インタビュー
2019年7月9日

菅原小春×大根仁『いだてん』インタビュー。日本女子スポーツのパイオニア・人見絹枝をいかにして演じたのか (4/5)

――今回のアムステルダム・オリンピックはスタジオで収録したのでしょうか。

[大根]スタジアムの映像を、プロジェクションマッピングじゃないですけど背景に流して、地面にも30mくらいかな、陸上のコースを再現して。色んなアングルで、手を変え品を変えして、さもトラックを走っているように見せました。

[菅原]撮影はストップ・アンド・ゴーの繰り返しなので、身体はビックリしていたようですが、私は「こういう風に撮影していくんだ」と楽しみしかないので。「へー! え、次これ? その次、これ?」みたいな(笑)。ランニングマシーンとかすごい楽しかった!

――阿部サダヲさんとの絡みは?

[菅原]毎回、顔を合わせるたびに「バケモノ」って言われる役柄なので、「本当に傷ついています」って本人に言いました(笑)。本当に傷つきますもん(笑)。

――お菓子の「シベリア」を食べるシーンがありました。

[大根]宮藤さんの脚本にもあったんです。おそらくシベリア鉄道とかけていると思うんですが、それを聞くのも野暮なので、意図を汲み取って。ただ、シベリアは意外と大事な小道具になる気がしていて。台本では、最初のシーンしか出てこなかったのかな、もう少し使いたいなと思って、最後のシーンでも「ほらシベリアを食べなさい」と言わせた。そして最後に大口を開けて食べる。大口のところは、僕は演出していないんですが(笑)。僕は、この回は何度見ても泣けちゃうんですが、しまいにはシベリアを食べている顔で泣くっていう。ああいうショットは、なかなか撮れないですね。今回は菅原さんの色んな素敵な表情を撮れましたが、最後、シベリアを食べているときにピアノの音が聞こえてきて、はっと気付く顔とか。演技を超えた、何かがあったなという気がしますね。

[菅原]ただ、食べていただけですよ(笑)。ただ、甘かっただけです。

――菅原さんは、俳優が本職ではありません。だからこその彼女の魅力があれば。

[大根]菅原さんに関しては、自分でも撮ったことのない、見たことのない芝居ばかりでした。これは少し話が逸れてしまうんですが、『いだてん』は、脚本は僕じゃないし、ましてアスリートを題材にした作品なのでキャラクターに感情移入することはないだろうな、と思っていたんです。でも今回、人見さんの映像を編集していて気が付いたことがあって。これまで女子の出場が許されなかったオリンピックに日本人女性で初めて出場した人見さんが「私がここで何か記録を残さないと、国に帰れない。後に続く人のためにも」と話すシーンがあります。自分も初めて大河ドラマに外部から演出として参加しているわけで、人見さんほどの大義を背負っているわけではないし、あんまり言わないようにしているんですけど、大河ドラマという大舞台に対して『絶対に爪痕を残してやる。自分が失敗したら、これから外部から演出が呼ばれなくなるかもしれない』という気持ちは抱いているわけで。そういう意味において『これは自分の話かもしれないな』と思えたんです。

――寺島しのぶさんと、最後に2人で語らうシーンが印象的でした。

[大根]台本を読んだ時点で、どういった照明で、トーンで撮ろうかというのは一通り考えるんです。いろんな要素がたくさん入った今回の物語ですが、人見さんに関してはストイックな話。でも唯一、二階堂トクヨ先生とのシーンだけは温かく柔らかくしようと思いました。そこで、ああいった映像のトーン、照明のタッチになったんだと思います。撮る前にスタッフには、このシーンは温かくしてくれ、と伝えていて。

寺島さんの力が大きかったと思います。演出でカバーしきれないところを、そして菅原さんも大きく包み込むような、寺島さんの芝居がありました。

――シマさんが手紙で「中傷がいつかは称賛に変わるでしょう」と伝えていました。

[菅原]シマさんという人に出会えてなかったら、人見さんはずっと自分の魂を生かせないでいたと思うんです。でも彼女に出会い、金栗さんにも出会った。これまではイマジネーションの世界にいた人が、人に会うたびに扉が開いていったと思えて。未来がひとつひとつ開いていった。「この魂を、お外に使っていきなさい、飛び出してきなさい」と。出会いがなかったら、自分の世界だけだった。仲間がいて、最強の状態でみんなで持って帰ってこれた銀メダルだった。開拓した人でしたね。私も開拓したい人です。

――終盤に、学校の生徒とダンスを踊るシーンがありました。菅原さんのダンサーとしての経験が演技に生かされている部分があれば。

[大根]ああ、女学校のダンスですね。菅原さんは見て3秒くらいで覚えてましたね(笑)。

[菅原]リハーサルのときに「1回、これキレッキレで踊ってみたい」とお願いして、本気でやったんですよ。そうしたら、みんな爆笑してしまって。やっぱこれ違うやつなんだなと思って、おしとやかに気持ちよく、晴れやかに踊りました(笑)。

[大根]女学生役の子たちは1日かけて、たっぷり稽古して本番の状態にしました。使った部分は短かったけれど、本当はフルコーラスで踊っていて。菅原さんは現場に到着して、まぁ3秒は大げさですが、1回見て覚えていたよねぇ。さすがだなって。

[菅原]ほんとに綺麗な、当時の綺麗なダンスだなと思いました。そこは一応。大丈夫です(笑)。

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