな個性的で魅力的。キャラが立っています。可児さんとか、好きですね(笑)。あの時代でも中間管理職的な。あっちゴロゴロ、こっちゴロゴロする。でも密かに優勝カップをつくって用意していたり、熱いところもあってね。

[番組情報]
『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』
《放送予定》
全47回 毎週日曜[総合]20時/[BSプレミアム]18時/[BS4K]9時
《作(脚本)》
宮藤官九郎
《音楽》
大友良英
《題字》
横尾忠則
《噺》
ビートたけし(古今亭志ん生)
《出演(キャスト)》
中村勘九郎(金栗四三)、阿部サダヲ(田畑政治)/綾瀬はるか(春野スヤ)、生田斗真(三島弥彦)、杉咲花(シマ)/森山未來(美濃部孝蔵)、神木隆之介(五りん)、橋本愛(小梅)/杉本哲太(永井道明)、竹野内豊(大森兵蔵)、大竹しのぶ(池部幾江)、役所広司(嘉納治五郎)
《以下五十音順》
荒川良々(今松)、池波志乃(おりん)、井上肇(内田公使)、岩松了(岸清一)、柄本時生(万朝)、大方斐紗子(金栗スマ)、小澤征悦(三島弥太郎)、勝地涼(美川秀信)、川栄李奈(知恵)、小泉今日子(美津子)、近藤公園(中沢臨川)、佐戸井けん太(春野先生)、シャーロット・ケイト・フォックス(大森安仁子)、白石加代子(三島和歌子)、髙橋洋(池部重行)、田口トモロヲ(金栗信彦)、武井壮(押川春浪)、永島敏行(武田千代三郎)、中村獅童(金栗実次)、永山絢斗(野口源三郎)、根岸季衣(田畑うら)、ピエール瀧(黒坂辛作)、平泉成(大隈重信)、古舘寛治(可児徳)、ベンガル(田島錦治)、星野源(平沢和重)、松尾スズキ(橘家圓喬)、松坂桃李(岩田幸彰)、松重豊(東龍太郎)、満島真之介(吉岡信敬)、峯田和伸(清さん)、宮崎美子(金栗シエ)、山本美月(本庄)ほか
《制作統括》
訓覇圭、清水拓哉
《演出》
井上剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
《公式サイト》
https://www.nhk.or.jp/idaten

<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>