インタビュー
2019年6月30日

阿部サダヲ『いだてん』ロングインタビュー「暗くなりがちな時代だからこそ、スポーツを通して明るくなってほしい」 (4/4)

日本泳法は相当練習した

―― 泳ぐシーンでは、古来の日本泳法に挑戦しています。

ロス・オリンピックでは、エキシビジョンで日本泳法を披露するシーンがあります。これも治五郎さんが「日本泳法でやれば良いじゃない」と勝手に言い出したことなんですが、撮影はけっこう大変でした。時期は4月頭で、まだ寒かった。あの時代のことだから屋外で、しかも夜にふんどし一丁で。寒さがこたえました。シンクロや水球のような立ち泳ぎをしながら、文字を書くところを見せるんです。それが難しくて。慣れていなかったので、みんなで相当、練習しましたね。水深が3mくらいあったのも怖かった。カメラは長回しで、いつ終わるのか分からない。ずっと撮っている。それが終わったあと、外国の選手が飛び込んでくるんですが、このアドリブがひどい。「オーイ」とか言って引っ張ったりしてくる。だから小さい声で「やめろよ」なんて言って抵抗しています。録音には入っていないと思いますが(笑)。

―― 田畑さんは日本水泳連盟を立ち上げます。前半に出てきた天狗倶楽部のような盛り上がりになる?

アスリートとしての旬は過ぎている人たちが中心になって日本水泳連盟を立ち上げ、若い子たちも入ってきて。その感じが、もう選手団になっているんですね。実際の現場でも、芝居をしていないところで斎藤工さん(競泳選手、高石勝男 役)、大東駿介さん(競泳選手、鶴田義行 役)らは良い感じにさらに若い子たちと接してくれています。すごく助かりますね。競技のシーンを撮影していても、「次はこうだから」と説明してくれる斎藤さんがいて。その良い雰囲気が、そのまま映像にも映っているんじゃないかなと思います。

若い子たちが良いチームワークで、それを見ていたら、急に自分が歳をとったように感じました。きついシーンでも、楽しそうにやっていて。とにかく現場が寒かったんですね。そこでホットジェルという、ダイビングとかスキューバに使うようなものを身体に塗って臨んだ。そうしたら塗りすぎて、ちょっとした火傷をしちゃっている人もいましたね。

ロス・オリンピックの最後の、エキシビジョンのシーンは青春でしたね。僕たちは寒くて早くにあがっちゃったんですが、若い子たちはプールの中で追いかけっこしているんです。ギャーギャー言って、写真を撮ったり、学生みたいなノリで。見ていて微笑ましかった。今後も、つながっていくんじゃないかな。よく聞くじゃないですか、『新選組!』(2004年の大河ドラマ第43作)をやった人たちが、いまだに集まって忘年会をやっているとかいう話。

……自分も、そこに入れないのかな(笑)。斎藤さん、大東さんは撮影が終わった後、みんなで飲みに行ってたんですって。そういう話を、2日後くらいに聞くんですよね(笑)。呼ばれていないし。でも皆川猿時さん(競泳選手、松沢一鶴 役)も行ってたらしいんですよ。撮影があるからって、気を遣ってくれたんでしょうけどね。……行けたんですけどね(笑)。

田畑の妻を演じる麻生久美子さんとの共演シーン

―― 妻役の麻生久美子さん(酒井菊枝 役)の印象と、共演シーンのエピソードは。

まだ1日しか撮っていなくて、ガッツリ撮影するのはこれからです。家庭のシーンでは、けっこうしゃべってくれます。それまでは、田畑が気が付かないくらい黙っている人。あの人って、いるだけで優しい気持ちになれるというか、そんな存在感があるじゃないですか。菊枝さんは田畑が一所懸命におもしろいことを言っても笑ってくれないけれど、でも遅くまで残ってくれる、僕にご飯をつくってくれる、そんな役どころなんです。

その回は大根仁さんが監督だったんですが、笑わせてくれって言うんですよ。「でも麻生さんは笑わないで」っていう指示で。そのときはアドリブでしたね。笑っちゃいけないシーンなので使われないと思うんですが、笑うまでやってくれって指示だったので、実際に麻生さんが笑うまで頑張った。でも使われないんでしょう? あのシーン、なんで撮ったのかな(笑)。でも、こういうことを言えば麻生さんは笑ってくれるんだ、というのは分かりました。

―― 夫婦の関係性は。

田畑家のシーンはこれからですが、とても良い奥さん。あまり会話はないんですが、田畑のことを理解しています。気が付く女性です。やっぱり昔の日本の女性と言われるような人だと思うんです。麻生さんとは共通の友人も多いので、楽しい話をたくさんしています。こんなガッツリ共演するのは初めてでしたね。

<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>

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