ランニングパフォーマンスを上げる「コンディショニング」の効果とは?┃サブスリーランナー奥山智也(前編)
まもなくマラソン大会のシーズンに突入します。初完走から記録向上まで、皆さんそれぞれに目標を持ち、トレーニングに取り組んできたことでしょう。しかし、いざ大会本番というタイミングで、怪我に悩まされるランナーが少なくありません。常に怪我なく走り続ける、あるいは高いパフォーマンスを発揮するには、“コンディショニング”が大切です。
そこで今回は、自らもサブスリーランナーであり、柔道整復師等の資格を持つ奥山智也さんにお話を伺いました。コンディショニングの意味や重要性、そしてストレッチやマッサージなどのセルフケアについて、2回に分けてお届けします。まずは『コンディショニング』について、理解を深めていきましょう。
日常生活から起こる崩れ・歪みを整える
コンディショニングと聞くと、おそらくマッサージ等のケアを思い浮かべる方が多いでしょう。確かにケアも大切なコンディショニングの一部。しかし奥山さんによれば、もっと広く考える必要があると言います。
「コンディショニングとは、簡単に言えば身体を整えてリセットさせること。その意味では、ケアもその一部として含まれます。しかし実のところ、コンディショニングにはトレーニングの要素もあるんです」
市民ランナーは、当然ながらアスリートではありません。走る以外にも、仕事や家事など日々の生活が身体にさまざまな影響を与えます。すると、知らないうちに姿勢が崩れたり、骨盤が後傾したりといったことが起きるとのこと。そのため、単純にトレーニング後のケアだけでは、改善できないさまざまな問題があるようです。
「日常生活で崩れた姿勢、あるいは骨盤の歪みなどは、そのままランニングフォームにもつながってしまいます。しかしランニング中に改善させようと思っても、なかなか難しいんですよね。そのため、日々のライフスタイルから変えていくことが求められます」
つまりコンディショニングによって姿勢改善や歪み解消などに取り組むことで、結果的にランニングフォームも改善されるということ。確かにコンディショニングは、トレーニングの一部という位置付けで考えるのが適当と言えるでしょう。
トレーニングで意識化し、無意識に行えるようになる
それでは、具体的にどのような方法で改善していけば良いのでしょうか。奥山さんによれば、“意識”と“無意識”がポイントとなるようです。
「ランニングは、無意識に走れることが理想です。つまり、あれこれ考えず走ることだけに集中できる状態ですね。そのため、まずはトレーニングで姿勢や歪み、あるいはクセなどを意識化していきます。そして積み重ねにより、正しい姿勢や動きを無意識に行えるようにするのです」
意識的に改善することで、無意識に行えるようになる。例えば疲労困憊で走っていると、自分の姿勢や動きにはなかなか意識が向けられないでしょう。しかし静止した状態であれば、隅々まで意識することができます。
「大切なことは、まず筋肉を正しい長さに戻すこと。そして同様に、骨の位置も正しく戻してあげることです。よくコンディショニングとして考えられるセルフケアなどは、あくまで走った後に行い、身体をニュートラルにするための手段。まずは根本から解決してあげることが重要です」
奥山さんのもとを訪れるのは、主に40〜50代が中心。その中で特に多いのが、背中が丸くなっている方だと言います。やはりパソコンを用いたデスクワーク、あるいはスマートフォンを見つめるといった姿勢が影響しているのかもしれません。
「コンディショニングを考えるとき、最初は姿勢改善から取り組むのがオススメです。私の場合、まずは立位の姿勢を撮影・確認したうえで、スクワットなど動作をチェックしています。スクワットのように1つの基本動作ができていないと、ランニングで正しく走ることなんかできませんからね」
そのほか、例えば男性は膝が外に開いてしまう方が多いのに対し、女性は逆に内股な方が多いとのこと。いずれも走った際に一部だけ集中してストレスが掛かるため、腸脛靭帯炎などを起こしやすい状態と言えるでしょう。だからといって、ただ膝の向きを意識して変えれば良いというわけではないようです。
自分を客観視できてこそ根本的な改善に繋がる
同じ状態でも改善策は異なる。その理由は、その状態を引き起こす原因が複数あり、それによって改善策がまったく違うためだと言います。
「見た目には同じ状態でも、根本的な改善策は人によって違います。例えば腸脛靭帯炎。足首がオーバープロネーションになっているなら、シューズを変えたりインソールを用いたりすることで効果が期待できるでしょう。しかし股関節に原因があるなら、やるべきことは大きく異なります。特にお尻の筋肉を使えていないランナーは多く、これが股関節の歪みに繋がっていることも。それならシューズ等の問題ではなく、エクササイズによってお尻の筋肉を積極的に使っていくという方法が考えられるでしょう」
こうした原因・改善策は、外から見なければ分からないもの。しかし、自分のランニングフォームを自分で客観視する機会はほとんどないはず。するとイメージのみでトレーニングすることとなり、本人は“やっているつもり”でも、実際のところまったく改善できていないことが多いと言います。だからこそ、奥山さんのようなプロの目で見てもらい、根本から改善に取り組むことが必要なのでしょう。
「最近はウェアラブルデバイスをはじめ、ランニングに関するさまざまなデータを取得できるようになりました。これも客観視するという意味では、1つの方法と言えます。でも残念ながら、ただデータを見たところで原因や改善策は出てきません。データを活用するなら、今度はそれを読み解く知識が求められるんです」
意識的なコンディショニングによって正しいランニングフォームを手に入れるには、まず自分を知ること。しかし正しく課題と原因を分析し、改善するための方法を求めるのであれば、やはりプロの目が欠かせません。コンディショニングを行えば、より速く、楽に、長く走るための身体づくりができるということになります。そう考えれば、コンディショニングは走る以前に取り入れるべきトレーニングと言えるのかもしれません。
まず意識から変えていくことが大切
多くのランナーが悩まされる、さまざまな怪我。怪我の多くは治療によって治すことができますが、同じ走り方を続けていれば、いつまでも同じ怪我を繰り返してしまうでしょう。それは、果たして本当の解決といえるのか。やはり疑問が残ります。
「私は以前、接骨院に勤務していたことがあります。もちろん施術によって治療を行うわけですが、やはり同じ症状を繰り返す方が多いんですよね。もっとも大切なのは、自分自身で治そうという意識があるか否かではないでしょうか。ただ誰かに治療してもらうのではなく、自らそれが起きないよう治そうという意識を持てるかどうか。そもそも姿勢や歪みなどが原因で引き起こされる怪我なら、それを改善すれば怪我は起きなくなります」
怪我は走っていれば避けられない、怪我すれば治療で治すという考えを持っている方は多いでしょう。しかし正しいランニングフォームを身につければ、そもそも怪我自体が起こりにくくなるのです。
では正しいランニングフォームを獲得した後、より高いパフォーマンスを目指すにはどうすれば良いのか。次回はそのための方法として、引き続き奥山さんから『セルフケア』について伺います。
▼後編はこちら
トレーニング後の「セルフケア」は必須!自分でできるストレッチ&マッサージ方法┃サブスリーランナー奥山智也(後編) | トレーニング×スポーツ『MELOS』
[プロフィール]
奥山智也 (おくやま・ともや)
1981年生まれ、山形県出身。大学卒業後、専門学校で学び柔道整復師の資格を取得。トレーナーやコーチ、講師など多方面で活躍する。高校時代から陸上競技をはじめ、5000m競歩で全国高校選手権12位の実績。また、フルマラソンではサブ3を持つ
【HP】https://last-spurt-run.jimdo.com/
[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com
<Text&Photo:三河賢文>