2017年10月6日

トレーニング後の「セルフケア」は必須!自分でできるストレッチ&マッサージ方法┃サブスリーランナー奥山智也(後編)

 正しいランニングフォームを身に付けるために、トレーニングの1つとして取り組みたいコンディショニング。前回はトレーナーとして幅広く活躍されている奥山智也さんに、その意味などについて詳しくお話を伺いました。

 しかし、いくらランニングフォームが改善されても、日々過酷なトレーニングを重ねれば疲労が蓄積してしまいます。結果、本番で思うようなパフォーマンスが発揮できなかったり、怪我に繋がったりする可能性もあるでしょう。そこで今回は、引き続き奥山さんから『セルフケア』についてお話を伺います。具体的な実践手法を交えながら、その重要性についてお伝えしましょう。


セルフケアの重要性は健康だと分からない

 そもそも、なぜセルフケアが大切なのか。なんとなくイメージできても、自分自身に置き換えて重要性を感じている方は、意外と少ないかもしれません。

「実際、いくらセルフケアが重要といっても、健康な人にはその重要性が分からないものです。走っていてどこも痛みや違和感がなければ、実感できませんから。つまり、痛みを味わってみないと分からないものなんですよね」

 確かに快適にランニングできていれば、わざわざ時間をかけてケアしようとは思わないでしょう。だからこそ、痛みがない状態では、走った後のケアを疎かにしがち。もちろんセルフケアによって怪我を予防することは大切なもの。しかしまず必要なのは、いざ痛みが出た際にどうするか、その意識と対応のようです。

「まず痛みが出たら、なぜなのか原因を考えること。そして、継続的にセルフケアへ取り組み、また同じ痛みが出ないようにすることです。とはいえ、自分では意外と分からないかもしれません。例えば腿が硬くなっているとして、触ってもそれが堅いのかどうか、やはり専門家でなければ判断できないことは多いでしょう。筋肉が硬いなら、しっかりほぐしてあげる。分からなければ、ぜひ専門家のもとを訪れてください。」

 おそらく、身体(=筋肉)が柔らかいほど、怪我を起こしにくいと思われている方は多いでしょう。しかし奥山さんによれば、必ずしも柔らかいことが最良ではないそうです。実際、ダンサーなど驚くほど柔軟な方が、たくさん怪我に悩まされているということも。これは柔らかくなりすぎることで、正常可動域を超えてしまっている状態だと言います。

「一般には、やはり筋肉が硬すぎる方は多いですね。しかしその状態で無理に可動域を広げるのはいけません。出来るはず……、そういうお追い込みが無理な動きとなって、怪我に繋がるケースはたくさんあります。例えば過去に運動経験のある方が、自分の中にあるイメージに従って動くと、思いのほか身体が動かずに怪我をする。イメージって怖いんです」

 確かに私も、過去の競技経験から「これくらい走れるだろう」とイメージしてランニングに出かけたところ、ものの数kmでヘトヘトとなったことがあります。また、スピードトレーニング時にいきなりハイペースで駆け出し、太腿を痛めたことを思い出しました。痛みに学び、原因を理解して改善する。そのためには、思い込みやイメージではなく、客観的な視点が必要なのでしょう。


効果を最大化するストレッチ&マッサージ方法

 セルフケアといえば、ストレッチやマッサージが思い浮かぶのではないでしょうか。この2つは、まさに誰もが身近に取り組めるケア方法。運動によって縮んだ筋繊維をストレッチやマッサージで元に戻してあげると、疲労回復も促進されるようです。ここからは、具体的なセルフケアの実践について、ストレッチとマッサージを軸に伺っていきましょう。

「運動すると、人の筋繊維は破壊されます。そのまま何をしなければ、壊れた状態のまま筋繊維がくっついてしまうんです。そのため、ストレッチで筋繊維を伸ばし、正常な状態でくっつけることが大切になります。ちゃんとキレイな配列に戻さないと、筋肉はどんどん硬くなってしまうんです」

 ストレッチは筋肉に対しアプローチするもの。これに対してマッサージは、筋肉に加えて筋膜にもアプローチするケア方法だと言います。ではいったい、どのような順番で行えばよいのでしょうか。

「まずは、トリガーポイント(硬くなった部分)をほぐします。手技によるマッサージはもちろん、テニスボールなどを当てて押すのもオススメです。そのうえでストレッチすれば、より効果が高められるでしょう。なぜなら、ほぐされず硬くなったままの状態では、ストレッチしても筋繊維が伸びてくれないから。ニュートラルに戻すには、まずストレッチで状態にほぐすことが先決です」

 このとき大切なのが、足の向きなどに気を付けること。例えば脹脛を伸ばす際、後ろの足が外を向いてしまっているケースが少なくありません。すると伸ばすべき筋肉にアプローチできず、本来の効果が得られないようです。

「ストレッチって、ちゃんとできていない人が意外と多いんですよ。ただ、なんとなくのイメージ、あるいは本などを真似ていても、正しく行えなければ意味がありません。身体が自然に動く状態に戻すには、そうした細かな点にも気を付けることが大切です。」

 こうしたセルフケアは、できれば毎日行うのが理想とのこと。ストレッチまで行ってトレーニングが終了という意識で取り組むことが必要なのでしょう。

「筋肉が硬くなると、骨や関節などのアライメントにも影響が及びます。つまり、骨などの位置がずれてしまうんですね。すると走った際に着地位置1つすら変えてしまい、結果、痛みを引き起こす原因にもなります。」

 トレーニング後は、しっかりセルフケアによって筋肉をリセットしてあげる。だからこそ、常に高いパフォーマンスで走ることができ、トレーニングの効果も高まるのではないでしょうか。走ったらシャワーを浴びて終わり……ではなく、ぜひトレーニングの仕上げにセルフケアを取り入れていきたいものです。


すぐに取り入れたい3つのストレッチ実践

 最後に奥山さんから、特に重視すべき部位のストレッチを3つ教えてもらいました。いずれもわずかな時間、少しのスペースがあれば行えますので、実践してみてください。

<脹脛>

 段差を利用し、後ろ足を伸ばします。階段など無い場合には、本を積み上げるといった方法でも同じ環境が作れるでしょう。このとき、両足のつま先がしっかり前を向いていることを確認してください。


<ハムストリングス>

 少し高い位置に片足踵を乗せて、身体を倒し、足先を手で持ちます。できるだけ膝を曲げないようにして、やはり両足のつま先は前を向けます。


<お尻>

 椅子に座った状態で、片足首を反対足の前もも上に乗せます。膝を手で真っ直ぐな位置まで持ち上げたまま、上体をゆっくり倒しましょう。このとき、背筋をしっかり伸ばすことが大切です。

 コンディショニング、そしてセルフケアについて、専門家の奥山さんからお話を伺ってきました。その重要性は、サブ3というご自身の実績が物語っています。ポイントレースで結果を出せるよう、今日からでも実践してみてください。

[プロフィール]
奥山智也 (おくやま・ともや)
1981年生まれ、山形県出身。大学卒業後、専門学校で学び柔道整復師の資格を取得。トレーナーやコーチ、講師など多方面で活躍する。高校時代から陸上競技をはじめ、5000m競歩で全国高校選手権12位の実績。また、フルマラソンではサブ3を持つ
【HP】https://last-spurt-run.jimdo.com/

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com

<Text&Photo:三河賢文>